――Once upon a time……  何時か、何処かのオハナシです。  そこにはシぬことを忘れた国がありました。その国にはオジョウサマという女の子がいました。 「ワタシはオジョウサマ。ミンナはワタシのこと、オジョウ、って呼ぶぞ。でも、執事のジイヤはワタシの こと、オジョウ様、って呼ぶけどな」  オジョウサマはまだハカからウまれたばかりのシにたてで、ずっとお城で暮らしていたので、とても外の 世界にあこがれていました。 「だって、ずっとおハカでこもってたらクサっちゃうだろ。もうクサってるけど。夜は短し歩けよオトメ!  あまり外に出ると干からびちゃうけど」  このオハナシは、オジョウサマが外の世界に出ようとするところから始まります。    今じゃない時。  此処じゃない場所。  朝は明るくて、空はキレイで、色々なモノたちがいて、なんとなく何時も楽しかった。  そんな世界のオハナシ。    ―第壱幕― 「オジョウ様! オジョウ様! お待ちください! オジョーサマァァアーン!」  ここはシぬことを忘れた楽しい国。ゆっくりとお休みというヒマもなく、今日も今日とて何時ものように、 朝っぱらからジイヤの声がひびきます。 「オジョウ様オジョウ様! オゼウサママァァァァアアアアーーン!! やっと追いつめたぞこのクソ小娘 (ビッチ)がっ!!」 「エエイ、ウルサいこの世話焼きジイヤ! ヌシはワタシをカソウする気か!?」  場所はお城の屋上。お城の中を逃げ回っていたオジョウサマでしたが、ついにジイヤと愉快なメイドたち に追いつめられていました。 「待ちたまえ! 良い子だから! さあ! 今日も立派なレデェーになるためにみちりとお勉強で満ちあふ れてますぞ!」 「フン。そんなもの、やってられるか。ワタシは今からマチへいくのだ。ジャマするでない」 「マっ……! また街へ行こうというのですか!? 幾度も申し上げているでしょう! あそこはイきてい る人の街でございます! そしてシんだヒトはイきている人とみだりに会うべきではないのです! 古来代 々昔から、そういう事になっているのです!」 「何故だ」 「面倒くさいからだよ色々と! 特に雇用とか固有資産とか権利とか大人の事情(性関係)とかな!」 「ぶっちゃけるなお前……。でも別にいいじゃん、かたっ苦しい。かるしうむ足らんのか? ジーヤのほー ねがポッキー♪」 「骨のことはいいだろ別に!! とにかくお戻りくださいませ! 今ならバツは『アルゴリズムたいそう〜 蒼天の夏編〜』ですませてあげますぞぉ!」 「いやそれはちょっとキツイ」 「じゃあ、オトガメなしですませてやるよぅ!」 「フン、だが断る。この城にシにウまれこの方、幾度もジイヤに止められたが、今日こそはこのノロわれた ローゴクから飛び立つのだ!」 「墓穴に片足どころか全身でぶち込んでる奴が何を言う! 乳ばなれもできないミル○ーはママの味が何を  言う! 下へ降りる階段はすでにホウイ済みだぜBaby!? いまさら何処へ行くというのかね!?」 「フン、鳥に路をたずねるオロか者よ。空に路はない!」 「ハァ↓ア↑ーン!? ならそこから飛んでみるかメーン!?」 「うん」 「え」  オジョウサマ、飛ぶ。 「オ、オゼウ様ァァァァアアアアン!!???」 「なんてな」  びょーん、とオジョウサマからヒモがのびます。 「流石にここから落ちたら内臓的なものがイヤーンだからな。このくらいの命輪ゴムはするさ」 「輪ゴムスゲー!!」  と、オジョウサマはテキパキと輪ゴムを切って、地面に着地します。 「お、おたわむれは良して下さい! シンゾウがまた動き出すかと思いましたぞ!?」 「新しいなー。さて、そういうことで。どうするジイヤ。ワタシはいってしまうぞ? なかなかどうして、 コトリは地べたを走るのも速いのだ」 「ぐぬぬ……」 「それとも。そこから飛んでみるか?」 「なめやがってぇ! なら飛んでやるとも! ああ、飛ぶさ! たかが屋上ていど。ナニ、シぬことなどあ りはせぬ! 大丈夫、ジイヤならできる! ソイヤッサァ!」  ジイヤ、飛ぶ。 「着地!」スタッ→ズボォ「落としアッナーン!?」 「だから大きな計画があると言ったろう。こんなこともあろうかと、落とし穴を作っておいたのだ。朝早く 起きるの辛い」 「ファック! めずしく早起きしたと思ったらそう言うことだったのか! おもわずホメてお菓子あげちま ったぜ!」 「トリック&トリート。イタズラの甘いキスさ。キサマはそこからそこにあるツナかヴェル○ースオリジナ ルでもしゃぶっているがいい、私からの手向けだ。ではそういうわけで、サバラ!」 「お、お待ちくださいオジョウ様ー(もぐもぐ)! ああ、ついにオジョウ様をお城の外へ……」  そういうわけで、今オジョウサマは街へ行きます。夢にまで見た、外の世界へ。こうして、オハナシが始 まります。 「あとオマエさっきからワタシのことバカにしすぎ。減給な」 「オゼウ様アアアアン!!(泣」  始まります……。  ―第弐幕―    ここはシんでる国からシタとかウエに行ったそんな街。イきている人がいっぱいで、イけてる人もいっぱ いで、イけられてるヒトもいっぱいです。 「ふむ、やはりこの街の料理はおいしいな。それにキレイだし。アッチじゃどうもムンクの叫びでドロヘド ロとしておるのがいるからなあ。やはり我が国もさいしんえーにするべきかな。とりあえず身体をロボット に……それってあいでんてぃてぃー的にどうなのだろう。タマシイの所在とは如何に。これがいわゆるてつ がくてきぞんび」  ぐりぐりもぐもぐ。 「それにしても、さすが、お店の人だ。ダレにでもびょうどうに食べ物を売ってくれる。カンジョーを抜き にしたカンジョウなカチカンがビョウドウをウむとは、いやはやふむふむ……」  と、解っているのか解っていないのか、オジョウサマがそんな事をくるくる考えていたところ。 「ん? おいアレ、シんだヒトじゃないのか?」 「うわ、ホントだ―。街に来るなんてメっズラスィー」  街の子供たちがオジョウサマを見つけました。 「よおよお、お嬢ちゃん。シんでるくせになに街になんか来てんだよ」 「そうだそうだー。カラスが来てめいわくなんだよ」 「バイオ○ザードごっこなら向こうでやるんだな」 「言っておくが、お前のゾンビスマイル何て可愛くないんだからな。ホントだからな」  子供たちがオジョウサマにそう言います。 「ん? ん? それはケンカ売ってるのか? イジメというやつか? まあ、別にいいだろう。それくらい のこと、ジイヤからちょーきょーずみだ。ワタシはふところがデカいからな、許してやる」 「調子にのんなメスガキがー! 水かけろ水! 身体をキレイに洗ってやれ!」バシャーゴシゴシ 「うわっ! 何をする! ちょ、止め、体こすったらとけちゃうううう!」 「香水かけろ香水! 良い匂いにしてやれ! オブツはしょうどくだー!」プシャー 「うわっ! 何をする! 変な臭い……けんっ、けんっ……!」 「ずいぶんとキレイになったなあ! ざまあ見ろ!」 「コレにこりたら二度とこの街の土をふまないこったな!」 「土のシタにウまるならけっこうだがな!」 『ワハハハハハハハまそっぷ!?』スパコーン  子供たちはオジョウサマに思いっきりなぐられてたおれました。 「ぐぬぬ……わ、ワタシはふところが…………う、うわーん!」  オジョウサマは、ナきながらその場から逃げ出しました。 「だからってムカつくんだぜクソッタレー!」  オジョウウサマは街外れの川原で、石をいきおいよくけりつけました。  辺りはすっかりカラスが鳴いて夕焼けで、何だかオジョウサマは、この世界で一人ぼっちな気持ちになり ました。 「何だよアイツら。バカにして」  イジイジ。川原で石をつみあげます。 「全く、シんだヒトの何が悪いっていうんだコンチクショーめ。アイツら、シんだことないからそういえる んだ。シんでから言えってんだこのばかやろー」  イジイジ。川原で石をつみあげます。 「……ジイヤの言う通りなのかな。やっぱり会わない方がいいのかな。シんだヒトじゃダメなのかな。ああ、 思いえがいてたユメは思ったほどキレイじゃなくて……あーぼうよーぼうよー……心折れそーぶろーくんは ー。内側からハートのカケラがグッサグサー。チヘドをはいてベッタベター。あー、海のモズクになりたい。 まちがえた。モクズになりたい。ここ川原だけど。いやならんけど。でもモズクはおいしいよね。あダメだ 食べられる」  イジイジ。イジイジ。イジイジ。イジイジ。  るーるるー。 「えーい、もうこんな世の中に何ていられるか! 絶望した! 仲間はずれにされるこの世界に絶望した! オレは元のハカバに帰るッ! サバラ!」どっぱーん  そう言って何と、オジョウサマは川原へと飛びこんでしまいました! 「いややっぱダメだコレ苦しいシぬシぬシぬーっ!!」  身体がスカスカしたオジョウさまは泳げませんでした。  ああ、このままオジョウサマは海の……ちがった、川原のモズク……またちがった、モクズになってしま うのでしょうか?  しかし、その時、  ――バッ  人かげが、川原の中へと飛びこみました。  ―第参幕― 「うおー、もう少しでシぬところだった。ビックリした。もう少しでシぬところだった。ビックリした。ヤ バかった……」  ぜー、はー、と息をあげるオジョウサマ。 「あー、やっぱりダメだ。シぬのは苦しい。どうしよう。もうお世目に行けない……」 「――大丈夫?」  そう声が聞こえて、ハッ、とオジョウサマは顔を上げました。見ると、そこにはオトコノコが座っていま した。 「お前が……助けてくれたのか?」 「うん」 「そうか……礼を言う。ありがとう」  オジョウサマはオトコノコから目を離しました。なんとなく、泳げなかったことが恥ずかしかったのです。 「……ねえ。キミ、いくつ?」  オトコノコがそう言いました。 「……2ひゃく4じゅう4さい」 「まだ若いじゃないか。しぬには早すぎるよ」 「ところがどっこい、もう死んでます」 「あ、そうだった」 「後もう一つ言っておく。オマエにワタシのなにがわかる! これ一度言ってみたかった」 「あ、ボクも。いいなー」 「ふふーん。ブイブイ……って、そうじゃない」  オジョウサマはちょっとうれしくなりましたが、先程の事を思い出して、また嫌な気持ちになりました。 「……良かったら、話してくれる?」  オトコノコのその言葉に、オジョウサマはチラと目を向けました。 「ハナシって、何を?」 「何でそんなに嫌な気持ちなのか。少しは、わかるかもしれないから」 「………………」  なんで話さなければならないのか、わからなかったけど、何となく話したい気分だったので、オジョウサ マは今日のことを話しました。 「ふーん、それで……」 「どうせ、オマエもミンナと同じだろ? 仲間はずれにするんだ」 「仲間はずれ?」 「そうだ。仲間はずれだ。ミンナ、ワタシを置いてけぼりにしちゃってさ」 「置いてけぼり……」 「やっと外の世界に来たのに、これじゃあ、来たイミなかったな。ムイミだった」 「むいみ……」 「ええい、もうミンナシねばいいんだー!」 「…………」 「どうせ、オマエもワタシのこと、仲間はずれにするんだろ?」 「? いや、別に?」 「え、いや、別にって……しないのか?」 「うん、しない」  オジョウサマはポカンとしました。 「え、いや、でも、ワタシ、シんでるぞ?」 「見ればわかるよ」 「泳ぎニガテだから、またシズんじゃうかもだぞ?」 「その時はまた助けてあげるよ」 「カラス寄ってくるからオクサマがうるさいぞ?」 「可愛いもんだよ」 「バイオごっこしたら撃ってくるだろ?」 「助けてあげるよ」 「割かし臭うぞ!?」 「チーズみたいなもんでしょ」 「まさかキサマそっち系の奴か!?」 「興味がなかったわけでもない」 「マジかー!?」 「ねえ、さっきから何かと言ってくるけど、僕を遠ざけたいの?」 「いや、そういうわけでは……」 「だったら、ボクが友達になってあげようか?」 「え……?」 「ああ、あげる、はなんか違うね。ウン、キミの友達になりたいな」 「…………!」  その時の気持ちを、オジョウサマは何といったらいいかわかりませんでした。  あたたかいような、驚いたような。  けど、確かなことは、オジョウサマはオトコノコに恋をしたということでした。 「ほ、本当か? 本当に友達になってくれるのか!?」 「うん、別にいいよ」 「ウソついたらダメだぞ! 付いたらツチにウめるからな!」 「はいはい」 「やったー! 初めてのゲボクだー!」 「はいは……ゲボク?」   それからというものの、オジョウサマは今日も今日とて、オトコノコの元へ遊びに行くようになりました。 「では行ってくるぞ、皆の者!」 「お待ちくだされオジョウサマ! オジョウ様オジョウ様オジョーサママァァアーン!」 「何だジイヤ。外出の件は夜に話し合って決まっただろう。『ジイヤのお約束は守る。その代わり外出を許 可する』と」 「ええですとも。一度外を知ったのです、いまさら引き留めることなど無駄でありましょう。ボソボソ…… (それに、このオテンバ娘のことだ。どうせすぐに飽きるだろう……)」 「何か言ったか?」 「何も言ってないですん。とにかくですねオゼウ様! それでもやはりみだりにイきた人と、それも殿方に 会うというのは、清らかな愛を貫く男、紳士ジイヤとしては決して賛成していないことをお忘れなきよう!」 「あーもーオジョウグッジョブダイジョウブだ。このオジョウサマに任せませう」 「本当ですか? ちゃんと決まりごとは守るのですぞ。第1条! 日が暮れるまでには帰ること!」 「わかっておる」 「第2条! 危険な場所にはいかないこと!」 「わかっておる」 「第3条! 知らない場所には行かないこと!」 「わかっておる」 「そして第4条! 幾らそのはなたれマシンガンこぞうと雨の中『今日、ワタシ帰りたくないの……』的な 展開になってTWO LOVEるなHOTELに突撃ラブハートして『俺のマイソンがHOT☆LIMIT ッ!』しそうになっても決して二人でぐりぐりもぐもぐやにゃんにゃんアッーなことなど全く持って決して しないこ――――!」 「ええいもうわかっておるっつーだろうに! 昨日の夜、子守唄代わりに歌われたら流石に覚える! 門で オトコノコが待っておるのだ! もう私は行くぞ! ではなっ!」 「アーっ! 行ってらっしゃいませオジョウ様ー! ああ、お元気そうで何より。しかし、イきてる者と会 うなど、これは喜んでいいのか、悪いのか……」 「全く、ジイヤときたら耳にタコができる。今度ジイヤの寝込みを襲ってタコ入れてやろう。しょくしゅが 好きとか言ってたし。む、オトコノコだ。おーい!」 「あ。やあ、オジョウサマ。おはよう」 「うむ、おはようだ! よーし今日も遊ぼう! でもその前にワタシはノドがかわいたぞ! 何か飲み物を 買ってこい! もちろん、オマエの金でな!」 「それパシリじゃないの?」  それからというもののの、オジョウサマは明日もあさってもとて、オトコノコの元へ遊びに行くようにな りました。 「なあ、オマエは何処に住んでるんだ?」 「いや、ボクには家がないんだ。加えて言えば親もいないし友達も、ああ、キミ以外にはいないね。元々は あったけど、無くしちゃった」 「ふーん。なんで無くなったんだ?」 「忘れちゃった。色々と頑張ってた気がするけど、気付いたらこうなってた。多分、どっか置いてきちゃっ たんだろうね」 「ふーん、そうか。まあ、別に無くてもシにはせん。そして無ければ作るのみ! そうだ、ならワタシと一 緒に住まないか? ジイヤは怒るだろうけど、ウめてやればいいさ」 「それはえんりょしておくよ。ジイヤさんに悪いしね」 「別にいいのにな。でも、寂しくはないか?」 「時々、とても寂しくなるよ。とてもね。でも、今はオジョウサマがいるから」 「ふふん、そうだろ。私はひゃくにんりきだからな。友達力ひゃくだぞ。一年セイになっても私一人いれば 大丈夫だ! ゆくゆくはワタシの友達力は5じゅう3まんくらいにはなる予定」 「それはすごいね。あ、あと、加えて言えばお金もない。主にパシリのせいで」 「む、ならジイヤのお金を使えばいい。アイツ、ヘソクリかくす場所バレバレだからな」 「そうなんだ」  お城にて。 「またヘソクリパクられたチクショォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!」  それからというものののの、オジョウサマは来年も再来年もとて、オトコノコの元へ遊びに行くようにな りました。 「ワタシたちの国はウまれないから、代わりにシにたい人を受け入れたり、たまにツジギリしてヒトをふや すんだ」 「ふーん」 「だから家族っていっても血がつながってない奴らもいるんだ。ワタシはオカアサマとオトウサマと血がつ ながってるけどな。もう二人ともいないけど」 「もういないの?」 「ああ。シんだヒトのタマシイは、サビびついたらもう動かなくなるんだ。そしてオカアサマは動かなくな った。オトウサマはイきた人らしいけど、イきたまましんじゃった」 「ふーん」 「ワタシたちの国はツクらないから、もらったり拾ったり、コワして何かを得たり、家が欲しい時はてっと り早く他人の家をコワしてそこに住むこともあるんだぞ」 「ふーん」 「とはいっても、全くつくらないというワケじゃないけどな。でも作ると言ってもそういうのは、お祭りと か記念日の日だけだな」 「ふーん」 「というわけで、新しいヒミツキチのためにジイヤの家をコワすぞ」 「わかった」 「ヤメたげてよオオオオオオオオオオオオオ!!!」  その5年後も、 「ねえ、どうしてオジョウサマは外の世界に出たかったの?」 「だって、きっと楽しいだろうから! それに、お城でこもってるならオハカでうまってるのと変わりない しな」 「お城の中は退屈だったの?」 「退屈じゃないさ。ジイヤとかメイドとかいたしな。友達もいたぞ? シんだやつらばかりだったけど。で も、それでも外の世界に行きたかったんだ。アコガれだったから」 「そう。それで、何か面白いことはあった?」 「もちろんだとも! ワタシはオマエといて、とっても楽しいぞ」 「そう」 「そうだとも! そうだ、何時かタビをしよう。さわがしい仲間を連れて、此処じゃない何処かへ、ずっと ずっと遠い何処かへ行けたなら……それはきっと、とても楽しい」 「うん……そうだろうね」 「その時はお前も一緒だぞ。うれしいだろ」 「うん、うれしいよ。できるといいね」 「『できると』じゃない! するんだ!」 「はいはい」 「信じてないなお前……。まあいいや。でも、今日は外に出ないでお城で本を読もう。ジイヤのポエムを見 つけたんだ。これは面白いぞ」 「うん、わかった」 「ヤメロガキどもオオオオオオオオオオオ!!」  じゅう年後も、 「よぅし、写真をとろう!」 「写真?」 「うむ、福引でCAMERAとかいう奴が当たった。手始めに私達でとってみよう。ジイヤも入れてやるか」 「ワタクシもですか? しかし見ての通り、いまちょっと重要な書類を書いておりまして……」 「それ愛人への手紙だろアホ。あ、ワタシが真ん中な! オマエはワタシの左で、ジイヤが右な」 「わかった」 「よーしとるぞー……って、オマエ、ちっとも笑わないのな。こういう時は笑わうといいよ」 「ボクのこと?」 「えくさくとりーだ」 「そう? 笑ってるけど」 「顔は笑ってるけど、気持ちがこもってない。そういうのわかるんだ、ワタシたちは」 「ふーん」 「もっと楽しくイきないと損だろ。人セイってそんな損なものじゃないんだぞ」 「ハハハ」 「ダジャレじゃないっ!」 「オゼウ様ー、早くとってくれないかなー」  2じゅう年後も、 「ねえ、オジョウはどうしてイきてるの?」タタタ 「? シんでるけど?」タタタ 「そうだった。じゃあ、夢はある?」タタタ 「あら、突然ね。どうして?」タタタ 「なんとなくかな。でも、誰でも考えることだと思う。それで、ちょっと考えてたら、キミの夢が知りたく なって」タタタ 「あら、嬉しいこと言うのね。そうね。昔から変わらないわ。このオジョウには夢がある。この世界の果て へ、その向こうへ行くことが、ワタシの夢。何時かタビに行くと言った、あの時と同じ」ダダダ 「そういえば、そんなこともいってたね」タタタ 「なんだかんだで行けてないわね。まあ、このままでも楽しいから、しばらくはこれでもいいけど」タタタ 「そう……」タタタ 「あと、来週は『マホウ少女キルゼムオール』の最新コミックが出るの。それを読むのも夢ね」タタタ 「それ後3週で打ち切りだけどね」タタタ 「なん……だと……?」タタタ 「ざんねんだね」タタタ 「本当だよばかやろー! はあ。でも気を取り直して、キミは何か夢があるの?」タタタ 「うーん、昔は夢幻の恋人探しってところだったかな」タタタ 「それどういう意味? 気取ってるの? バカなの? ウまるの?」タタタ 「まあ、今は無いよ」タタタ 「あら、諦めちゃったの?」タタタ 「まあそんなとこ」タタタ 「じゃあ、今は何でイきてるの?」タタタ 「さあ、なんでかなあ。先に沈んでたヒトを助けて機を逃したからか、ちょっと期待してるのか、それとも ただの慣性か……」タタタ 「? 時々アナタはよく解らない事を言うわね。まあとにかく、今アナタのイきる意味は、此処から逃げる ことよ。早くしないとジイヤに追いつかれるわ」タタタ 「そうだね」タタタ 「待てやゴラァアアア! ワタクシの大事にしていたプリン食いやがってええええ!!」ズダダダダダダダ  3じゅう年後も、 「もし、アナタがシぬ時は、ワタシの国に入ればいいわ」 「どうやって入るの?」 「ワタシの国の土にウめたら、もうワタシの国の住人よ」 「何そのさいばい方法」 「体を入れかえれば何時だって新品どうぜんの体になれるわ」 「その体は何処から」 「市場に行け子供のおこづかいで買える程度のお値段です」 「それはキンキだよ」 「だからキレイなヒトはキレイなのよ?」 「でもキミの身体はボロボロだね」 「だってキレイなの汚すとジイヤがうるさいなの」 「だから最初から汚す、と。まあ、ボクはキミの国には入れないと思う。多分、シんだらそのまましんじゃ うと思うから」 「そうなの?」 「うん、たぶんね……」  時計が1からじゅう2をぐるりと回り、月が1からじゅう2をぐるりと廻り、  春に目覚め、夏に遊び、秋に懐かしみ、冬に眠り、  そうやって、  ずっと、 「オジョウ様オジョウ様! オジョーサママァァアーン!!」 「あーもーうるさいシね」 「すでにでございますオゼウ様! いやそれは置いといてでございますね! またあのクサれガキの元へと 行くつもりですかオゼウ様!」 「行くつもりだしオマエのワキの方がクサってるから」 「ほげー! 全く持って毎日毎日エヴリィデーイ! すぐに飽きると思えば何時までも味の無いガムをアマ ガミしよってからに! あんなクソガキの何処が良いっていうんですか!?」 「べ、別にお前に言う理由は無いだろ」 「んまあ照れちゃって! あの下等セイ物があああああ! アノヤローもしや夜な夜なオゼウ様とロマンテ ィックあげるよアゲアゲEVERY☆NIGHTで初めてのチューかっとばして恋のCCレモンちゃんくぎ ゅうううううなんてシてヤがっちゃってたりしているんじゃないだろうNA嗚呼呼呼呼ッッッ!!!???」 「ちゅーも何もしておらぬわアホ!」 「シツレイを承知で申し上げますがオジョウ様! アナタのお目々はオクサっていらっしゃるのですか!?」 「オクサっているし右目にいたっては抜け落ちてるぞ」 「アレまコイツァ一本取られた!」 「一本取ったついでにワタシにナメたタイドをとったバツとして右ウデ一本もぎっちょのケイな」ぶちぃ 「いったぁぁあああい!!」 「そして減給な」 「一体どこまで減らすつもりですか!」 「うっさいシね」 「だからもうシんでますぅー!」  ずっと、 「オジョウ様オジョウ様オジョーサママァァアーン!!!!」 「そろそろウザいぞお前……」 「そうは言ってもでございますね! やはりジイヤとしてはそうみだりに……」 「はいはいそうでちゅねおじいちゃーん。今度ゆっくりお話しましょうねえ。ではな」 「ぐっへあ! 何と憐れみに満ちたなま暖かい眼差し! しかしめげない! しょげない! でも泣いた数 だけ強くなるぅ! ジイヤは外出を許可すると言いましたが、邪魔しないとはいってませぬぞ! 今更なん ていわせない! というわけでお化けトリオ、オジョウ様を邪魔するのです! とりあえずアイツの見た目 をバカにして人前に出られなくしてやれ!」 『はいなー(×3』ふわふわ 「む、何だお前達」 『ねえねえオジョウサーン。またオトコノコに会いに行くのー?』 『でも何回も会ったってイきたヒトには合わないと思うよ〜?』 『だってえ……』 『イタんだ髪!』『穴ぼこ目!』『クサった肌!』 『それでオトコノコに会おうなんて、本気〜?(×3』 「? 何か変か? お前たちはワタシのこと変と思うか?」 『まっさかー。ボクたち、オジョウサマが大好きだよー』 『何時もご機嫌麗しゅう〜』 『掃除機で吸わないしねえ』 「なら良いではないか。では、行ってくるぞ」 『行ってらっしゃーい(×3』 「てコラー! オジョウ様を邪魔しないでどうするんです!」 『いってもねー。ボクたち身体のないお化けにしてみれば、見た目はどうでもいーっていうかー』 『イきてる人もシんでるヒトも変わらないしね〜』 『むしろ汗とかかかない分、シんでるヒトの方がおキレイい?』 『牛乳をかけまして』『チーズを溶く』『その心は?』 『どっちも美味!(×3』アハハハハハハ 「えーい役立たず!」 「あとお前減給な」 「ワタシの給料はもう0でございますよ!?」 「ついでにお化けにでもなればいい」 「レイだけに、ってか。やかましいわ!」 「やかしいのはお前だ……」  ずーっと、 「ねえ!」 「なに? オジョウサマ」 「ワタシ、アナタのこと好きよ。ライクじゃなくてラブの方ね」 「そうなんだ」 「そうよ。知ってた?」 「ううん、知らなかった」 「だったらもうちょっと驚きなさいよ」 「そうだね。でも、それを言うならキミもそれらしくしなきゃね」 「それらしくって?」 「例えば……何だろ。体を綺麗にするとか?」 「こ、この頃はキレイにしてるもん! お前までシイヤみたいなこと言うのか! ワタシは汚いのか!?」 「ううん、全然? そういうのよくわかんないし」 「じゃ、じゃあ、いいじゃない。別に」 「それじゃあ、恥ずかしがるとか?」 「それってさり気にワタシのことバカにしてるのね。そうでしょ。コレでもワタシ、シぬつもりで告白した のよ? 照れかくしに何時も通りふるまってるのがわからないの?」 「うん、ごめんね」 「つれないわね。まあいいわ。重要なのは、アナタもワタシのこと好きなのかどうかよ。どう?」 「さあ、どうかな」 「あら、つれないのね。それはどうでもよくないわ。とても寂しいから」 「そう。じゃあ、キミがボクのことを好きと言うなら、ボクもそれと同じくらいキミのことを好きになるよ」 「そういうことじゃないわ。全く」 「ごめんね。そういうこと、よくわからないから」 「全く、つれないわね。寂しいわ」 「ごめんね」」 「そうよ。とにかく、ワタシはアナタのことが好きだから。覚えておいてね」 「うん。そうする」  すえながく、オジョウサマはオトコノコと幸せに―― 「などと、いくわけがない」  しかし、おとぎ話のオハナシのように、すえながく幸せに、というわけにはいきません。  何時かは、オワリが来るのです。 「ムリなのです。イきている人とシんでいるヒトが、ずっと一緒にいることなど……」  ジイヤは言います。 「ワタシが、やらなくては……」  ジイヤは決意します。  そして…… 「……久しぶりでございますね、オトコ様」  ジイヤは、オトコノコの元へと行きました。  いえ、もう、コではありません。  オトコは川原にいました。家がないので野宿です。  いえ、家だけではありません。  そこには何もありませんでした。  オトコには何もありませんでした。  住む場所も、友にいる仲間も、育ててくれる親も、目指す夢も、何も。  風は冷たく、寂しさを感じさせます。  辺りは夜で、まっ暗です。 「ああ、これはジイヤさん。お久しぶりですね」  そう語る姿は暗くて、よく見えません。 「ずばり言います。もうオジョウ様には会わないでほしい」 「…………」 「オジョウ様は、これまで外の世界や、イきてる人とは無縁でイきてきました。特に、しに別れる、などと いう事とは」 「…………」 「イきている人は、やがてしぬ。解るでしょう? オジョウ様に、悲しい思いをさせたくないのです」 「でも、何時かはしますよ」 「3びゃく数じゅう年もしなかったのです。外の世界とは出来るだけ遠ざけ、イきているモノ達とは親しく させず、ましてや恋慕の情などもっての外。今日までそうしてきましたし、今後もそうしていくつもりです」 「……じゃあ、ボクがアナタたちの国に入れば?」 「それは……ムリでございますね。タマシイを見ればわかります。アナタ様のタマシイはもうしんでます。 ワレワレが肉体しねどタマシイしせずというのなら、アナタ様はその逆。まれにいるのですよ。そう言う モノが」 「……見えるんですか?」 「普通の人にもできますよ。あまりにも肉しか見ないだけで。しかし、タマシイのし、ですか。めったにあ ることでもないでしょうに。それは諦念ですか? 見切りですか? もはやどうでもいいのか。イきること も、シぬことさえも。まるで、ただの慣セイの法則。アナタ様は一体、どのようなイき方を……。いや、イ き方といっても、アナタ様はもうすでにしんでいるのも同じなのかもしれませんが……」 「…………。……どのような、ですか。そうですね、夢見るあまり、夢魅入られたってところでしょうか。 何てことない、信じていれば夢は叶うを、地で行った末路ですよ。そう、珍しくない、何てことない、ね。 そのせいで、もう何をしてるのか、何をしたかったのかも、よくわかりませんよ」 「…………これ以上、オジョウ様をまどわせないでほしい。アレは、拾った子イヌを育ててるだけです。一 度ワカれれば、また別の子イヌを探します。それに何よりも、オジョウ様は知らないのです。アナタ様が、 本当は、オジョウ様を何とも思っていないという事を」 「…………」 「だから、もう会わないでほしい。できるなら、街を出て行ってほしい」 「イヤだと言いましたら?」 「イタがっても、『イタみの感情』はありますまい。ならば、コチラの心もイタみませんぞ」 「それは酷いですね。じゃあ、言われたとおりに出て行きましょう。でも、どのみちもう会えないでしょうが」 「? それは、どういう意味で……」  と、ジイヤは気づきました。健全なタマシイは、健全な肉体に宿る。その逆も然り。 「なるほど。アナタ様はタマシイだけでなく、肉体も、もう……」 「そういうことです。もう長くはないんですよ。惰セイでここまできましたが、そろそろ終わりみたいです」 「……申し訳ございませぬ」 「心はイタまないんじゃなかったんですか?」 「それが、イきているということですよ」 「…………オジョウサマには、旅に出る、とでも伝えておいてください」 「わかりました。……では、最後に、無遠慮ですが、ワタクシは祈っております。アナタに、その来るべき 日に、『素晴らしき日々だった』と言えますように。さようなら」 「そちらも、素晴らしき日々を。さようなら」  そう言って、オトコは街から出て行きました。  オトコの言づけを聞いたオジョウサマは驚きました。 「そんな! なんで急に!?」 「さあ、わかりませぬな」 「うっさいわかれ! ワタシ、追いかける!」 「いけませぬぞ、オジョウ様。言ったでしょう。イきている人とシんでいるヒトは一緒にい無い方がいいの です。良い機会です。ワカれましょう。あのオトコと一緒にいても、フコウになるだけですぞ」 「そんなのわからないだろう!」 「だったらわかってくださいまし」 「わかるものか! そこをどけ! ワタシが通る!」 「もう遅い。追いつけませんよ」 「減給するぞ!」 「ワタシの給料はもう0でございます」 「ならマイナスになれ!」 「それでもけっこう。ここは通しませぬ」 「何故だ!? 何故そんなにもワタシの邪魔をする!?」 「………………」 「ジイヤっ!?」 「オカアサマのようになりたいですか?」 「…………っ!」 「オクサマもイきた人に恋した。しかし二人はずっと一緒にはいられなかった。旦那様はイきたまましぬこ とを望み、またオクサマも同意した。わかるでしょう? アナタ様も同じ目にお会いになります。彼はこの 国の住人にはなれませぬ。そして何時かワカれの時が来る。そうなる前に、こうしてワカれた方がまだ良い のですよ」 「それでもオカアサマは好きな人と一緒にいられたから後悔なんてしてなかった!」 「そしてオカアサマはタマシイは寂しさに錆びついた」 「それでも最後までずっと一緒にいたことを悔いてはなかった!」 「そして最後まで立ち直れなかった」 「それでも! それでも……っ!」 「なら言いますがね。カレはオジョウ様のこと、何とも思っていませんよ。カレのタマシイはもうしんでい る。例え1まん年と2せん年かけても、カレはオジョウ様のことを一片たりとも愛することなどないのです」 「そんなことはわかっている!」 「――――。なんと……」 「ワタシだってシんでるヒトだぞ。タマシイの見方くらい知っている。だがそれがどうした。好きなのだ!  ワタシの初めての友達になってくれたのはアイツなんだ。何時も一緒に遊んでくれたのはアイツなんだ。ア イツみたいな馬鹿は何処にもいないんだ。ふり返ってもらえなくても、ホレがいがあるのだ! 1まん年と 2せん年はおろか加えて8せん年さえ過ぎたとしても、この気持ちは変わらない! 何処の誰でもない、ワ タシは、アイツだから好きなのだ!」 「…………」 「…………オカアサマは……」 「…………」 「最後まで寂しそうだったけど、最後まで、幸せと言っていたぞ……」 「…………。……………………」  ジイヤは、目をつむりました。 「……そうですか。ならばもう何も見ません。言いません。聞きません。行くなら勝手に……」 「さらばじゃ!」 「まだセリフの途中……」  オジョウサマはお城を飛び出していきました。 「…………あのコが恋に落ちる瞬間を初めて見てしまった。まいったな……」  ―最終幕―  オジョウサマは走りました。走って、走って。  街をこえ、坂をこえ、丘の上へ――。  夜は暗くて、星は遠くて、何だかオジョウサマは、この世界で一人ぼっちな気持ちになりました。  それでも目指す場所があったので、オジョウサマは一ショウ懸命走りました。 「はあ……はあ……胸が痛くてシにそう。シなないけど。でも痛い……」  でも、何処にも見あたりません。もう、会うことはできないのでしょうか。 「そんな。初めて、会えた人なのに。初めて、ゲボクにさせられたのに。初めて、外で一緒に遊んだのに。 初めて、好きに、なったのに……。もう、会うことも、パシることも、遊ぶこともできないのか?」  オジョウサマは泣きだしました。 「そんなの、あんまりだ……」 「でも、一人でも好きになることはできるわけか」 「あ……」  路ばたの木の影から、人が出てきました。  オジョウサマは涙をふいて言います。 「……どうして、一人で行っちゃうの? タビに出るなら一緒に、って約束したじゃない」 「そうだね。やっぱり一人じゃ寂しいみたいだ」 「バカ……」  オジョウサマはオトコに抱き付きました。そのオトコの顔はもうしわくちゃのかさかさで、 目は夜のようにまっ暗で、髪は星のようにまっ白です。 「もうオジサンね。しわくちゃのまっ白々すけ。中身はずっと子供なくせに」 「キミは初めて会った時から変わらないね。見た目も中身も、ずっとむじゃきな子供のまま」 「中身はもうオトナよ」 「そうなの?」 「うん、そうよ……」  何となく、オジョウサマにはわかりました。  どんどん、オトコの身体が冷たくなっていくことが。 「ジイヤさんに遠くに行くように言われたんだけどね。疲れててムリだったよ。スミマセン、って言ってお いてくれるかな」 「あやまる必要なんてないわ。本当に、あのバカはおせっかいね。後でウめておくわ」  でも、すでに自分の身体が冷たいから、それでも暖かかったのでした。 「ねえ、ワタシの国に来ない?」 「それはムリだよ。ジイヤさんが言ってた。ボクのタマシイはもうしんでるから」 「知ってる。言ってみただけ」  でも、ああ、カレの身体を暖められない、この身体がもどかしい。 「…………ねえ、ワタシがどうしてアナタのこと好きか、知ってる?」 「知らない」 「特に理由なんてないわ。きっと、最初に友達になったのがアナタじゃなかったのなら、ワタシ、その人で も良かったと思うわ。ただ、ずっといてくれたのがアナタというだけで。そういうもの。そういうものなの よ? イきるって。花を見るたびに、キレイ、って思えるの。知ってた?」 「いや違うね」 「え……?」 「キミがボクに会わなかったら、キミは恋なんて知らずにシんでいただろう。そう断言するよ。少なくとも、 キミみたいなヒトとこんなにまで付き合うイきている人は、ボクくらいだ。数多ある花々の中から、キミこ そが美しいと思ったんだ」 「…………」 「何て言ってみたり」 「……バカね。だからイきるのが下手なのよ。これは知ってたでしょ?」 「うん、それは知ってた」 「……バカね」  だから、その代わりに、こうやって抱き付くの。 「ごめんね。許してもらおうなんて思ってないけど。ボクはキミのこと、何年何じゅう年かけても、何とも 思っちゃいなかった」 「許すわ。それでもワタシはアナタのこと、何年何じゅう年も思ってる。そしてこれからも。だからワタシ、 何時までも幸せよ」 「勝手だね」 「そういうものよ」  そして、せめて祈るの。 「……ああ、それで良かったのか」  やがて来る、ワカれの時が、 「ボクが選んだ花をボクの代わりにキミが見て、キミがその花を美しいと思ってくれればそれで……そうす れば、きっとボクも、美しいと思ったということだから」  何時か来る、その時が、 「……ボクは、ここで立ち止まってしまうけど」  どうかせめて、 「キミは、どうかこの先へと進んでほしい」  せめて、 「ボクの代わりに、キミが幸せになるように……」  安らかになりますように、って……。 「お願いだ……」 「勝手ね」 「そうなのかな……」 「ええ、そうよ」  オジョウサマは身体を離し、優しく言いました。  まるで子を抱く親のように。 「帰りましょう。夜は冷えるわ」 「うん」 「ララバイなんている? 子守唄のことよ?」 「……うん」 「そう。じゃあ、お休み。バイバイ、安らかに」 「…………うん」 「……ありがとう、さようなら。好きよ」 「うん…………こちらこそ。ありがとう、さようなら。ボクも………………」  そうして、オトコノコは、目を閉じていきました……。  月日は流れて。 「オジョウ様! オジョウ様! お待ちください! オジョーサマァァアーン!」 ここはシぬことを忘れた楽しい国。ゆっくりとお休みというヒマもなく、今日も今日とて何時ものように、 朝っぱらからジイヤの声がひびきます。 「オジョウ様オジョウ様! オゼウゼウゼウオゼウサマァァァアーーン!! やっと追いつめたぞバカ娘!」 「エエイ、ウルサいこのおせっかいジイヤ! キサマの思いは重すぎる! 主はワタシをドソウするきか!? てゆーかなんだそのスーパーマンみたいなかけ声は!?」」  場所はお城の屋上。逃げるオジョウサマが、ジイヤと愉快な仲間たち(メイドやHENNTAI)に追い つめられています。 「待ちたまえ! 良い子だから! さあ! 今日もみちりとお勉強で満ちあふれてますぞ!」 「フン。そんなもの、やってられるか。ワタシは今から人の街へおりていくのだ。ジャマをするでない」 「マっ……! また街へ行こうしているのですか!? 何度も言っているでしょうオジョウ様! 子供の頃 ならいざ知らず、今ではオジョウ様は立派なオジョウ様! 遊んでいる暇などないのです! それにジイヤ は聞きましたぞオジョウ様! 最近、街に行っては子供たちをゲボクにして遊んでいるようではありませぬ か! もうワタクシは近所や親やPTA(パンはパンでもアン○ンマンの会)から苦情さっとう雨あられで すぞ!」 「別にいいじゃん、かたっ苦しい。ワタシも聞いたぞ。さいきん、サラマンダーと人魚とハイエルフとで三 股かけてるらしいな。どんだけせっそうないんだよキサマは」 「な、何故それを!? い、いやそれとこれとは無関係です! とにかくお戻りくださいませ! 今ならバ ツは『アルゴリズム体操〜白雪の冬編〜』ですませてあげますぞぉ!」 「いやそれはちょっとキツイ」 「じゃあ、オトガメなしですませてやるよぅ!」 「フン。だが断る」 「ハァ↓ア↑ーン!? ならそこから飛んでみるかメーン!? 言っておくが、キサマが朝ほっていた落と し穴はすでにウめ立てづみだぞ! あの頃のジイヤとは違うのだ!」 「あっそ」  ぴょーん、とオジョウサマが屋上から飛び降ります。すたりと着地。 「ハハハ! バカめ! すぐに後を追ってやる! とくと驚け見て笑え! ワッ! ホホゥッ! イイィヤ ッフーィ!」空中三前転  ジイヤ、飛ぶ。 「着地!」スタッ→ズボォ「なんでだYOU!?」 「さいきん、チカで巨大ミミズと友達になったのだ。オマエが落とし穴を埋めた後にまたほってもらったぞ。 ではそういうわけで、サバラ!」 「お、お待ちくださいオジョウ様ー! ああ、あの引きこもりのチカの国で知り合いを作るとは、なんと もすばらしい友だちづきあいで……」 「そう言えばジイヤ、たまには給料上げてやろうか?」 「下げろよ!」 「ええぇー……」 「あ、いや、上がった方が嬉しいのか。何か金銭感覚が……」 「ダメだコイツ、早く何とかしないと……」  年を重ねて、オジョウサマは立派なオジョウサマになっていました。今ではお城の中でこもっていなくて、 何時も外の世界で遊びます。友達もいっぱいで、もう一人ぼっちではありません。 「久しぶり。また会いに来たわ」  オジョウサマはオトコノコに会いに来ました。 「ねえ、聞いて? またワタシのことジメめてくる人がいるのよ。きっと、アレはワタシのことが好きなの ね。タマシイの色でわかる。あんまりシツコイから、ウめちゃおうかしら」  空はもう紅の色。カラスがカーカーなく時間。彼方を見わたす丘の上で、オジョウサマはオトコノコの隣 に座って、語ります。 「焼きもちとかする? しないかな。きっとキミは、『フーン』っていうだけね。つれないわ」  オジョウサマは、オトコノコを見ました。そこにはオハカが一つと、写真が一枚と、お花がポツンとある だけです。オトコノコは、やっぱりあのまましんでしまいました。 「ごめんなさいね。もうちょっとしたら、ワタシ、タビに出られるわ。もうすぐ街でお祭りがあるの。ソレ が終わって、色々して、もっと色々として、後はジイヤに押し付けて。そうしたら、一緒に行きましょう。 なんだかんだと先延ばしにしちゃったけど。でもやっぱり、憧れるから。さわがしい仲間と、此処じゃない 何処へ……」  オジョウサマは語ります。 「ねえ、見える? お空がとてもキレイよ。ねえ、聞こえる? ミンナお祭りの準備で大忙し。ねえ、匂い がする? 土や花の香りがとても落ち着く。ねえ、気づいてる? 風が少し寒くて、もう冬ね。ねえ……」  オジョウサマはほほえみます。 「ねえ、感じてる? ワタシ、今、とっても幸せよ。そして、きっとこれからも。ねえ、世界はこんなにも すばらしいわ。そしてたぶん、きっと、もっと、もっと知らない世界があって、そこにももっとすばらしい ものがあって、だから、もしかしたらそこには、つれないアナタでも、きっと、美しい、って、思える、  世界が                                           」  オジョウサマは、顔をひざの中にうめました。 「どうして、こんなにも世界は美しいのに…………」  オジョウサマは、少しだけ黙って、そしていきおいよく立ち上がりました。 「だから、早く行きましょうね。タビに。それは、きっと楽しいわ。アナタの代わりに、ワタシ、とっても 楽しんであげるから。だから、アナタも……」  そして、オジョウサマは写真を、子供のころにとった写真を、懐かしそうに笑って、 「じゃあ、またね」  そう言って、お城へと帰っていきました。  そしてまた月日が経ち。そう遠くない日、やがて、オジョウサマはタビに出ます。  騒がしい仲間と、此処でない何処かへ。色々なモノに会って、同じだけの別れをして。何時か、誰かに来 るべき日が来ても、それでもずっと、オジョウサマは歩きます。それはとっても寂しいことかもしれないけ ど。でも、やっぱり、この世界は美しいから。その誰かのことを忘れずに。ずっとずっと、楽しく愉快に。  けれどもこれは別の物語、いつかまた、別の時に話すことにしましょう。  ……でも、一つここで言えることがあります。それは、オヤクソクなこの言葉。    オジョウサマは、それからもずっとずっとずーっと……幸せに暮らしましたとさ。    ――何時かの時。  ――何処かの場所。  ――夜は暗くて、星はキラキラして、まだ見ぬ場所がいっぱいあって、なんとなく何時も楽しかった。  ――そんな世界のオハナシ…………
 オジョウサマトオトコノコ……終わり

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