第二幕「遊久の日々――never ending――」   「というわけで、ちきちき、第百億兆万七回公園あそびーっ」    イェーガー。 少女「わー」 愛歌「わー」 フサ「……わー」   「おや、フサ君、元気がない」 フサ「いや、いい歳して何で平日の昼間から公園で遊ばにゃならんのかと……」   「大人は子供に。子供は大人に。大きな子供は現実に。遊びというモノに年齢制限はないっ」 フサ「制限をかすのは人だけでなく社会もだよ」   「じゃあ、何で来たんだねっ」 フサ「お前が来てくれと泣くからだろ!」 愛歌「泣くとくるんだ。男だねー」 少女「いや、むっつりと見た」 愛歌「お、少女ちゃん、よく解ってるー」 フサ「解ってない。一ミクロンたりとも解ってない」    というわけで(どういうわけで)、学校をサボタージュして昼から近くの公園に集まり遊ぶことにした。   この公園は近くにご家庭向けマンションが多いためか、中々に広く、遊具もそれなりにある。広さで言えば   サッカーや野球ができるくらいだろうか。勿論、段差があったり遊具があるので、実際にはちょっと難しい   けど。 愛歌「学校サボって遊ぶのも、また乙ですなー」   「ふふふ、解ってるじゃないか愛歌君。悪に飽くまで酔いしれろ……。そう言えば少女、何で制服なの?」    少女は学生服を着ていた。そう言えば、最初に会ったときも学生服だった。まさか他に服が無いとか……   流石にそれは無いか。 少女「なんとなくですょ。深い意味はないです」   「そう。遊んで汚すかもしれないから、普段着の方がよかったんだけどね。まあ、仕方ないか。じゃあ、何   して遊ぼうか?」 愛歌「そうだねー。何しよっか。こんな公園で遊ぶのは久しぶりだし……」 フサ「子供の頃は、何故、こんな何もない公園で楽しめたのだろうか」 愛歌「きっと、神様がいたんだよ……。とかはまあ、置いといて。そんなポッとでのポット野郎は思いつき ませんなあ」   「子供の頃を思い出すのだ……ほわっ」 愛歌「ほわっ?」 少女「炊飯器思い出した」   「で、子供の頃、何してたの?」 愛歌「えーと……ああ、ソッチの提案で『十五少年漂流記』ごっこしたよねー」    十五少年漂流記ごっこ……確か子供の頃、夏休み、コチラが買ったボートで近くの島まで行って無人島ご   っこをしようと計画を立てたけど、運悪く嵐に遭って何やかんやで遠くに飛ばされてボートも大破して本当   にに無人島生活をするはめになった懐かしい思い出。   「アレはハプニングだったなあ」 フサ「がくがくがくがく」 愛歌「おや、横から震度3の揺れが」 フサ「犬まじ怖い犬まじ怖い……」 愛歌「とらうまいすたー」 少女「…………ねえ」   「ん、どうしたの?」 少女「日差しが暑い」   「…………」    今は冬……だけど少女には熱いみたいだ。まあ、暑くは無いにしても、こうやって公園の真ん中で突っ立   ってるというのは、なかなかに……寂しい。 愛歌「ていうか、何で公園?」   「いや、童心に帰ろうかと……」 愛歌「はあ……少女ちゃんは、それでよかったの?」 少女「外出るの辛い」   「…………」 フサ「…………」 愛歌「…………」 少女「外出るの辛い」    アウトドアなインドア派じゃなかったのかよっ。   「えーいっ。だったらヤケだ。鬼ごっこだ。はいジャンケーンっ」 愛歌「ほいっ」 フサ「え、おう?」 少女「ほい」   「よーし一発で負けたーっ。……負けた?」 フサ「じゃあ、ソッチが鬼だな」 愛歌「やあ、弱いねー」   「か、勝とうとしてないだけです」 愛歌「負け惜しみ乙」   「本当なのに……」 少女「鬼ごっこ……運動はそんなに……」 愛歌「まあ、まあ、やってれば楽しくなるよ」   「ヤってれば楽しくなる、か……なんかエロイなっ」 愛歌「発条(ぜんまい)拳っ」ドゴォ   「しゃれになんねえ……」どさっ…… 少女「運動は嫌いなんだけど……」   「よーし、ヤるぞー」回復 少女「聞けよ」 フサ「ルールは?」   「普通にやっても面白くないから、特殊ルールを設けよう」 愛歌「へえ。ソッチが考えた奴なら、面白くなりそうだね」   「それは昔の話さ。まあでも、元が面白いし、それなりに面白いんじゃないかな」 フサ「で、どんな奴なんだ?」   「いやなに。やられっぱなしはどうかなあ、と思っただけさ。そのルールというのはね……」    「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっぅ」 愛歌「ちょおー!? ちょっとちょっと、本気すぎッ!」   「イー○ーズーマーキィィィィックッ」    ズドーン、と大袈裟に砂煙が舞う。それは熱血アニメの伝統伎である。その実態は凄い蹴り。今しがた愛 歌がいた箇所にはコッチの蹴りが見舞われ、大きく地面が削り取られていた。 愛歌「わーっ!」   「わははははっ。そんなものではこの鬼は倒せんぞっ」 愛歌「ひーん!」    涙目な愛歌に向かってコチラは容赦なく拳を突き出す。しかし、流石は愛歌だ。何だかんだでコッチと付   き合っている三バカの一人。そこらの生き物より能力が高い。コチラの拳を避けている。あ、でも、愛歌は   元々の能力は高いし、コッチに会う前からかなり暴れん坊だったし、暴力娘だし、よく殴るし、元から強く   て、そんなに別にコチラのおかげでもない気が…… 愛歌「誰が暴力女か!」    リリカル・トカレフ・キル○ムオール! とか叫びながら技を繰り出してきた。それは某魔法少女漫画の   掛け声であり、コッチ界隈では100ある愛歌の技の中で中々にコストパフォーマンスが良く使われる頻度   が高い技として知られている。因みにトカレフとは拳銃の名前。キルゼ○オールとは『皆○し』の意味であ   る。その実態は肉体言語。   「ってぐはあっ」    そんな脳内解説をしているとまともにお腹に喰らった。   「ぐっげはあ。ううぅ、ひどい。凄い痛ひ。お腹凄い痛ひ。これはもうお嫁にいけない。飛ぶ。アイウィル   飛ぶ」 愛歌「お嫁に行くやつは殴ったりしない」   「じゃあ、ソッチもいけないはずじゃないかー」 愛歌「勝った方が正義。可愛いは正義。イコォール。アイム、ジャスティス!」   「ふっ、ふはははは。勝った方が正義だと? 笑わせる。そんな事を言うのは社会も知らないガキだけだ。   勝って得た正義はな、すぐに消え失せる。何時だって勝たなくてはいけない。勝った後もずっとずっと、終   わる事の無い戦いだ。貴様は、それに耐えられるのかっ」 愛歌「勝つさ。勝った方が正義。正義は必ず勝つ。そして正義はまた別の正義だ。故に、私は負けない。この心   に正義の信念がある限り! 絶対に!」   「……ふっ、なら、コチラも勝たなければ嘘だな。コチラもまた、別の正義だからだっ。この矛盾、どうす   るっ」 愛歌「知れた事。正義がより強い正義を喰らったという事」   「ふっ、そうか。そこまで言うなら、もう言葉は必要ないな。必要なのは、拳のみっ。どちらがより強い正   義か、試してみようじゃないかっ」 愛歌「望むところだ! でやああああああああああああ」   「うおおおおおおおおおおおおおっ」    どかーん。    熱き拳がぶつかり合う。 愛歌「やるな!」   「ふっ、伊達にあの世に行こうと思ってないぜっ」    ゆあーん。    熱き拳がぶつかりry。   「貴様こそ、女のくせになかなか強いっ」 愛歌「女か。だが女は女でも、私は、乙娘だあああああああっ!!」    ゆよーん。    熱き拳がry。 愛歌「成程。なら、これはどうだあああああ! 邪王黒炎(ジャオウコクエン)・ギガッデスッフレアアア   アア!」    その実態はパンチである。   「負けるかあああああああああっ。凄技執行(セイギシッコウ)・サイクロンジェットマグナムスーパーサ   ンドリームサイクロンバーストオオオオオッ」 愛歌「サイクロン二回言ってるし!?」   「大事な事なのでry」    その実態はパンチである。   『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ』    ゆあゆよーん。    熱きry。 フサ「……って、何ぞこれ」    フサが一人呟いた。    説明しようっ。    コッチの考えた鬼ごっことは、アクションを組み込んだ超☆エキサイティングな鬼ごっこである。ルール   は簡単。参加者は全員、紐を自分の何処か(大体は後ろ、横、首元の部分)に結ぶ。自分以外はダメ。鬼は   その紐を取り、逃げる人はそれを防ぐ。取られたら行動不能。そこまでは単純な紐鬼。ただし、簡単にはい   かない。ここがこの鬼ごっこのミソ。これは、逃げる人にも攻撃のチャンスがあるのだ。これにより、逃げ   る人が鬼の紐を取った場合、逃げる人の勝利となる。そう、これは戦いなのである。人類と、鬼との。人類   は――負けたままでは終われないっ。    ……みたいな(※遊ぶ時は良い子は真似せず特殊訓練を積んだ子だけにしましょう)。   「というわけでドーンっ」    というわけで、鬼になったコッチは思う存分逃げ惑う人を蹂躙せむとしていたのだった。 愛歌「……って、どうしてフサ君は助けてくれないNO!?」 フサ「アイム平和主義」   「ふんっ。他人主義の間違いだろう? 他人任せにしているくせに、守ってくれる人に対してアレコレ言う   のはよくないよー」 愛歌「そーだそーだ。このイエローモンキーが。一緒に戦えー」 フサ「何で何もしてないのにそんなこと言われなきゃならんのだ……」   「何もしてないから言われるのだ」 フサ「無茶苦茶な。なら殴れというのか。というか……それに、少女を一人にするわけにもいかんだろう」    それはその通りだったりする。少女は少し離れたところでコチラを見ている。問題は、それが『仲間にな   りたそうにコチラを見ている』のか否か、だけど……。やっぱり、いきなり混ざって遊ぶのはハードルが高   かったのかな。それとも、運動は苦手なのかな。いや、さっきから苦手って本人は連発してるけど、少女だ   し冗談の可能性があるかもしれない。    ……まあ、いずれにせよ、   「おーい、少女よー。一緒に遊ばー?」 少女「え、あ、大丈夫です。お構いなく」    軽い拒絶。   「外ではあんまり遊ばない?」 少女「外にはぶらぶら行くけど、あんまり遊びはしないかな」   「あー……あまり、皆と遊ばないタイプ?」 少女「基本ロンリーウェイッスよ。友達いないっつってんだろ。なめとんのか」   「スイマセンでした。でもまあ、せっかくだし。ヤ、ら、な、い、か?」 少女「ぇぁ……えーとー………………結構です」    むう……やはり今一つな感じ。問題は、遊び自体が嫌なのか、混ざりたくても混ざれないのか。やっぱり、   複数人数で遊ぶのは少し難しかったのかな。他人と遊んだことないっていうし。でも、少女はこういう馬鹿   っぽい遊びが好きだと思ったんだけどなー……。それとも、また自分勝手な考えの押し付けだったろうか…   …ってこれさっきと同じ考えだ。    考えがまとまらないな。まあ、人の心は読めても察するのは苦手だし。こうなったらとりあえずやってみ   るか。うん、何れにせよやってみてからでも遅くはない。だとすれば取る手段は……   「狙い変更。少女を狙うっ」 少女「ぇ……」   「はあ……はあ……」 少女「や、やめろー」   「ははは。何処に逃げようというのかね」 少女「わー」   「待ちたまえ。良い子だから、さあ」 少女「わー」    コッチは鬼神間違えた奇人の如く追いかけて、アチラは脱兎の如く逃げる。    あら、意外と速い?   「わー」   「わー」   「わー……」   「わあー……」   「わ、あああ……ああ………あ……」   「ああ……げほっ、ごほっ……ぁ……」   「…………。……。  。」バタリ    あ、倒れた。 少女「ぜえっ、はあっ……っ……げほっがほっ…………はあ、ぜはあ……」    咳き込みながら呼吸する。どうやら体力はないようだ。しかし、健気(?)にも表情は崩さない無表情。    成程、ポイント高いなっ(何)。 少女「ぐうぅ……仕返ししてやる」   「ふははははっ。その身体で何ができるというのかね。このままその身体をじっくりことこと煮込んでシチ   ューにしてやるわーっ」 フサ「煮込む?」 愛歌「カーニバルハえんがちょー」 少女「くそぅ。このまま滅茶苦茶にされてしまうのか……同人誌みたいにっ」   「安心しろ……夢落ちだーっ」 フサ「え、もう? じっくり煮込むんじゃ?」   「我慢できなかった。ではやり直して終わりだーっ」 愛歌「そんなラスボスキャラみたいな事やってるから主人公になれないんだよ」   「げっはあ(ドサリ)」    愛歌による痛恨の一撃。 愛歌「あ、しまった。禁句だった」 フサ「この際、よくやった。アイツが凹んでる間に作戦でも考えるか」 愛歌「あれ、鬼ごっこやるの?」 フサ「俺だけやらないわけにはいかんだろう」 愛歌「このツンデレめ」 フサ「誰がツンデレか。とにかく一時休戦だ」 愛歌「そだね。少女ちゃんも疲れてるし」 少女「飛びそうです」 愛歌「とにかく、トドメは少女ちゃんだね」 フサ「だな。その為には、俺達の紐は取られてもいい所存で行こう。じゃあ、第一陣はどっちにする?」 愛歌「私が行こう。特攻隊だ。次はフサね」 フサ「解った。久々に、アイツに眼にもの見せてやる」 少女「あ、それ負けセリフ」 愛歌「大丈夫、それがフサクオリティだから。『ク○コダイーン!』とか叫ばれながら吹っ飛ぶから」 フサ「変なこと教えないでくれるかな……」 少女「じゃあ、私は最後か」 愛歌「うん。ユー、ヤっちまいなYOU」 少女「把握した。体力も万全。ジェット○トリームアタックだ」 愛歌「よぅし! では行くぞ!」 フサ「おう!」 少女「おー」    ぐっ……どうやら向かってくるようだ。コチラも態勢を整えなければ。敵は本気だ。なら、コチラも全力   で迎撃する。    眼を閉じ、深呼吸して、左手を胸に当て、言葉を唱える。魔法の言葉を。   「我が鍵。我が扉。我が物語。我が世界。今、それら全てを否定する。我に成す意味など何も無し。故に、   我に出来ぬ事など何も無し。其は夢と同じと認識せよ。さあ、行こう。世界の果てへ。その向こうへ。   それは何度もやった、強く生まれ変わる為の儀式(ルーティン)。扉の鍵。無意識下に刻まれた、もう一人   の存在を呼び覚ます。それは強い存在。負けない存在。勝つ存在。存在を否定する存在。   「勇気を、力に――」   生まれ変われ。   「『ブレイブ・アルター』」ドギューン(※SE) フサ「なっ……あ、あれはーーっ!?」 愛歌「くっ……アイツ、ここであの技を!?」 少女「ま、まさかアレを使うというのか……!?(よく解らないけどとりあえず驚いとこ)」   「ふえはははっ。これを使わせるという事はもうお前たちの世界がもう闇に包まれてえーと世界がーえーと   ちょっと待っててえーとあーととりあえずもう命はわずかだぞっ」 愛歌「くっ、だが……ここで負けるわけにはいかないんだー!」    愛歌が向かってくる。アイツはとにかく攻撃力が竜神(ティアマット)級だ。攻撃力だけならコチラにも   フサにも引けを取らない。幾らコチラと言っても、対策なしに攻撃を受けると…… 愛歌「『ドリ○ミルキィパァンチッ!』」    ドゴーン!    ……こうなる。    って、容赦無さ過ぎやしませんか? 愛歌さん。   「げっふぅ!」    思いっきり吹っ飛ばされ、木に叩きつけられた。 愛歌「ふふん、なまってるんじゃないの?」    そう言いながらさらなる追撃をしてくる。   「それは事実だ。けど、幾らギャグ系だと言っても、日常系登場人実に後れを取るほど軟ではないっ」    愛歌が拳を繰り出してくる。それは速さも破壊力もあるけど、あまりにも単調だ。躊躇いが無いのは買う   けど、技もなく単純な力ばかりだと……、   「やはり答えは単純、純粋な能力差で攻略可能っ」 愛歌「あっ」    技を使うまでもない。容易に後ろを取った。とは言っても、流石に二撃目を食らうと意識を刈り取られか   ねないので内心かなりドキドキしたのは内緒だぞっ。しかし今回は逆に……   「取ったっ」 愛歌「わっ」    あっさりと一つ目を奪取。ふむ、まだまだだね。 愛歌「シムラー、後ろ後ろ!」   「え?」     その声に反応して、つい後ろを向いてしまった。首を時計回りに回す。必然的に、左側が見えなくなる。   (もらった……っ!)    しかし、誰かがそう思ったであろうその瞬間、少女の事を思い出した。これは……ブラフっ。   「――っ」    とにかく、見えない左側に体当たりした。   「なっ、ぶねッ!」    フサはコチラの体当たりを避けた。 フサ「ちぃっ! 見えない側に飛んでくるかよ普通。おかげで咄嗟に守っちまった」   「アンタの反応速度なら普通にかわしたくらいじゃ追撃されるのは眼に見えてるからね。その前に防がして   もらったよ。攻撃こそ最大の防御っ」 フサ「……はっ、成程な。なまけてるが、そういう所は変わってないな」   「……そうか」 フサ「そうともさ」   「ふふふ」 フサ「くくく」   「後、次からやられた奴がしゃべるの禁止ね」 愛歌「はーい」    一陣の風が吹く。    お互い、機を伺う。何かと手合せした事が多いフサだけど、以前、戦ったのは何時だっただろうか。こう   やって戦うのは久しぶりだ。本気の勝負では何時も勝ってきたけど、それでも簡単にとはいかなかった。さ   て、今回はどうか。いずれにせよ、気を抜けばやられるのは必至。加えて、このブランクだ。フサだってブ   ランクはあるだろうけど……さて、今のコチラでも通用するか。    両者とも出ない。それは間違いではない。相手を叩きのめすのではなく、相手の紐をとるこの戦い。力や   技ではなく、一瞬の機、隙を見つける力が必要となる。ならば先手よりも後手。相手の攻撃を躱してからの   反撃(カウンター)において勝機はある。……が、   (コチラは鬼の身。多勢に一人。待ちに構えると、少女か来る可能性がある。さて、どうするか……)    だが、考えるまでもない。フサはその他を相手にして勝てる相手でもない。    ここはいっそ……全力突破っ。 フサ「来るかッ!」   「来ちゃったっ」    一瞬で決める。己を信じろ。超突妄信っ。    拳を突き出す。    一手、二手、飛んで五手、全て流される。防御に徹しているのか、守りが硬い。けど、フサ相手に能力差   で勝とうとは元から思ってない。なら、技の勝負。    適当に戦術を組み立て、当身を放つ。態勢を崩すだけだ。まともに当てるつもりはない。ただ、できるだ   け大振りに、ちょっと足も入れて、いかにも攻撃しますよ、ってな感じで。とにかく連打連打連打。印象付   ければ良し。全面を使って縦横左右に揺さぶる。基本的だが、全ての土台だからこそ基本なのだ。全てに対   応可能であり、全てに繋がる行為。それこそ基本っ。    ラストに三発、下面に向かって大振りを放つ。そこに更に、 フサ「…………っ!」    上からの大振り。拳を固め、かち割るようにっ。    フサの構えが崩れる。拳が強く握られる。    来るかっ。    勿論、これでは腹ががら空きになる。フサは防御に徹しているけど、しかしここまで大振りなら攻撃して   くるはずだ。    そして攻撃は……来ない。    あれだけ連打したのに、反射的に隙を突いてこないのは流石だ。ここで攻撃してきたらその攻撃を捌き、   逆に投げ飛ばしていたところだ。けど来なかった。しかし……   (問題はない)    このまま振り下ろすっ。    むしろ元からコッチが本命。大降りに徹したのは疑心暗鬼にさせるため。そして実際、先の上からの大振   りでも迷った。攻撃して来なかった。その迷いこそ本命っ。失敗も成功も勝利へとつなぐ、偽物も本物の価   値に競り上げる、それが戦術だっ。    フサの逡巡は攻撃も回避も選択できず、防御を選択させられた。しかし、防御ばかりじゃあ、何時かは崩   れる。事実、フサはコチラの攻撃を受け切れなかった。壁を砕く確かな手応え。鈍い音に、くぐもった声が   重なる。だが、壁を壊して終わりではない。その向こうへ、捻じ込むっ。右足を踏み込み、体重とともにた   だ拳を強く突き出すのみ。フサが咄嗟に反応する。流石だ。だが遅いっ。    果たして、コチラのはなった拳は、吸い込まれるようにフサの腹を捉えた。硬い筋肉の層を越え、メリ込   む感触を捉える。まともに入った。決まったな。 フサ「……と、思うだろ?」   「何っ?」    フサはコチラの手を掴んだ。その力は強く、外せない。 フサ「ふっ。流石だな。衰えちゃあいない。だが唯一の誤算は、俺がまともに取り合っていなかったって事   だなあ」   「なっ、まさか……」 フサ「そうさ。お前は俺を騙そうとしていたようだが、俺はもとから話など聞いていなかったのさ。馬の耳   にも念仏って奴だな」   「と、いう事は」 フサ「うん。お前の策略、全部無意味」   「うわっ、凄い恥ずかしいっ」    全てはコッチの自己満足かっ。わー、うわ、うわー……。ピエロ(笑)。    などと自虐している場合ではない。この状態は、不味い。 愛歌「今だ、行け―っ! 少女―!」 少女「キタ━━━━ヽ(゚∀゚ )ノ━━━━!!!!」    フサの叫びに、少女が応える。 フサ「スマン、待ったか?」 少女「ううん、今、ヤるところ」   「わーっ」    ヤバい、挟み撃ちだっ。   「こんなものでっ」    右が駄目なら左頬を殴ればいいっ。 フサ「だが無駄ッ!」    フサはコチラの左足を踏み、コチラが放った左手を受けた。身体が固く決まって身動きが取れない。   「ヤバイヤバイヤバイ。コレすごいコレ至近距離。息がかかるマジヤバい」 フサ「頬を染めるなっ!」    確かにギャグってる場合ではない。まるで動けない。力が足りないのではない。そもそも力がで   ないように組まれてる。助走のつけられない幅跳びだ。   「グ……これは……」 フサ「はっ、次は頭でも出してみるか? そうすればそれを避け態勢が崩れたところを寝技でキめるけどな」   「くそ、こんな使い古した展開如き……っ」 フサ「確かにこんなのはもうやり飽きた感しまくりだろうが、だったら退けてみろ!」    ぐうっ。やり飽きた? ああ、やり飽きてるね。こんな展開では倒されない。いや、倒されてたまるか。   だというのに……くそっ、動けない。後ろからは少女が迫る。時間が無い。このままじゃあ…… 少女「ふぁははー、これで……」 フサ「終わりだーっ」   「…………っ」    その時、思わずにやけた。終わり? ふ、ふはは……   「ふははははっ。駄目だなあ。フサ」 フサ「何?」   「そんなセリフを言ったらっ」   やはり、まだ負ける時ではないっ。   「勝利フラグ発動っ。今からこの窮地を、最高に『ハイ』ってヤツな色の脳細胞で加齢にあ間違えた、華麗   に切り抜けて見せるぅっ」 フサ「それヤクやってんじゃねーの」   「う、お、お、お、お、お、おおおおおおおおおっ」 フサ「な、何だ……と、って、」 少女「おぉーー」    持ち上げた。力任せに、フサを。力が出せないようになってる組手? んなもん知るかっ。コチラとは常   識無視のリミットブレイクだっ。 愛歌「って、力任せかい! 技は!?」   「はっはあ。知るかっ。『それが天才っ。技なんかオマケっ』。というかソッチはしゃべったらダメっ。兎   に角……喰らえ、この愛っ。奥義、ハイパブルカノンんんんんんっ」    そしてそのまま振りかぶる。そのフサの重いを文字通り乗せた拳は今まさにコチラへと辿り着こうとして   いた少女の身体へ。 フサ「ちょ、まっ、あああああああああああっ!!?」 少女「ひらり」    ドーン フサ「ぐへえ」    少女が軽やかに避けた結果、フサだけが地面に叩きつけられた。意識が飛んでいる間に、紐を取る。   「さて、これであれよこれよという間に最後の一人だ」 少女「あれま」 フサ「げほっ、ごほっ……あ、やば」    流石フサ。回復力高い。 愛歌「わー、ピンチピンチーっ!」   「だからしゃべったらダメと……もういいや。どうせこの絶対的状況からはもう逃れられまいっ」    ビシリ、と少女に指を突きつける。 愛歌「くっ、やばい、私達はもう動けない!」 少女「逃げろ少女ーっ!」   「『爪』が甘かったな。所詮は飼い犬。尻尾を巻いて逃げだす負け犬よおーっ」    最良の選択の為に最小の失敗を残すようではまだまだだなっ。もう小細工はない。一気に詰める。例え少   女といえど、容赦はしない。   「これで、終わりだーっ」    と言って、思った。    しまった。思わず言ってしまった。……「終わり」……だと? そのセリフは…… 少女「……負け犬? ふっ、違うな。私は……狼だ」    少女は、コチラの攻撃を容易に躱した。   「なん……だと……?」 少女「BGM、何かカッコいいヤツ」 愛歌「はいなー」    と、愛歌が何処からともなくラジカセを取り出してスイッチを押した。    BGM『うぃりあむてーる序曲』    何か気の抜けたラッパ音が鳴り始める。これは……ウィリアムテル・序曲、をアレンジしたもの? って、   そこはどうでもいいとして。 少女「その程度か」    と、少女が言ってくる。いや、そんなはずはない。そんな簡単に避けられるわけが……無意識に手加減し   ていたのか? なら、今度こそ手加減しない。一撃ではない。フェイクを含め、三手で終わらせる。息を吸   い込み……   「――――ふっ」    シュシュ     ブォン    拳を放つ。    顔に二発。それらに隠すように脇腹に一撃。 少女「しかし、その拳は空を切った」    しかしまた避けられた。いや、避けられたというより、当たらない? まるで足捌きが見えない。幻惑さ   れる。舞う木の葉のよう。いや、影の無い雲のよう。動いているというより、まるで宙を滑っているかのよ   うな……。まさか、こんなにも少女ができるとは。意外……   「……いや、そうか。それもそうだね。ソッチもコッチみたいな生き方してるなら、それくらいの無駄技術、   あって当然だね」 少女「無駄かどうかはさて置き。さあ、どうかな。いずれにせよ、アナタは私には勝てないみたいだね」   「ふっ、まさか。一分一秒で進化する、それが主人公だっ」 少女「主人公だから最強ってわけじゃないけどね。後、それは主人公だったらの話です」   「知ってますーっ」    今度こそ、正真正銘、手加減しないっ。    当てるつもりで連撃を放つ。   「――――っ」    命中は確認できず。行動類型を考慮し、精度を挙げさらに追撃。 愛歌「そこだー行けーっ! 右だ! 下だ! 左だ! また右だ! 上上下下左右左右BA!!」 フサ「上から来るぞ、気を付けろっ」   「外野ちょっとシャラップっ」    言いながら、右裏拳からの左掌底、止まらず回し蹴りから足を引っ掛けて転ばせようとする。 少女「だが、『当たらなければどうという事はない』」    だが、やはり攻撃が当たらない。まるで霧の中を彷徨うかのように、見当がつかない。   「むむむ……」    全く持って攻撃が当たらない。コチラが攻撃をしているというのに、これでは防戦一方だ。このまま無暗   に攻撃していても、埒が明くかどうか……。    ならばどうすればいいか。コチラは……   「…………」    冷静になろう。やれば出来るは、やれる事をやってからでも遅くはない。彼女の弱点はないのだろうか。    いーつのーことーだかー。思い出してごーらんー……って、何時ッスか。    思い出すのは……ついさっきの事。さっき少女を追いかけた時、少女はすぐに疲れていた。少女は体力が   無い。つまり、長期戦に不利。ならば、そこを狙うっ。    コチラは前に出て、連打した。しかし攻撃は当たらない。それでもいい。当たらずともそれで。何時かは   突破口が…… 少女「……むっ」     少女の動きが鈍くなってきた。疲れているらしい。もう少し。 少女「ふっ、久々だよ。私をこんなにも熱くさせる愚か者はね」   「それはコッチのセリフだよ。まだソッチみたいな人がいたとはね」 少女「ふふふ」   「ははは」    二人、不敵に笑う。   「だけど、そろそろ終わりだね」 少女「終わりかな?」   「そう、終わりだよ。何事にも終わりがある」 少女「そうかな? 終わるのは君かもしれないよ」   「どうだか。もうしゃべるのも精々なんじゃないッスか?」 少女「むぐ……」   「それに、コッチは負けない。ソッチは逃げてばかりだ」 少女「…………」    少女が笑うのを止める。   「それじゃあ勝てないよ」 少女「……でも、負けない」   「そもそも戦ってないからね」 少女「…………」   「…………何も言わないの?」 少女「それはソッチでしょ」   「――――え」 少女「いや、違う。夢見いられたくせに、夢見いられ切れなかったんだ」    その瞬間、思考が止まった。まるで、糸が切れた人形のように。   勿論少女はその瞬間を見逃さなかった。   易々と懐に入り込ませる。   (しまっ……)    慌てて下がりつつ、手を入れる。    しかしその手は空を切る。少女は止まらない。    少女の手が伸びる。駄目だ、反応できない。頭が回らない。眼が認識するだけで脳がそれに対応しようと    していない。   (やられる……っ)    少女の手は止まることなくそのまま伸び、そしてやがてコチラの身体に辿り着き、コチラが紐を取られる、    と、思ったその時。 少女「はい、君の勝ち」    少女は、コチラに身体ごと倒れてきた。   「へ……?」    少女の身体は決して重くはなかった。けど、態勢が悪かった。頭の回らないまま、しかし視界はぐるりと   回っていく、空と大地が入り乱れ、そのまま、身体は地面へ……   「……っと」    着く前に、受け身を取った。衝撃もなく、地面に倒れ込む。そのまま倒れると、上に乗っている少女まで   反動を受ける。そう思い、咄嗟に出た行動だった。   「…………」    ぼんやりと空を見る。あー、空が高いなあ。蒼いなあ。そして疲れた。少女を疲れさすことが目的だった   けど、コチラも相当に疲れていたようだ。汗が風に吹かれて冷たい。   「…………」    少女は、ぐったりして動かない。お腹に当たる、小さな身体の、ゆっくりとした呼吸の動きが妙に生々し   くて……なんか、恥ずかしい。   「……大丈夫?」    と、少女に訊いてみる。 少女「……何が?」    自分でも何が大丈夫なのか解らない。 少女「……その通りだよ」   「……え?」 少女「戦わない。それが正解だったんだ。戦ってしまえば負けるから。避けることは出来ても、攻撃は出来   ない。負けないけれども、勝てる術を持ってないから。だから、戦った時点で、君の勝利は決まっていた。   君が私を、君の手の届く中に入れた時点で、もう決まっていたんだ……」   「…………」    恐らく、コチラが隙を見せた瞬間には、もう体力などほとんど残っていなかったのだろう。それでも、飛   び込んできた。もう動けないと知って。コチラの領域へ。 少女「もう動けない。私の負けだ」    そう言う少女は、なんだか、とても儚くて。ふとすれば、何処かに飛んでいきそうだった。『諦められた   ら、こんなに幸せな事はないだろうに。気付かなければ、こんなに幸せな事はないだろうに』……何故か、   そんな言葉が頭をよぎる。それは、まるで夢見る少女の様で。でも、それはきっと届かなくて。でも、諦め   きれなくて。自分だけが、一方的に思いを寄せている。    それは、まるで……   (……って)    脳内でぶんぶんと頭を回し、考えを消す。   (待て待て、コッチがそうなってどうする。コッチがこの子に愛を与えるのだぞ。逆に振り向かされてどう   するっ。いや、ていうか、それ大丈夫なのかっ。あああああ……と、とにかく、)   「あの、その、少女さん? そろそろ起きてもらえませんかねえー」 少女「…………」   「もしもし? おじょーおさーん?」 少女「……疲れた」   「え?」 少女「動けない」   「…………」    さいですか。    はあ、とまた空を見上げる。あー、高いなー。コッチも疲れた。そんな感想しか出てこない。 少女「風、気持ちいー」    何だかなー、と思いつつ、まあこういう子か、と思い直した。多分、そういう子なんだろう。何時でも何   処でも、今日もいい天気ですねー、って。そんな感じで。そんな子なんだろう。   「……はは」    思わず笑った。うん、いい勝負だった。こういうのには、勝ち負けを付けるのが惜しくなってくる。いや   ……そうだね。たまには、こういうのもいいかもしれない。勝敗をきっちりしないのも。人生だって、そう   いうもんだし。でもまあ、とりあえず立ち上がるとしますか。   「さあ、少女。そろそろ……」 少女「と、見せかけて」   「え?」    シュバっ    気付いた時には、コチラの紐がとられていた。   「…………え?」 少女「テテテテーテーテーテッテテー(SE;某最後の幻想から『勝利のファンファーレ』)」 愛歌「ワーっ!! やったー!」 フサ「うおっ、ジマで? マジか! スゲー……」 少女「フーッハッハッハッフゥー。完・全・勝・利☆(キラッ」 愛歌「凄いすごーい!」 フサ「やるもんだなあ」 少女「ふふふ。今の気持ちを訊いてみ? 訊いてみ?」 愛歌「ねえねえ、今どんな気持ち?」 フサ「どんな気持ち?」 少女「『無敵ッ!』」 愛歌「ふぅー」 フサ「ヒュゥー」 少女「わははははは」 愛歌「おお、その者、蒼き衣を纏てうんたらかんたら」 フサ「流石だ! もう教える事は何もない! 一人でよくやった!」 少女「ううん。二人のおかげだ。二人の盛り上げが無ければ、あのスキは出来なかった」 フサ「……ふっ、成程。どうやら、勝負に勝っただけではないらしい」 愛歌「ふふん、言うねー。このこのぉー」 少女「あ、ま、ちょ、や、やめろー」    わーわーわーわー   「……って、えー」    ……何、この、疎外感。   「そんなのありッスか……」 少女「言ったでしょ。何事にも終わりは必要だと。どちらかは勝たなくちゃね」   「だ、だからって騙すのは……」 少女「フェイントは騙しじゃないの?」   「え? いや、それは技の一種で……」 少女「じゃあ、これも技だ」   「ぐ……」 少女「それとも、自分が勝てる勝負にしてくれないと、平等じゃないと言うのかな」   「ぐぬぬ……」 愛歌「……くっ、あはははははは!! 論破されてるよ! 面白いねー」 フサ「ああ、全くだ。お前のそんな顔、久しぶりに見た」   「な、はっ……?」    え、何。今、コッチはどんな顔してるの? 見えない。何も見えない。 少女「……ふふ」    って、少女までにやけてる? わ、わー。何だコレは。は、恥ずかしい。 愛歌「あはは。顔真っ赤だよ。かーわい」 フサ「ああ、可愛い可愛い。くくく……」 少女「可愛いねー」   「な、何ですか。見るなよおー」    あー、もう、何なんだコレは。恥ずかしい。恥ずかしいのはきっと、負けたからに違いない。うん。そう   だ、きっとそうだ。   『……ス、スゲーーーーッ!!』   「へ?」    その時、誰かが何か叫んだ。いや、誰か? これは……達? 複数形? 子供「すごかったよ姉ちゃん、兄ちゃん。カッコよかった!」 子供「アレなんていう遊び? 遊びなの!?」 子供「すごいカッコよかった!」    見ると、いつの間にか子供たちが集まっていた。それもそうだ。気付くと、時刻は既に三時をとうに廻っ   ていた。あれだけ派手に大声(奇声)あげて遊んでたら、このような元気盛んな少年少女は惹き付けられず   にはいられない。   「うわうわ、ちょっと君たち……っ」 子供「ねえーねえー教えて、ねー」   「いやね、君たち。ちょっと待って……」 子供「ねーねー」   「だから、ちょっと……」 子供「ねーねーねーねー」   「待って……」 子供「ねーねーねーねーねーねーねーねーねーねーねーねー……」   「…………」 子供「ねーねーね「シャーラーップシッダーンシッダーンッ(※訳『黙れ、座れ、座れ』)」」    コチラの掛け声とともに、子供たちがビシリと体育座りをした。    …………で、どうしよう。 愛歌「どうするの?」 フサ「どうすんだ?」 少女「どうする? どうすんのよアイフル!?」    ……どうしましょー?    ……まあ、尤も。勿論、選ぶのは……   「諸君、NY(N,なんか凄い。Y,良い処)に行きたいかーっ」   『おーッ!』   「宜しい、ならば戦争だっ」 愛歌「何処と!?」   「世界とっ」   『わー!』 フサ「……何で会話が通ってるんだ?」 愛歌「子供との波長がうんたら」 フサ「……あー」   「とー、言うわけでえ……遊ぶよっ。でも、初めてだから、怪我はしないようにね。フサ、愛歌、よぅし、   やるぞぉーっ」 愛歌「勿論!」 フサ「しょうがないな」 少女「…………」   「少女は?」 少女「……まあ、御勝手に」   「……ははっ、愚問だったね。良し、やるぞっ」 少女「……うん」    その後、騒ぎを聞きつけた親々様方から命一杯怒られるまでそう遅くはなかった。 愛歌「やー、面白かった。久々に皆で遊べて、よかったよ」 フサ「ああ、ホント久々だなあ。この寒さなのに汗かいたよ」 少女「ふっ、皆、子供だなあ」   「ううぅ……」 愛歌「あれ? どうして泣いてるの?」   「ソッチ等がよってたかってコッチを父母様方たちに生贄に捧げるからだろっ」    家の子に変なこと教えないでください、って無茶苦茶怒られた。いい歳して何やってるんですか、って変   質者を見る眼で見られた。中でも一番怖かったのは、怒るでもなく、叱られた事だった。凄い冷静だった。   まるで我が子を見るように、丁寧に叱られた。あれこそマザーオブマザーだ。おもわず、母ちゃん、ごめん   よ……て謝りかけた。恐ろしい。あの人は恐ろしい。泣くかと思った。というかもう泣いていました。もう   あの公園行きたくない。    時刻は夕刻。てくてくと四人、帰路につく。辺りは静かで、公園での遊びの余韻か、何だかお祭りの後み   たいで、風が涼しくて気持ちよかった。 愛歌「……でも、本当、久しぶり。何かこういうの」   「ぐすっ……何が?」 フサ「こうやって遊ぶのがだよ」   「…………。ああ……そうだね」    というより、こうやって三人が集まって歩く事すらも、何だか久しぶりな気がする。 少女「久しぶり……」 愛歌「ああ、うん。少女ちゃんは知らないよね。昔はねー三人でよく遊んだもんだよ。まあ、今はもうあま   り無いけどねー」 フサ「コイツは俺達のリーダーだからなあ、何だかんだ言って。コイツがもう遊ばなくなってからは、自然   と集まりもなくなってたんだよ」 少女「……ふーん」 愛歌「ま、でも、この頃は楽しそうだね。よかったぁ、よかった」 フサ「これも君のおかげかな」 少女「まあ、そうでもありまくるかな」   「調子に乗るなメスガキがー」    とりあえず牽制。 少女「んだとコノヤロー」    少女がプンスコと怒る。トコトコと叩いてくる。   「痛いです止めてください」 愛歌「まあまあ、照れてるだけだよ」 少女「べ、別にアンタと遊んで楽しいわけじゃないんだからねっ。皆と遊んでるから楽しいんだから。ま、 まあ、アンタが二人っきりでっていうなら、別にかまわない、ケド……(ボソっ)」 愛歌「ツンデレ乙」 少女「……ふふ」    少女がそう笑う。   「ん。少女は楽しかった? 今日の遊び」 少女「…………」少女は、何故か面喰た顔になった。何か驚く事でも言っただろうか。しかし、「……さー   ね」と、すぐその感情は、いつもの表情の下に隠れた。   「そっか、良かった」 少女「『さーね』と言っている」   「はいはい」 少女「むう……」    少女が何やら抗議顔。うん、可愛い可愛い。   「そもそも、コレは君を楽しませる企画なんだからね。楽しんでもらわないと」 少女「押し付けがましいなあ。それに、その企画が公園での遊びってどうよ」   「まあ、それはそうだけど……何せ遊ぶのは久しぶりだし」 少女「言い訳か」   「むう……いや、少女はあまりデカい企画とかアレかなーと思ったからさ。公園で言ったように童心に帰っ   てうんたんガンダーラ」 少女「へえー、それはスゴイ」   「あ、バカにしてるなっ。なら、次に何をするかは少女に任せよう」 少女「何故に私」   「公園での遊びを微妙にマイナス的に批判されたからだ。まあ、今度はそっち主催という事で」 少女「はあ……面倒な」    と、何だかんだ言いつつ何やら考えている様子(多分)。そして、やがて思いついたように空を見上げた。 少女「……空」   「ソラ?」 少女「うん。空。そうだね。天体観測がしたい」   「ふーん。天体観測か。いいね」 愛歌「天体観測! 青春だねー。冬は星が綺麗だし、私は賛成だよ」 フサ「何処でやるんだ? 前の時みたいに、山で遭難するのはゴメンだぞ?」    フサの言う『この前』とは、子供の頃にやった天体観測の事だ。子供の思い付きで、それも冬にやったた   め、防寒対策もロクにせずに目的地も無く舗装されていない山登りをした挙句、遭難して彫像になりそうに   なった事がある。あの時見た星は、美しかった…………天使みたいに。 フサ「あの時は『今ならパトラッシュ召喚できる』って確信したね」 愛歌「ジョ○ョ風に言うと『パアーートパトパトパトパトパトパト!! パトラッシュ!(ドゴーン)』」   「天体観測をやるなら、やっぱり学校だね」 フサ「学校? それは何故に」   「シチュエーションが萌える」 愛歌「青春。それは夜空に輝く星のように、美しく、遠い」 フサ「で? 日取りは何時にする?」   「んー。屋上までの行き来はコッチのピッキングスキルに任せて、流石に夜の学校侵入はアレだからね。人   の少ない日にしないと。まあ、いてもチョチョイとしちゃうけど。後、観測道具もないし」 フサ「道具? 前の時の奴は?」   「あー、アレは、ちょっと壊れちゃってねー」    本当は、物置においてある。そういう昔のモノは捨てられない性分だ。けど、もう昔のモノは使いたくな   かった。アレは、子供の頃の、夢の残骸。 愛歌「じゃー、天文部のを借りよう」   「ああ、そっか。天文部があったね、ウチには。じゃあ、そこからパクろう」    げしっ 愛歌「借りると言っておろうが」   「暴力反対……。でも、借りられる?」 愛歌「多分、大丈夫。ソッチと違って友達がいますからー」    いや、コッチだって友達くらいいますよっ。……ホントだよ?   「って、誰に言い訳しているんだか」 愛歌「んや?」   「いや、別に……。じゃあ、OK出たら、その週の休日に……えーと、コッチの家に集合という事で」 愛歌「OK」 少女「道知らんがな」   「住所教えてあげるから、この先はWEBで」 少女「文明の利器ってすげー」   「じゃまあ、そういうことで?」 愛歌「アヤー」 フサ「解った」 少女「ん。ご自由に」   「良し。とは言っても、愛歌が借りなければ始まらないけどね」 愛歌「借りられなければ自腹ですなー」   「誰が?」 愛歌「君が」   「…………」 愛歌「ちゃんと借りるから大丈夫だよー」   「そうですか」    期待してマスヨ……?    まあ、と言っても。別に本格的にするわけでもないし、遊び程度でやるなら安い双眼鏡とライトがあれば   事足りるのだけど。 フサ「……じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。もう遅いしな。今日は楽しかったよ」   「それは良かった」 愛歌「うん、私も楽しかった。後、帰ったら訊いておくね」   「解った」 フサ「じゃあ、またな」 愛歌「またねー」    そう言って、二人は帰って行った。    そして残るは……コチラと少女。   「…………」   「…………」    二人っきりッスか。   「ソッチは、まだ帰らないの?」   「もうちょっと歩きます」   「そう。じゃあ、もうちょっと歩こうか」    そう言って、歩き始める。   「…………」   「…………」    ……質問がしたい事があった。今なら、応えてくれるだろうか。でも、やっぱり聞くのは不味いかなあ。   うーん……。いや、ここはやっぱり……訊いてみよう。   「……えーと、あのさ」   「ノーセンキュー」   「まだ何も言ってない……」   「お約束」    それは、暗に『訊くな』と言っているのだろうか。でも、訊かないままでは……だから、訊かなければい   けない。   「質問がある」   「ほーか」   「……飛ぼうとした理由って、何?」   「なんとなく」   「いや、本当に訊いてるんだけど……」   「さーあねー」   「…………」    肩をすくめる。やっぱり、そう簡単には応えてくれないか。そもそも、本当に飛ぼうとしているのかさえ   よく解んないんだけど。あの時、本当に彼女は飛ぶ気が合ったのだろうか。あの様子じゃ、とてもそうには   思えばいのだけど……   「じゃあ、そっちはどうなんよ」   「え?」   「私一人の為に飛ぶ? さて、それは本当かな。じゃあ、どうしてあんな場所に来たの? そっちこそ、元   々、飛ぼうとしてたんじゃないのかな?」   「…………っ。……それは、ないよ……」   「…………」   「冗談です」    少し思わせぶりな事を言ったら少女が怪訝な顔をしてきたので、慌てて取りつくろった。   「まあ、とにかく。どんな理由であれ、飛ぶ気を無くして見せるよ」   「そう?」   「ああ、約束した通りに。君を幸せにする」   「……そう」   「そうだとも」    小さく笑った。    暗い空の下、音は少ない。静かだ。夜の世界こそが、本当のあるべき姿なのではないか、という考えが浮   かぶ。法律や法則、様々な言葉で飾られた、この世界。道を照らすイルミネーションは、人を惑わす幻のよ   うだ。光にあふれた世界こそ、偽りの世界なのではないだろうか……。    ……やがて、   「……じゃあ、私も、そろそろ帰るよ」    少女はそう言った。   「そっか。じゃあ、またね」   「うん、また」   「…………」   「…………」   「…………」   「…………」    ……あの、何か?   「……時々、夢を見るんだ」   「……?」   「…………」   「……何を?」   「さーね」   「って、オイ」ツッコミ   「乙女の心は複雑怪奇。というわけで、少女はミステリアスに去るぜ」    そう言い残し、少女は去って行った。   「…………」    少しは進展してる、かな。    くすりと、小さく笑う。    でも、勘違いしてはいけない。   「その分、終わりも近づくという事だ」    忘れるな。コレはあくまでも、飛ぶためのヒマ潰しだ。最後の遊び。    何時か来る、その時までの……。   多分、何を言っても許してくれないだろうけど。   「……ゴメンね」    そう、一人呟いた。    第二幕「遊久の日々――never ending――」……終

 第三幕「二人の神様―symphony―」

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