第一話「誰そ彼女――bulle――」    BGM『赤い屋根と散歩の猫 by,FICUSEL』  あらすじ。とある時、とある場所。バッタリと飛ぼうとしてる少女と出会った。 「『飛ぶ』って、まさか……そこから? ユーキャンフライ?」 「うん、ここから。アイキャンフライ」  あっさりと言う。まさか。こんなに若い女の子が? いや、そういう事に年齢は関係ないか。むしろ、 若いからこそこの世を憂いて……いやいや。 「とりあえず、その柵を越えてこっちに来て。落ちたら危ないから」 「どうして?」 「え、いや、危ないからだよ」 「……そんなこと言って、私より先に飛ぶつもりだな」 「え?」 「だがやらせんぞ! ここは私の指定席だ! イかせはせん!」  えー。  そうか……流石、この世を憂う若者だなー。考える事も一筋縄ではいかない、という事か。成程。そう じゃないだろ。 「えーと……本当に、飛ぶつもりなの?」 「ククク、そうだ。私は世界の向こう側へ行く。屋上の隅っこ。柵の向こう側。わずか五十pにも満たな い狭い足場。下から風が吹いてくる。眼上には、紅の空。眼下には、影となった、黒い大地。  ここが空と大地の境界線。ここが世界と世界の境界線。  ここを越えれば、例にもれなく、万有引力の成すままに。しかし、そんな事はどうでもいい。  この境目を超えるのだ。この境界線を越えるのだ。一歩踏み出せば、この境界線を越え、世界の向こう 側へと辿り着ける。希望などない。しかし て絶望などありはしない。我が望むは、境界線を越える事のみ。  呼吸する。にやりと笑う。思い出す事もない。何もない。だから行こう。  さあ、行こう。あの空へ。あの空の向こうへ。  この世界の向こう側へ!」  それ何処のMANGAのセリフですか。 「コッチだって、君をここでいかせるわけにはいかない」 「それ何処の漫画のセリフ?」 「いやふざけてるんじゃなくてだね。とにかく、飛んじゃいけないよ」 「どうして、今会ったばかりの私のためにそこまでするの?」 「え? それは、えーと……」 「理由も無いのに人助けですか。やらない善よりやる偽善ですか。理由の無い恋と人助けほどピエロッテ ィなものはないですね。ハンッ!」 「何で飛ぶのを止めさせようとするだけでそこまで言われなきゃならんのだっ。だったらえーと、アレだ、 眼の前で飛ぶのを見たくないんだっ。そこから飛び降りて地面に激突した後のイヤーンなスクラッパーと なった身体を見てみろっ。君アレだぞ。もうハンバーグにケチャップかけられなくなるぞっ」 「私はマヨネーズ派です」 「まあ、コッチもそうなんだけどね」  いや問題はそうじゃなくて。  軽いねこの娘。まるで掴めない。さっきから無表情というかぼけーっとした表情で何考えてるのかさっ ぱり解らない。解ると言えば……性別、女。無表情。髪が凄い長い。ぼけーっとしてる。世界全般に興味 なさそう。服装は学生服。アレはコッチの通っている学校の物だな。それくらいしか解らない。読唇術く らいならお手の物なんだけどなー。かつて金魚(三十匹)を飼っていた時に全員に名前を付けてその全匹 を見分けられたというのに。属性である天然と養殖の違いを瞬時に見極められたというのに。この娘の本 心を見抜けないとは。何か特殊な訓練(?)でも受けているのか? 普通、飛びに来てその態度はないで しょ。というか君、本当に飛びに来たの? 絶対、観光気分でしょ。閻魔大王様も困るぞそれじゃ。   ……とにかく、この子がどういう意図であれ、ここで飛んでもらうわけにはいかない。どうにかして説 得しなければ。 「……じゃあ、質問してもいいかな」 「ヤですね」 「…………」 「うわあ、凄い。幼女を見守る中年おっさんのような顔でにやけながら首を傾げている」  ふと気づくと、変に首を傾げて笑っていた。無意識に変な行動をするのは癖だ。 「……あのさ、どうやったら飛ばない?」 「? 鳥を飛ばせないためには鳥籠に入れておけばいいんだよ?」  成程、早い話、とっ捕まえて監禁せよ、と? コッチが捕まるよ。 「あのさ、一応訊くけど、何でここ?」 「ここが一番空に近いから」 「…………」  その意見には一理あった。見渡す限りでは、このビルはこの街で一番高いビルだ。それに、このビルの 周りには視界を遮る建物が無く、視界が広い。遠くが見渡せる。確かに、どうせ飛ぶなら心地良い場所か らの方が良い。 「でも、やっぱり飛ぶのはダメだ」 「飛ぶ間際位言う事聞いてください。後生だから」 「いや、飛ぶ人に後生は無いでしょ」 「そもそも、理由も無く飛ぶな、って言われてもねー」 「そう言われたら痛いけど……」 「どう言われようとも、こっちは一人で飛ぶ。ここは私の特等席」 「飛び場所に特等席もないだろ」 「安心しな。すぐに棺桶へボッシュ―トしてやるよ」 「あーそうですか」 「どうしても飛ばせたくないなら、私をその気にさせてみる事だな」 「いやでも……飛ばない気、あるの?」 「さあ?」 「…………」 「うわあ、また変な顔」  変なのはソッチだ。 「もうちょっとまともな事いってみなさい。はい、テイク2」 「……じゃあ、一応、言うけどね。飛ぶのは、まあ、いけない事とは言わないよ。何が良いのかなんて、 コッチには解らないから。でも、飛んでしまったらそれまでだ。それは解る。少なくとも、この世界で の人生は終わりでしょ? 君、解らないまま終わってしまっていいのか? 愛と勇気が友達の人(人?) も言ってるでしょ?『何のために生まれて何をして生きるのか。解らないまま終わる。そんなのは嫌だ』 と。いや、悪い事じゃない。別に飛ぶのは悪くない。ただ、そうじゃないんだ。悪いとか良いとか、そん な二つだけの答えじゃない。解らないんだ。真実は一つじゃない。人生というモノは解らない。今が不幸 であっても、次は幸福かもしれない。それだけで、生きる価値はあると思はないか。いやそれ以前に。今 は何もかも解らない事だらけでも、だからこそ生きようと思はないか。少なくとも、解らないままではい けないと思う。いや、違う。解らないままで終わる。お前はそれでいいのかっ!? 確かに、生きていた って、解らないまま終わるかもしれない。生きる目的など見つからないかもしれない。だけどここで飛ん だら、君、それで終わりだぞ? コッチは君じゃないからこうしろとは言わないし、的外れな事ばかり言 ってるのかもしれないけど。でも、もう少しだけ、考えてほしい。『君はそれでいいのか』……と」 「お前に言われたくない」 「何だコイツっ!」 「飛行少女」 「飛行少女て……」  いや、誰それ。  人がせっかく無駄な講釈たれてやったというのにっ。 「新ジャンル『飛行少女』」 「ジャンルにするんじゃない」 「兎に角つけて、その望みは聞きいられない」 「…………」  駄目だ。全く勝てそうにない。こんな相手は久しぶりだ。物理ならいざ知らず、論争で負けるなん て……。って、そうだ。大事な事を訊き忘れてた。まずはそこを押さえなければ。そもそもの、飛ぶ、 その理由を。 「……じゃあ、訊くけどさ」 「ばっちこーい」 「さっきと打って変わってこのやる気である。じゃあ……なんで、飛びたいの?」 「せいぞーん! せんりゃくーーーーーーーーーっ!」 「…………っ!?」ビクゥ  何か大声で語り始めた。 「意味が無きゃ飛んだら駄目なんですか!? 何でもかんでも意味を見出そうとするのは現代人の悪い癖 だと私は想いますっ! そりゃあ、母と父からもらったこの命。無碍にするのは親不孝ってえものですぃ ょぅ。でもね、その前提条件が違っていたら? つまり、命とはそんなにも尊いものなのか!? 繰り返 される生と終はただの自然現象にすぎず。この世界は我々の存在を肯定も否定もしてくれない。時が経て ば何もかも消え変わり逝くばかりの営みに、一体、何の意味があろうというのか。生に不変の価値はなく、 そこに確かな目的はなく、未来に避けられぬ滅びが待っていようとも、それでも我々は今日も明日も生き て生きてゆく。、そんな生き方に、何の意味があるのというのか。否、意味はない。無いのだよ! しか し、だ。だからこそ、だ。しかし意味が無いだからこそ、我々は生きてもいいのだ。そう、生きてもいい のだよ! 生に意味はなく、義務もない。だからこそ自由がある! 我々は自由だ。神も、言葉も、世界 も、誰も、我々の存在証明はしてくれず、ましてや意味や義務など与えてはくれず、だからこそ我々はど う生きたってかまいやしないんだ! 僕はここにいてもいいんだ!! おめでとう! おめでとう! お めでとう!  だから、もし、そんな残酷な世界の中で、生きることに意味があるとすれば。  それはきっと、誰かに与えられるモノではなく――」 「待て、長い」 「愛だ」 「愛か。解らん」 「つまりなんとなくです。特に意味はありません。現代社会の悪い所ですね」 「待て。何にでも意味を見出そうとする事が現代社会の悪い所では?」 「全てに法則や証拠を見出し意味を見出すのが現代の大人たち。それに疲れて『もうどうにでもなーれ☆』 と思っているのが現代の若者たち。どっちもどっちですね。やれやれ、ハンッ!」 「言いたい事は解るがお前の態度がムカつく」 「とにかく、私は意味があって飛ぶわけではありません。ただなんとなくです。別に絶望とかしてません し不幸でもありません。ただなんとなく、なんとなくなのです」 「…………」  なんとなく、ね。 「……成程」 「何、コッチの事解ったような顔してるの? けっ、けっ、けっ。気取ってやーんの」 「ねえ、それわざとメンタル削ってきてるの? ……まあ、とにかく。どうにも、普通の説得じゃ無理み たいだね」 「諦めたらそこで試合終了だぞ。私が」 「いや笑えないけど」 「もう、ゴールしたいんだけど……」 「サライにはまだ早い」 「今なら飛べそうな気がするんだ」 「気がするだけだから落ち着け」 「そこまで言われると飛びたくなる不思議」 「……ソッチはとことん、解らない娘だね」  でも、このままだとラチが明かないのは解る。人の人心掌握はお手の物だが、ちょっとこの娘は、普通 の子とは毛並みが違うみたいだ。今すぐには無理だろう。ならどうすればいいのか。こうなったら……う おーっ、都合よく目覚めよ妙案っ。一級並のポクポクチーンっ。今こそ我が最高に『ハイ』って色の頭脳 を解き放つ時……って、それヤクやってんじゃないの? ガンギマリって奴? コッチまでアイキャンフ ラーイしちゃう……って、はっ。  その時、頭に衝撃が走るッ。そうだ。この娘は何て言った? 絶対領域? 指定席? 一人で飛ぶ?   ……成程。解った、解ったぞ。 「これ、真剣ゼミでヤった奴だ」 「え……以前にもこんな状況を?」 「うん」  真剣ゼミ……それはこの世にあるありとあらゆる世の中の危険から生き抜くために想定された特殊部隊 用の裏ゼミとか何とかまあそれはどうでもいいとして。 「君は、ここが自分の指定席だといったね?」 「言ってないよ」  無視。 「なら、話は簡単だ。もし、君がそこから飛ぼうというのなら……コッチもその後を追ってともに飛ぶっ」 「…………え」 「聞こえなかったのかな? 君が飛んだらコッチも飛ぶと言ったんだ。いや、君が飛ぼうとするなら、先 にコッチがここで飛んでやる。これで貴様は一人では飛べまいっ。全て貴様の言うとおりになると思った ら大間違いだぞフゥーハッハッハッフゥーーっ」 「…………」  少女の反応は……全くなかった。呆気にとられているのだろうか。まあ、そうかもしれない。飛ぼうと している人に向かって、コッチも飛ぶぞー、なんていう人はそういないと思うし。あ、でも、もしかした ら全く見当違いなこと言っちゃったかな。うわー、そうだったら恥ずかしいな。どうしよう。ボロが出な い内に言い直そうかな。こうなったら物理で無理やり…… 「……解った」 「…………?」  何が? 「なら、こうしよう。同盟を組むのだ」 「同盟、何の?」 「勿論、決まっている」 そして、まるで次にくるセリフを盛り上げるように、一呼吸ついて、少女はこう言った。 「それは――『飛行同盟』だ」  少女は、やはり先から変わらない抑揚のない声でそう言った。 「飛行、同盟……?」  しかし、その言葉には一片の迷いもなく。 「そう、ここに同盟を誓うの。先に飛ばないように、同盟を組むのだ」  妙に、コッチの胸を押し付けた。 「…………」  だが、これは感動などではない。断じてない。これは、そうではなく…… 「どう? 悪くない提案だと思うけど。というか、それ以外に思いつかない」 「……ふ、ふふ」 「…………?」 「あはははははははっ!!」  歓喜だった。 「…………! ……?」 「面白い! 面白い展開だよ。飛行同盟……飛行同盟だってさ! くっ、あはははは!」 「……何か面白いこと言った、私?」 「うん、言った言った。座布団成層圏突破レベルだよ。くくく……」  面白い。実に面白い。その提案の意図は解らない。先程までぼけーっとしてた少女は、特に変わる事の 無いぼけらんっとした顔でコチラを見ている。  そうだ……いい事を思いついた。 「成程ねえ。先に飛ばない同盟、か。けど、君が抜け駆けしないという保証はない。それは信ずるに足り るの?」 「圧倒的信頼感」 「すごい自信だね」 「地も割る勢いだぜ」 「成程」 「それに、約束を破られる危険はコチラも同じ。貴方は信用に足りる人?」 「魔王的信頼感」 「成程」 「けど、それは結論の先延ばしに過ぎないんじゃない?」 「それは解ってる。でも、今のままじゃあどちらも譲らないと思う。少なくとも、私は譲るつもりは絶対 にない。絶対にだ」 「それはコチラも同意見だね。コッチも譲るつもりはない」 「なら、一先ずはここで休戦。同盟という事で。それでいいかな」 「ああ、いいよ」 「ほう。それはよかった」  少女は相も変らぬ顔のまま、ニヤリとした。  ……でも、 「……でも、それで終わりじゃない」  コッチはその『ニヤリ』を長く続かせるつもりはなかった。コッチは少女を指さした。 「先に言っておこう、この同盟は長くは続かない」 「?」 「何故なら……コッチがお前を幸せにするからだっ」 「――――」 「言った通り、この同盟は所詮、時間稼ぎ。根本的な解決にはならない。なら、その間に打つ手はコレだ。 君を幸せにして飛びたい気分を取り除くっ。そうすれば君もハッピー、コッチもハッピー。一石二鳥とは このことだ。いや、落ちたら困るんだけどね、あはは」 「…………」  少女はそんなコッチの言動に……やはり何を考えているかわからないが、多分、驚いているようだった。 「……別に、不幸せなわけじゃないけど」 「そう。まあ、なんとなく飛ぶみたいだしね。だったら、生きる事に意味を見出させるだけだ。ソッチに 『私は素晴らしき日々を過ごした』と言わせるだけだ」 「“Tell them I've had a wonderful life.”……と?」 「そう、『幸福に生きよ』ってね。コッチが、ソッチの人生を楽しくしてみせる!」 「……そんな事できると思うの? 貴方に」 「くくく」 「一緒に飛ぼうなんて言う人に」 「くはははは」 「私を、幸せにできると思ってるの?」 「あーっはっはっはっはっはあっ。無敵っ」  強く拳を突き出した。 「もう一度言おう。何度でも言おう。飛んでも言おうっ。君を幸せにしてみせる。約束だ」 「…………」  少しだけだが、少女の表情が変わった気がした。だが、それはあまりにも小さすぎて、よくわからなか った。 「……わかった」少女は言った。 そして、少女は柵を越えた。軽く飛び上がり、コチラへと……。 「その約束、聞き入れる。私を幸せにしてみてよ」 「ふっ……ああ、幸せにして見せるさ。必ずね」  そして、約束を交わした。 「飛行同盟、ここに集結。良き人生を」 「ああ、良き人生を」  夕焼けが照らす、冷たい風が吹く、空に近い、この場所で。  儚くも可笑しな約束を。  じゃあ、私は先に帰るから。眠いし。私が帰るからって、先に飛ばないでよ。その時は私も後を追うか ら。じゃあ、また。  そのような事を言って、少女は帰って行った。 「……あ、名前訊き忘れた」  一人、そのまま居残り、柵に体を預けて夕焼けを見ていた。 もうその灯りはほとんど境目の向こうへ行っていて、ビル群の裂け目から僅かな光を覗かせるのみだ。後 方からは暗い黒がだんだんとその紅を染めていき、夕焼けの周りに色違いの光の輪っかをつくっている。 その黒は空一面へと広がり、やがて小さな光の点が見え始めるだろう。その様はまるで、世界が変わって いくようだ。ぐるぐる、ぐるぐると。それは素晴らしき事で、美しいと思わずにはいられない。でも、そ れはごく普通の自然現象に過ぎず、大して感動するべき景色でもないのだろう。何度も見つめていればや がて慣れ飽きて、ずぶずぶとその景色は終わっていくのだろう。それはきっと、緩慢なる終。 「飛行同盟……ね。面白い子だ」  それでも……時が経てば、また美しいと感じるものだ。朝日が美しいと感じるように。それは、ただの 物忘れでもなく、物珍しさでもなく、見る人の所為でもないと、そう思いたい。それはきっと…… 「……いずれにせよ」  コチラも、それなりに楽しませてもらおう。  何時か来るその時が、一番の幸福であるように。  何時か来るその時が、せめて、安らかであるように。  これは喜劇である。   ○ ○ ○  ピピピピ……ピピピピ…… 「うー、ん?」  布団に入ったまま、睡眠を妨げる元凶を探る。  ここか。それともここか。おかしい、頭の近くに置いてあるはずなのに……。ぺしぺしと手を叩く。し かし、その手には何も掴めない。 「うー……あ、そうだった」  むくりと起きる。 「すぐ止めちゃうから、遠くに置いたんだっけ……」  ちょっとした眠り癖があるのだ。特に予定がない日など、普通に昼まで寝ている。酷い時には文字通り 一日中……流石にそこまで寝ると身体が痛くなるけど、それでも寝ずにいられない。何でこんなに眠いの か。別に、身体を痛くまでして寝たいとは思わないのに。明日は起きようと思いつつ、結局、明日も寝過 すのだ。しかし、今回は違うぞ。コチラも成長くらいするのだ。現に、こうやって対策が取れている。ふ ふふ、もう過去のようなコチラではないのだっ。  そう独り言ちながら、目覚まし時計の元まで歩く。首(スイッチ)をひねると、すぐさまソイツは倒れ た。 「ふっ、他愛ない。」  さて…… 「寝よう」  そしてまた眠りの中に……。  三十分後。 「ち、遅刻するっ!」  何も成長していなかった。 BGM『days /by,sentive』   「あー……」    全力で走った結果、何とか間に合った。おかげで朝ご飯も食べられず、寝起きの頭のまま走ったので気   持ち悪い。   「疲れたッス」   まあ、慣れたけど。いや慣れたらダメだけど。にしても、あれだけ走ったのにあまり汗をかいてない。も   うそろそろ冬かなあ。   「……ん? あ、おはよー」    後ろからそんな声が聞こえてきた。   「ま、どちらかというと遅いけどね」    とその声の主は笑う。   「おー、君は……三バカの一人」   「いや、ソッチもそのバカの一人だからね」   「バカなー」   「バカだよ」    そうやってテンポよく応えてくれるこの人は愛歌。先から言ってるように、三バカの一人。子供の頃か   らの幼馴染であり、何かとよく一緒にいる。   「と言っても、田舎じゃ幼馴染なんて、そう珍しくもないですけどねー」   愛歌「何をいきなり」   「いや、世の幼馴染に対する幻想をだね……」 愛歌「む、私は何時、幼馴染系ヒロインとして招集されてもいいように、それなりのスキルはあるつもり   だよ?」   「例えばどんな?」 愛歌「殴るよ!」   「そういう系ヒロインはもうお腹一杯っス……」    というか、君、何時も殴ってるじゃん……。   「三バカといえば、後一人が見当たらないけど?」 愛歌「まだ来てないよ。何時も通り」    そんなこと言っていると、教室のドアが開いた。   「噂をすれば何とやら」    ドアを開いた主は荷物を机に置き、コチラに近づいてきた。   「よお、おはよう」   「おはよう。重役出勤だね」   「これで遅刻した事ないから困る」   「いや、困らんだろ。遅刻した方が困るよ」    そう言うこの人はフサ。三バカの一人。コイツも子供の頃からの幼馴染であり、やはり何かと一緒にい   る。   「これで三バカが勢ぞろい。三人集まれば文殊の知恵だね」 愛歌「その知恵がどう使われるかはご想像の通り」 フサ「大体、お前らのせいな」   「キラッ☆」 愛歌「てへっ☆」 フサ「何だコイツら……」   「よぅし、三バカが集まったところで、さっそく始めようか。    全員集合、作戦会議を始めるっ」    そう高らかに宣言した。   「はい、というわけで、まずは各々が考えたプランを行ってもらいたいと思う。ではまず、フサから」 フサ「む、久々に『突然何を言い出すやら……』って感じだな。どうかしたか?」   「どうしたもこうしたもなかったりする」    コチラは、昨日会った少女の事を多分に脚色して話した。   「つまり、飛行少女を幸せにする作戦を立てよう、って感じ」 フサ「何か壮大な話になってるけど、まあ、何時も通り脚色されてると仮定して。その少女って、誰なん   だ?」   「えーと、名前訊くの忘れてた。同じ学生服来てたから、ここの生徒ってのは解るけど……」 フサ「この学校? ふーん、面白そうな事なのにお前が知らないとは、珍しい」   「それは子供の頃の話だよ。今では世間全般に興味ナッシング」 愛歌「そんな君が興味持つくらいだから、その少女はさぞかし凄い人なのかな」   「さあ、どうだろ。でも、何というか、こう、てろてろーというか、ぼんやりぼやぼやーっていうか、ほ やーんとした感じだったね」 愛歌「てろてろ? ぼやぼや?? ほやーん???」 フサ「成程、解らん。まあ、コイツに感性の共有を求めても無駄か」   「寂しい事を言う……後、風が吹けば飛んでいきそうな、儚げな子だったなあ」 フサ「守ってあげたい感じの?」 愛歌「私みたいな子だね」   「違うよ。愛歌はむしろ元気にする方だよ。君は元気一杯の太陽のような明るい良い女だ」 愛歌「…………」 フサ「お前のそういう所は凄いよ」   「無意識だから困る。まあ、さて置き。守ってあげたいとかそんなでもなかったな。兎に角、ぼやーっと   している子なんだ。あーはいはいそうですかワロスワロスー的な感じの」 フサ「成程な。つまり、お前みたいな奴か」   「えー」 愛歌「まさか……妄想少女?」   「何?」 フサ「その女の子は実在する少女ですか?」   「いや、そうだよ……と、思う」 フサ「お前の場合、洒落にならんからな」   「今でも出来ますぜ? 中二病的に言うと解離性同一性障害」 愛歌「あの時は色んな君がいて忙しかったよねえ。もっ回やって?」 フサ「止めれ」   「まあ、その子は確かに存在する少女だよ」 フサ「そのビルで亡くなった子だったりして」 愛歌「…………っ!?」   「ないない。そんなのが居るならとっくに見えてたよ。居たとしても、残念ながらコッチに霊視のスキル   は無いし。だから愛歌さん、安心して戻ってんしゃい?」 愛歌「…………」    すかさず離れていた愛歌は、すごすごと戻ってきた。何時も何かと騒がしいくせに、その手のよく解ら   ないモノの話は苦手である。 フサ「とは言っても、幸せにする方法……ねえ」    フサは、うーむ、と唸った。    まあ、確かに。幸せにすると言っても、ちょっと漠然とした話だ。おまけに、相手は知らない娘だし。   尤も、前例がないわけでもないけど。子供の頃、遊びでそういうような事をした事がある。でも、相手が   悪かった。相手がヤンデレであった。その娘をフサに惚れさせたが間違い。四六時中追いかけられた挙   句、結局は転校させざるをえなかった。『あれは怖かった。二度と繰り返してはいけない』……フサはそ   う誓ったそうだ。コッチは爆笑してたけど。 フサ「うーん、やっぱり。愛歌ならまだしも、女の事なんて俺はわかんねえよ」 愛歌「え……どきどき」 フサ「いや、長年付き合ってる幼馴染としてのよしみ故に決まってるだろ」 愛歌「んや? 私はドキドキって言っただけだけど? 何を想像しているのかな?」 フサ「お前の裸」 愛歌「エルボゥ!」 フサ「ぐっほ!」    いい音がした。 フサ「ちょ、おま、マジすぎ……」   「幾ら幼馴染の身体がエロくなってきたからって、余計な妄想を抱いてはイケないなあ、フサ君」 愛歌「…………」   「無言で笑顔はイケないなあ、泣いちゃうぞ?」 フサ「げほっ、ごほっ……それにしても、飛行同盟、ねえ……?」    早くも復活したフサが言った。この人、治りと耐久力も超人である。   「曰く、先に抜け駆けして飛ばないように互いに約束する同盟らしい。ま、一時休戦って感じ?」 フサ「それは、ソッチの提案?」   「いや、その子の提案」 フサ「可笑しな子だな……」   「でしょ?」 フサ「……何か嬉しそうだな」   「ははは、そうかも」 愛歌「それで、何で幸せ宣言?」   「つまり、飛びたくないようにすればいいわけだ。だから、彼女を幸せにして飛ぶ気を無くす。これで解   決」 愛歌「ふーん、上手くいくかなあ」   「さあ、ね。何かよく解らない子だったし、どうなる事やら。とりあえず、幸せにする算段ならあるけど」 フサ「ふーん? それは?」   「それか? ふっ……『それはな……心意義だ』」 フサ「心意義?」   「つまり、愛だっ」 愛歌「あ、愛!?」   「そう、愛だっ」 フサ「愛か」   「愛だ」 フサ「愛かー……」 愛歌「あまり人の名前を連呼しないで恥ずかしい……」   「欲しいか、欲しいならくれてやる」 愛歌「いえ、結構です」   「ふふふ、そんなこと言って身体は以下省略。ほらほら、欲しいんだろオーン?」 愛歌「気持ち悪いっ(ニッコリ」   「そう言われると傷つく……。まあ、でも、それじゃあ、漠然としてるんですけどね」    心意気とか愛とか、あまりにも具体性に欠ける。通行人も気にせずいきなり路上の中心で愛を叫ぶ人な   んて、傍から見たらただの変人です。 愛歌「じゃあ、アレだ。一緒に遊べば? 遊んでれば仲良くもなれるし、そういうの考えるの、得意じゃ   ないか」   「遊びッスか……」    そういうのは子供の頃の話ですよ。今の考え得る遊びで、果たしてあの子は満足するのかなあ。ちょっ   とやそっとの遊びじゃあ、物足りないと思うけど。それに、先も言ったように、下手なちょっかいは面倒   事を引き寄せる可能性もある。ヤンデレ。彼女みたいな不思議系ならぬ不思議という事さえも『よく解ら   ない系』は、下手するとヤンデレより面倒かもしれないからなあ。   あれは怖かった。   「まあ、でも、悪くないかもね。子供心を思い出して」 愛歌「そうだろ?」   「あ、なら、ソッチも協力してね」 フサ「えー」   「『えー』って……三バカだろう? 我ら三銃士、如何なる困難にも立ち向かおうと誓ったじゃないです   かー」 フサ「俺には不名誉だよその三バカ……」 愛歌「『一人は皆のために、皆は一人のために』!」   「それさ、『皆は勝利の為に』って訳した方いい、って意見もあるんだよねー」 フサ「何にせよ、面倒事はゴメンだ」   「何だよぅ。ちぇっ。君は自分の事、平凡に生きる事が夢などこにでもいる普通の高校生(笑)とでもい   うつもりかよ。このヤレヤレ系主人公めっ」 フサ「よく解らないが酷い言われようだ」 愛歌「ヤレヤレでも『まったく、やれやれだぜ』なら全く違うけどね。どちらかというとオラオラ系主人   公」   「何それカッコいい。まあ、協力って言っても、一緒に遊んでくれるだけでいいんだよ。だから、そうだ   ね。友達になるとかさ」 フサ「まあ、それくらいなら」 愛歌「あ、フサ君やーらし」 フサ「何故そうなる……」 愛歌「ていうかその子、さり気に友達いない設定になってるけど?」   「…………あ」    流石に、そういうのは失礼かもしれない。いや、失礼だ。 フサ「それはコイツに似てる女の子ならまずいないだろうから大丈夫」 愛歌「それもそうだね」   「泣きそう」 愛歌「私は参加するよ。楽しそうだし」 フサ「でも、確か自主飛行って援助したら罪に問われたような……」 愛歌「よし、その時は世界がその少女に飛ばさせたという事にして世界に罪を問おう」 フサ「誰が何を裁くんだよ……」   「ま、そんな気を張らずに。何時も通り、にょろーんと付き合ってくれればいいさ」 フサ「そうする」 愛歌「にょろーん」    キーンコーンカーンコーン   「そして丁度良く鳴るチャイム」 愛歌「さあて、今日も一日がんばろー」 フサ「眠い」 愛歌「何のための重役出勤何だか」   「授業中に寝ればいい」 愛歌「いや良くないです……」    そんなこんな言いながら、教師が入ってきて、HRが始まる。さて、今日も一日生きるとしよう。   ○ ○ ○    午前の授業も終わり、昼休み。学校の屋上に行くことにした。    木々が紅く化粧をすることを止め、しわ枯れたお爺さんお婆さんへと変わっていく、そんな季節の変わ   り目。こんな冷たい空の日はよく空が澄んでいて、何時もより蒼く見え、その分、高く見える。こんな日   に見る空は格別だ。屋上から見る空は特に。見上げれば、空の色しか入ってこない。蒼。蒼。蒼。それと   白に、光の色。たまに、鳥や月なんかも飛んでたり。時折吹く、冷たく、緩やかだが鋭い風が心地よい。   まるで、空に浮かんでいるよう。手を伸ばせば、そう、空へと飛んでいきそうな……。   「とか何とか」    そんな事は置いといて、なのである。    今は探し物の方が大事。多分、ココにいると思う。高い所が好きそうだし。煙となんとかは高い所が〜   とか何とか。でも、屋上はカギが掛かってるんだよね。コッチなら能力(アビリティ)『鍵開け(ピッキ   ング)』で何とかできるけど。さて、あの子はどうなのかな。    屋上に着く。カギは閉まっている。腰に下げたポシェットから自作ツールを取り出してがしゃがしゃこ   りーん……と、開いた。重病ともかからない。もはや慣れだなー。と、しみじみと思い、いや、しみじみ   と思っていいのだろうか。まあ、いっか。とりあえず、ドアを開ける。   「さて、と……」    屋上を見渡す。目的の物は……あれ、いない。ここじゃなかったのかな。   「何処に行ったのかなあ……」    あの飛行少女さんは。   「――誰が電気タイプ効果抜群で『そこに痺れる憧れるぅ!』か」」    そこまで言ってねー   「って……な、何処から声が……っ」   「右だ」    何っ。    コチラは咄嗟に右に……否っ。敵がわざわざ自分の居場所を言うモノかっ。    ならば本当の居場所は……っ、   「上だっ」    上を見上げるとともに、そこから少女が降ってきた。しかもイナズマキックの構えをしとるしっ。   「ささっと」    華麗に避けた。 少女「なん……だと……」    驚愕(と思われる無表情)を浮かべながら、少女は重力がないかのように着地した。   「ふっ、敵にわざわざ居場所を教えるわけないと思ったのでね。恐らく、上の給水塔から来ると予測した   のだよ」 少女「ふむ……やるな」   「ふっ、もっと褒めて。……って、ギャグってる場合じゃない。ふふふ、今日は君を幸せにする方法を考   えてきたぞ」 少女「へえ……何で?」   「いや、何でって……もしかして忘れてる?」 少女「そ、そんなわけないじゃないかあ! ほら、アレだよ知ってるよ!? 赤くてうねうねしてぐりぐ   りもぐもぐーんなアレだろ!?」   「どれなんですか……」 少女「冗談だよ。で……アナタ、誰?」    はてな、と首を傾げる少女。この子、ギャグってるようで本当に覚えてないよ……。   「……いや、ほら、廃ビルであった人だよ。君が飛ぼうとしてたのを止めた人」 少女「…………。……あー」   「思い出した?」 少女「そこはかとなく。ならここであったが百年通り越して約十時間目!?(疑問形)あの時の恨みを晴   らしてくれるわーっ!」   「いや、飛行同盟はどうしたんですか……」 少女「そうだったね。失礼」   「……本当に忘れてたの?」 少女「さあ、どうでしょう? 忘れた事さえも忘れ果て、とか」    そういう少女は薄く笑う。   「……ま、取り合えず置いといて。で、君を飛ばせない為に色々と考えてきたんだけど……」 少女「ふーん」   「『ふーん』て、リアクション薄いなあ。もっと凄いって言って。称えろー」 少女「すごいなあ 僕にはできない すごいなあ。おわり」   「まるでムリヤリ書かされた読書感想文のようだ」 少女「俳句だよ?」   「どっちでもいい」 少女「それで? その方法とは?」   「まあ、とりあえずは……一緒に遊ぶとか、いいかなーと」 少女「……遊ぶ?」    最終的にはコッチの事を好きになるくらいまでになってもらいたいけど、しかし何事も手順は必要だ。   というわけで、まずは一緒に遊んで心の壁を崩す事にするのが良い。それから徐々に懐柔していこう。懐   柔……何かエロいっ。 少女「遊ぶ……ね」   「うん」 少女「遊ぶです?」   「うん、そう。それで、その為の前置きとして、友達を作ろうと思って」 少女「トモダチ……」    コッチの言葉に、少女はそう呟いた。   「そう、友達を作るのだ」 少女「…………」    少女は無言になった。   「…………?」 少女「……アナタ、私に友達がいないと思ってるの?」   「…………」    しまった。間違えた。くそぅ、フサと愛歌の奴め。やっぱり友達いるじゃないか。でも、あー……いや、   そうだよね。友達くらいいるよね。一人で飛ぼうとするくらいだから、友達なんていないと思ってしまっ   た。何という自己中……ついコッチの考えで話を進めてしまった。流石に、失礼だよね…………。 少女「まあ、いないけど」   「…………」    凄い疲れる。 少女「それで? 友達とか作るの?」    まあ、良い。こういう女の子なんだろう。気を取り直す。   「そう、友達。という事で、コッチの友達を連れてきたぞ。イェツィラー、フサ、愛歌!」 フサ「ヤレヤレ、やっとお呼びかよ」 愛歌「パァンパカパーン!」   「まあまあ、せめてもの登場シーンだよ」 フサ「だからって前座長すぎ……後、恥ずい」   「それはゴメン。まあ、それはさて置き」 フサ「置くのかよ」   「紹介しよう。この二人がコッチの友達。フサと、愛歌だ」    …………。風だけが、無情にもその言葉に応えた。 フサ「やはり妄想少女だったか」 愛歌「お大事に……」   「…………?」 フサ「紹介される人、いませんけど?」   「……あれ?」    振り返ると、少女はいなくなっていた。 愛歌「そして誰もいなくなった……」    って、んなわけあるかっ。    これは……   「上だ!」   「残念、下だ」    と、声のした方を見る。少女が足元でしゃがんでいた。   「うわあっ」    ビックリした。全然気づかなかった。 少女「これが私の能力。気付かれるまで視界に入らない力。『神の味噌汁(ゴッドノウズ)』」   「ダジャレじゃん」 少女「後、私を視界に入れたとたんに相手を飛ばす能力、『知らぬが放っとけ(キリッドキャット)』と    かもあるよ」   「中二病乙」 少女「恥ずかしいので、思わず隠れてしまいました。だ、だって、恥ずかしかったんだもん///」   「今更そんなキャラですか」 少女「それよりも、紹介しないの?」   「…………」 愛歌「わあ、レア。翻弄されてるよ」    そんな事を愛歌が言う。何だかバカにされた気分。   「……まあ、いいや。では各自紹介を……勝手にしてください」 少女「してくれないの?」   「したらそのつど脱線しそうだから嫌」 少女「と、言うような女の子です。宜しく」   「うわーん」    泣きそう。   「いや……めげない。しょげない。泣いちゃダメ。ちゃんと自己紹介しなさいっ」 少女「……はあ。えー……あー……自己紹介しなくちゃ……いけないッスか?」   「まあ、お互いを知るために……」 少女「そういうのはお付き合いしながら……」   「するの?」 少女「しないッスけど……」   「そう。じゃあ、自己紹介を」 少女「えーと……その、恥ずかしいッス」   「そんなキャラじゃないでしょ」 少女「えー。じゃあ、アレっす。飛行少女。もうそれでいいんじゃないッスかねえ……」   「投槍すぎる」 少女「乙女の心は、複雑怪奇。以上、少女でした……」    そう言って、自己紹介を終えた。   「……って、それで終わり?」 少女「うん、終わり終わり。拍手は要らないし、投げの駄賃も要らないよ」   「そうですか」    まあ、いいや。 少女「握手すれば皆友達さ、とかもやろうとしたけどそれは流石に恥ずかしいので止めました」   「はい」 少女「あ、じゃあ、最後にコレ」    と、言って少女が人指し指を立てる。   「? コレ」 少女「そうコレ。ターター、タタタタタターター」 愛歌「あ、それETだね。ターター」    と言って愛歌もまた指を立て、少女の指とくっつけた。 少女「おお……」何か感動してるみたい。貴方とは仲良くできそう」   「ファーストコンタクトですか……」 愛歌「あはははは。何か変な子だねー」 フサ「まあ、興味を持つのもうなずけるな」    そう、二人は何だか納得したみたいだ。 フサ「俺はフサ。特にいう事もないかな。ああ、でも。基本、コイツラと違って真面目かな。宜しく」 愛歌「はいはーい。愛歌だよ。元気一杯の可愛い女の子です。女の子同士、仲良くしよーねー」 少女「…………」   「……あれ」 愛歌「反応がない。どうやらただの興味が無いよう……だ?」    二人が不審に思うのも無理はない。少女は、全くの無反応だった。 少女「…………もしかして、」    やがて、少女はぽつりと言った。 少女「ソチラ方は、私と仲良くしたいのですか?」   「いや、思いっきりそう言う空気だったじゃない」 少女「んや、スミマセン。自分、基本、内気でダウナーですので。地べたを這う虫ならぬ無視っつーか、   あ、勿論、される側ッスよ? んだから、まあ、空気読めないタイプなんッスよねー……」    ……まあ、空気は読んでないと思う。多分、敢えてだけど。 少女「で、お前たちは私と友達になりたいのか?」   「何で急に上から目線? というか、内気でもダウナーでもないでしょ、アナタ」 少女「ソウウツです」   「わあ、面倒くさい」  ソウウツ、躁鬱。気分が高揚している『躁状態』とふさいでいる『鬱状態』とが交互に出現する事。こ   れが害的になったものを『躁鬱病』という。以上、広○苑より一部引用。 フサ「まあ、友達になりたくないという事はないよ。いや、こういう言い方は失礼か。うん、友達になり   たいよ」 愛歌「私も。勿論だよー」   「だ、そうだよ」 少女「アナタは?」   「空に飛び上がるほどそう思ってる」 少女「……ふーん。そっか。まあ、好きにしたらいいと思う」   「ならその上から目線は止めようね」   少女「べ、別に、ソッチが友達になりたいから友達になってあげるわけじゃないからね! そ、そう!    私が友達になりたいからなってあげるのよ! 感謝してるわよ! あ、あああありがとうございます   っ!」   「何デレ……」 少女「逆デレ」   「逆デレ……」   少女「新ジャンル『逆デレ』」 「ジャンルにしないの」 愛歌「まあ、とにもかくにも、これで私達は友達だね。宜しく」   「あ、それコッチのセリフ」 愛歌「あげない」 少女「まあ、お好きにどうぞ」 フサ「って、お前等。さらっと流してるが、まだこの子の名前訊いてないぞ」 愛歌「あ、そうだった。名前なんて言うの?」 少女「さあ、どうしよう?」   「って、何でコッチ見て言うの……」 少女「懐いてるから」   「はあ……」    そうですか。よく解んないけど。   「じゃあ、飛行少女でいいんじゃない? コッチもソッチもそう言ってたし」 フサ「飛行少女……」 愛歌「いつも思うけどネーミングセンスうわあー」 少女「ウワー」   「ソッチが一番初めに行ったんだぞーっ」    何でコッチがそんな眼で見られなきゃなんないの。 少女「まあ、私の事は少女とかそう呼ぶといいよ。その方がミステリアース」 愛歌「そう? じゃあ、今後、名前が解っても、そう呼ぶ事にするね」 少女「うん、それでいい。じゃあ、ついでという事で、君もそう言う系の呼称にしよう。丁度、まだ名前   知らないし」    そう、少女はコチラを見ていった。言えば、コッチもまだ一回も名乗ってなかったっけ。   「まあ、別にいいけど」 少女「じゃあ、そうする」   「そっか。まあ、良し。とにかく良かった、仲良くできそうで」 愛歌「君みたいな人と仲良くできるのに、どうしてこの子と仲良くできないだろうか。いや、できる。こ   こ反語」 フサ「まあ、お前と一緒にいると大抵のものは許容できるな」   「さらっと酷いこと言われてる?」 愛歌「昔は君もこんな感じだったよー?」    そうだっただろうか。大人は自分が子供だった事なんて忘れているモノだからなー。そしてコッチはも   う子供じゃない。   「ま、いいや。よし、じゃあ、自己紹介も終わったところで、次は……」    キーンコーンカーンコーン   「…………何して遊ぶ?」 愛歌「流れ石、聞き流しおったわ……」   「時間が流れるのは早いなあ」 フサ「誰かさんが無駄に脱線しまくったせいだ……」   「ほう。イケナイ奴だな」 愛歌「それは……お前だーーーーっ」 フサ「お前等両方共だ」   「しゅん……」 少女「ぴちゅん」 愛歌「被爆した!?」 少女「ボムを使わず抱え落ちだけはするなとあれ程……」 フサ「いや、バカやってないで。確か次、俺達は移動教室だろ? 少女はともかく、俺達は急ごうぜ」 愛歌「あー、そうだったね。じゃあ、行こ?」   「コッチは少女と屋上でアバンチュールしてるから。お構いなく」 少女「ソッチの趣味はありませんから」    そう、さっさと少女は帰ってしまった。   「…………」 愛歌「ああ、まるで振られた恋人の様」    何だろう……これは、凄い……敗北、感?   「…………絶対、振り向かせてやる」 フサ「ヤレヤレ。これは思ったよりも面倒そうだ」   「そのバラを気に入るのは、そのバラのために暇つぶししたからだよ」    コチラは、そうニヤリと言った。   ○ ○ ○  学校の帰り。日も暮れているけど、何となく、廃ビルに寄ってみた。この前、少女が飛ぼうとしたあの 場所だ。ここの雰囲気は好きだ。何もかも無くなった場所。寂しさが胸にしみる。何も無い、というわけ ではない。皆無には心惹かれない。無くなったからいいのだ。人に造られたものが、今、こうして人に使 われず、ただ静かに立っている。それはもう、頑張らなくていいという事。休んでもいいという事。人に 使われることが大変、というわけじゃないけど。けど、今のこの街はとても静かで、まるで眠っているよ うな感じがする。落ち着いている感じがする。そんな街にいると、まるで、母の身体の中にいるような感 じがして、とても心地いいのだ。……まあ、ドグラ・マグラじゃないし、そんな記憶何てないんだけど。 「うーあー」  そんな声を出しながら伸びをする。ヘンテコな声だが、構わない。どうせ誰も聞いちゃいない。 それにしても、黒い空は何もない。ただ星があるだけだ。蒼い空は高く見えるけど、黒い空は高く見えな い。むしろ、何も見えない。だけど、だからこそ何処までも続いているように見える。高いという事は、 底があるという事だ。でも、何も無ければ、文字通り何もない。天上も、壁も、終点も。全ては吸い込ま れそうな闇の中に。それは、今の光に溺れた世界を越えてゆく、何よりも安らげる場所かもしれない…… なんて。 「うーあーあー」  あ、今ならゾンビみたいな声出せそうな気がする。うー。違うな。うあー。違う。あうー。どこの萌え キャラだ。えーあーうー。 「うー、あー……ヴゥーアー…………ん?」 と、そんな事をしていると、空に人を見つけた。やば、聞こえた?なわけないか。だって、聞こえっこない。 その人は屋上にいたからだ。柵を乗り越え、ビルの端っこ。今にも飛び出しそうに……って。良く見えない けど。これはつまり……『親方、空から女の子が』ってシチュエーションだねっ。これを待っていた……っ て、まさか飛ぶつもりですかっ? 「うわわ」  えらいこっちゃ。 「止めなければ」 人命救助第一。命を粗末にしてはいけません。人の命は地球より重い。だからそんなところから飛ばれた ら、地球は押し潰されてぺちゃんこになってしまいます。世界の為に、いざ往かん。 というわけで、ダッシュダッシュ。 「っと、到着」  疲れた。しかし休んでいる場合ではない。屋上を見渡す。果たして……どうやら間に合ったようだ。ま だ人がいる。さて、どうしようかな。決まっている。さっそく、その人に近づいた。何時、飛び出すかわ からない。いきなり声を掛けたら、その拍子に落ちてしまうかもしれないけど。そうならないように、優 しく声を掛けなければ。そういうのには慣れている。言葉で騙すのは得意だ。いう事を考えながら、人影 に近づく。そして、声を掛けようと口を開いた。 「ふむ、噂をすれば何とやら」  しかし、声は出てこなかった。 「それとも、煙となんとやらは高い所がお好きという感じ? 確かに、アナタは煙みたいな人だしね。そ れとも、なんとやら?」  人影は、どうやら少女だった。柵の向こうの、屋上の縁に座っている。  なんだ、少女か。人騒がせな……て。 「抜け駆けだっ」 「ダウト。ただ腰かけてるだけ」 「証拠は?」 「私を見て。この穢れ一つない身体を」  言って、少女が立ち上がる。  言われた通り、少女の身体を見る。じっくりねっとり。 「ふむ、良い体つきです。線が細く、背は低くとも肢体はすらりと伸び、子供っぽさが残るモノのなかな かのスタイルの良さだ。特に足が良い。綺麗な足だ。しかしそれ以上に、何よりも肌が綺麗だ。白く、滑 らか……思わず触れてみたくなりますね。髪が長い、というか伸びっ放しですが、それを切ればもっと見 栄えが良くなるかと思います。ただ、その髪も素晴らしいので、無暗に切ってもどうかな、という感じで すけどね。顔も整っていて、瞳が大きく、童顔で可愛らしい。表情は無表情ですが、でも、逆にそこがチ ャーミングだ。こうやって細やかに見ても、全体的に見ても、整った感じで、まるで童話に語られる精霊 か、大切につくられた西洋人形(ドール)のようだ。いや、実に素晴らしい」にっこり 「……変態」 「そ、そんな眼で見ないでよ……」  この子ジト眼です先生。 「変態、変態、変態」 「ありがとうございますっ」  開き直る事にした。 それにしても、ふむ、良い身体だ。綺麗、というわけじゃない(勿論、綺麗だけども)。ただ、それより も、穢れが無い。まるで、時を経た何かの様。いや、時を経たたり過ぎて、隔たれてしまったような。幻 想的な、何だか不思議な感じ。まるで、透明な白のような。いや、違う。白もま た穢れだ。人の視界を遮る。なら、これは……光? いや、光さえも…… 「ジロジロ見ないでください不快です飛びます」 「最初は可愛げがあったのに今では……」 「最初は可愛げあった?」 「そう言えば無かった」 「んだとコノヤロー」 「あ、待て待て。そこで暴れるのは不味いっ。こっちに来なさい」 「ヤです」 「えー」 「ヤーです」 「…………」  さて、どうしたものか。どうやら、この子に飛ぶ気はないらしい。が、それは言動から伺える事だ。つ まり、さっぱり確証はない。この子の言動など、ぼけーっとしていてさっぱり解らない。つまり考えてい る事など解らない。さっぱり妖精飛行中。あー、さっぱりさっぱり。うーむ、どうしたものか……はっ。 「あっちが来ないなら、こっちが行けばいいのか」  むしろ、それが飛行同盟だし。  というわけで、 「よいしょ」 「ぬ」  少女が立ちはだかる。 「ちょ、何するんですか止めてください」 「カバディカバディ」 「あ、危ないですって。ちょ、痛い、痛いです。叩かないでください。痛いですって。痛い痛いここに居 たい……くっ、この……ぜいやぁっ」 「あっ……」  フェイントを入れ、素早く柵を乗り越える。危うく行きすぎるところだった。っぶねー。マジっぶねー。 いや、笑えないけど……。 「ふっ、コッチに勝とうなど、一万年と二千年早いわ」 「ならじゃーんけーん、」 「え?」  ぽい、と反射的に出す。コッチはグー。アチラはパー。 「勝った。一万年と二千年を超え、今、勝利を我が手に」 「なぁ……」  なん……だと……? 「……って、いや、いやいやいや」 「なんだ、ノーカンだとでもいうのか。バカな。ジャンケンは百数年の歴史を持ち世界中で知られる戦い だぞ。子供が物事を決める時は、必ずと言っていいほどこの戦いを行う。そうだとも。『勝つ望みがある 時ばかり、戦うのとは訳が違うぞ!』」 「いや、そうではなく……」 「じゃあ、何さ」 「何さって……」  って、いやいや。そう言う話をしに来たのではないのだった。ジャンケンの勝敗は置いといて。 「いや、何でもない。勝敗とかどうでもいい」 「驕るな、という事か。成程」  まあ、それでいいや。この子と話してると、話の方向が変な向きになるなあ。 「まあ、座りなさい」  座ってから、そう、ぺしぺしと自分の隣を叩く。 「はいはい」  そう言われ、少女に続いて横に座った。 「……それにしても、意外」 「何が?」 「えと、ソッチは何と言いますか、日の下には出ないタイプだと思ってた」 「ふーん。良く知りもしないのに、よくそんな憶測が付けられるね」 「ぐっ……」  何という正論。確かにそうだ。 「じゃあ、今もう一度見てみよう」  そう言い、少女はコチラに顔を近づけてきた。 「む……」 「さあ、何が見える」  思わず顔を遠ざけたくなるが、その瞳には他を吸い込むような力があった。いや、というより、力が無 いからこそ吸い込まれるような。まるで、この黒い空のように。それは闇? いや、違う。これは…… 「どう?」  そう言われ、我に返る。少女の眼を見る。もう、先のような感じはない。ただ、ボーっとした眼だ。後、 眠そう。 「……眠たい?」 「む、よく解ったな」  どうやら正解みたいだ。……いや、その正解から察するに、眠たい↓面倒くさがり屋↓インドア派、と いう感じしかしないのですが……。 「いや、外で寝るよ」 「え、外で寝るの?」 「アウトドアなインドア派なので」 「何ぞそれ」 「外で自分の家にいるようなふるまいをします」 「ただの厚顔無恥(恥知らずの意)だそれっ」 「俺の家は、この世界だ」 「宇宙船地球号?」 「ホームレスはな、この世界が家なんだ」 「カッコいいけど悲しいよっ」 「因みに、新世紀(エヴァン)級のアウトイン(アウトドアなインドア)派は窓やドアが開く部分に存在 する事を好む。別名、『狭間に立つ者』『ヘブンズ・ドア』『境界線上のホ○イゾン』」 「ただ邪魔なだけじゃない、それ?」 「しょーおーねんーよ神話になーれー」 「窓辺から飛び出しちゃだめーっ」  ……疲れる。 「……はあ」 「若い者は疲れやすいな」 「若者差別だ。というか、ソッチも若者でしょ」 「永遠の子供。精神的に」  つまりロリばばー。精神的に。……それ誰得? 「……まあ、いいや」  ふう、と息をつく。 「……そう言えば、ここで何してたの?」 「座ってました」 「それ、小学生がよく言う『息してる』とか『人間生活してる』とか並の解答なんだけど……」 「ガーン」  何やらショックみたいだ。 「この私がそんな平々凡々な奴等と同じレベルとは……」 「ソッチって、そんな珍しい人なの?」 「いや別に」 「…………そう」 「それに、ごく普通の人間の方が変な事に巻き込まれやすいんだぜ。『存在自体が不思議な「妖精さん」 と違ってな、「人間」には不思議がたくさん起こるのだ! これは中立的存在である人間だけの特権だ!  だからこそ、人間世界はすばらしい!!』」  それは受ける側としての問題だと思うけど。 「因みに、私はここで空を眺めていた」 「空を?」 「うん。ここには他に何もないから」  そう、少女は言う。人に棄てられ、ただ立つだけの建物。その上で、空を見る。 「ふーん……楽しい?」 「楽しいかどうかを訊くのは、ヤボってもんだぜ」 「む……」  そう言われると、何も言えないです……。でも、眺めているだけなのはねー。 「何時かはあの星に辿り着けたらなあ。せめて、流れ星でも落ちないかなあ」 「地球に」 「いや、ハルマゲンドンじゃないから」 「でも、いい気なもんだよね。願いを叶えてお星様ー、って。たまたま地球に落ちてこなかったってだけ で、何時、落ちてくるかわからないじゃん」 「まあ、そうかも……」 「そうだよ。願いを託されるお星様もいい迷惑だよ」  一理ある、のだろうか。自分も、燃え尽きる瞬間くらい、そっとしておいてあげればいいのに……、と か思った事もあったような……。 「星座とか見えないかなあ」  そして簡単に次の話題になるし……。 「星座かあ」  子供の頃はよく覚えたけど、今ではほとんど忘れてしまった。 「今度、星座でも見に行こうか?」 「何で?」 「え、いや、見たそうだったから……」 「ふーん」  ……どうも調子が狂うな。 「そう言えば、一緒に遊ぼうって言ってたね」 「そうだっけ?」 「うん。今度、遊びに行こうよ。星座を見るのは勿論、何処か適当な場所へ。ソッチの都合の日にね」 「ふーん」 「……行きたくない?」 「…………どうかな」 「…………」  さて、どうするか。友達の輪に入りずらい人に対する付き合い方。無理やりに入らす、という手もなく はないけど……いや、友達になのを方法化する時点でアレかな。うーん…… 「じゃあ、一緒に行こう。迷ってるなら、遊んでしまえ。これは決定だ」  いや、こういうのは多少強引な方がいいかな。 「……まあ、別にいいけど」  良し。 「そうと決まれば明日遊ぼう。朝っぱらから遊んじゃおう」 「明日って、平日だけど」 「んなの知らんぷい。平日=労働っていう公式は無いだろうに」 「…………」  少女はちょっとだけためらうような仕草をした。いや、というよりも驚いたような…… 「……解った」  しかし、それはすぐに何時もの無表情に隠れた。 「解った、明日遊ぼう」 「ん」  少女の応えに、そう、笑って応える。まあ、こういうのはとりあえずやってみればいい。何、後で楽し くなるさ。……何か、ナンパの常套手段みたいだけど。  それはさて置き、誰か誘おうかな。 「フサと愛歌も誘っておこう」 「来るの?」 「さあね。何だかんだ言って、アチラさん方は真面目だから。もう子供じゃないしねー」 「大人になるって寂しい事だ。それが強く生きるコツなのかもしれないけど」 「ただ単に負ける事が怖くなっただけの臆病者だよ。強いわけじゃない」 「……そうか」 「そうさ」 「そうだね。……そろそろ、私は帰るとするよ。良い子は早く寝ないとね」 「良い子はこんなところに来ないだろ」 「どうかな。子供なら、色んな所を冒険するべきだと思うけど」 「まあ、それもいいけどね」 「良い事だよ。じゃあ、またね」  そう言って、少女は帰って行った。 「……出会いが唐突なら、別れもまたあっさりだね」  一人言ちる。 「……コッチも帰ろう。一人で見るには、この空は広すぎる」  なんて。  ふと気づくと、夜はとても寒かった。   第一幕「誰そ彼女――bulle――」……終

 第二幕「遊久の日々――never ending――」

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