第三話「二人の神様―symphony―」
「むう……」
困っていた。コレは困った。実に困った。
いや、何が困ったって……
愛歌「へいHeyっ! 久しぶりの御来客だっ!」
フサ「いや、悪いなー」
少女「何か面白いゲームないかな」
「ふむう……」
学校も終わり、放課後。今日は特に眠いので足早に家に帰ると、何かたまり場になっていた。何故に
こうなるのか。
その理由は、こちらのVTRをどうぞ。
フサ等三人の証言の元による回想シーン。
少女『さぁ! 吸っいっ込ーんでっくれいーっ! 僕のさーみーしさー! 孤独ーをぅぜーんぶ君がぁー!』
場面は少女から始まる。授業が終わり、放課後。暇なのでコチラの家まで行こうと考えた。
少女『さぁ! 噛みくだーいてっくれいーっ! くだらん事なやーみーすぎーるぅ! 僕のー悪いーくっせ
ーをーぅ……う?』
しかしこの少女。住所をネットで調べここまで来たはいいが、ネコを見つけたのが悪かった、「何だ
コイツは」という顔をしながら逃げるネコを追いかけ僕(しもべ)にした挙句、すっかり道に迷ってしま
った。『さて、どうしようかしらん』などとぼけらんと迷う。『迷っても迷わなくても、まあ、どっち
でもいいんじゃない? 棒が倒れた方に行こうかしらむ? いっけー、俺の転ばぬ先の杖(シャイニン
グステシック)うううううッ!! ……何で転ばんし』
みたいな。
というか、どうしてそんな状態で来ようとしたし。
少女『なんとなく』
そうですか。
少女『後、なんかゲーム持ってそうだったから』
それで家に来るとか何時の時代ですか64世代ですか。オンラインとかは?
少女『だって、オンラインじゃヤバイ時に直接攻撃できないじゃん』
コイツ……出来るっ!
少女『さぁ! わらあってーくれいーっ!』
少女、確かにそれは一人で熱唱したくなる名曲だけど、ちょっと黙ろうか。
少女『しゅん……』
と、まあ、少女が迷子の迷子の子ネコちゃんとなって落ち込んでいた、その時、
フサ『ん? おー、少女ちゃんじゃないか。おはよう』
犬のおまわりさんことフサ登場。
少女『エッスオーエス!(チャチャ)エッスオーエス!(チャチャ)』
フサ『えっ?』
少女『コイツは犬なんてちゃちなモノはじゃない。男は狼なのーよー、気を付けなさーいー』
フサ『いや、何言って……』
少女『いやー、止めてーっ! この人、私を誘拐するつもりよー!』
フサ『え、いや、ちょっと……』
フサ、お前……。
フサ『誤解だっ!』
少女『助けてーーーーっ!!!』
愛歌『ちょっとそこの人! 何やってるんですかああああ!!』
そこに愛歌登場。
フサ『あ、愛歌。良い所に来た。何か誤解さ』
愛歌『ウルトラブルカノンッッッ!!』
説明しよう、ウルトラブルカノンとはッ。ウルトラ級のTwoLOVEるをカノンする(つまり出逢
い系フラグをアボーンする)極悪絶技であるッ。その実態は上段横蹴り。
フサ『え、ちょ、まっ……』
その蹴りはフサの腹を捉えた。クリティカルヒット。
フサ『ぐっふ……』
大体、五メートルくらい吹っ飛んだ。
愛歌『全く……』
少女『ううぅ、お姉さーんっ!』
愛歌『大丈夫ですか!? ケガはな……あれ、少女ちゃん?』
少女『はい、少女ちゃんでした』
愛歌『そ、そうだったんだ。はあー、良かったあ。無事で』
フサ『よかねえよっ!』
そんなこんなで少女はフサと愛歌に事情を話し、コチラの家まで案内してもらったのでした……と。
こんな感じかな。
少女『説明乙』
ありがと。
愛歌「私とフサもソッチの家に行こうとしてたんだけどね。そしたら偶然バッタリってわけなのだよー」
「ふーん、成程。でもま、これでコッチの家までの道を覚えられたわけだ」
少女「そうねだいたいねー(ガサゴソ)。あ、『ボクとマオー』がある。レアい」
「って、ちょっとそこの娘、ストップ。ゲーム漁るのは止めろ」
少女「えー」
「『えー』じゃない」
少女「しぶしぶ」
「『しぶしぶ』でもない」
少女「もぐもぐ」
「食べるんじゃない。『しぶしぶ』も『もぐもぐ』も音を発するな」
少女「(しぶしぶ)」
「コイツ、直接脳内に……っ。止めれ」
愛歌「コラ、勝手に漁らない。流石にそれはダメだよ」
少女「お、おおう……」
コッチ以外の第三者に怒られるとは思ってもみなかったのか、意外にたじろぐ。愛歌は誰でも割と分
け隔てないからなあ。そこが彼女の良い処だ。
愛歌「やるならスマブラだ」
「っておい」
フサ「イヤか? じゃあ……お、エアライドがある。コレ何気に面白いんだよなあ」
「お前もかっ」
少女「パーティゲームが嫌ならこの星のカー○ー64をやらせてくれ。ボスラッシュがしたい」
愛歌「たまにしたくなる不思議! そしてすぐ飽きる」
「だから勝手に漁るなと……」
少女「さっきからそればっかり」
「勝手に触られるのが嫌なんですぅー」
少女「……ああ、成程」
「な、何だよー。ニヤニヤして」
少女「そう言えば、君は公園で私の事をズル扱いしたね」
「そ、それがどうしたの?」
少女「勝手にゲームを選ばれるのが嫌な事。それが示すはつまり、君は私にまた負けるのが怖いんだ。私に
ゲーム勝負を申し込まれても、自分の土俵じゃなきゃ勝てないんだ」
「む……いや、そんな解り切った挑発には……」
少女「やーいお前ん家、おっばけやーしき」
「上等だゴラァっ。その勝負、受けて立つっ」
愛歌「はい、お約束お約束♪」
フサ「じゃあ、お前と少女の一騎打ちだな。そんなこと言ってまた負けるなよー」
「ボッコボコにしてやんよっ」
少女「お前がなあ!」
スマブラ
「いけええええマルオおおおおおおっ!!」
少女「眠る攻撃(カキーン」
「ぎゃーっ」
少女「眼を瞑ってても倒せるな」
マリカ
「ここを逃げ切れば……っ」
少女「赤甲羅三連」
「ひでーっ」
少女「そしてついでに体当たり水ドボン」
「ちょ……」
ぷよ
「十一連鎖―っ」
少女「二十連鎖」
「あひーっ」
少女「本当の悪夢はこれからだ」
ストファー
「なら格ゲーだっ。はどーけんっ」
少女「すくりゅーぱいるどらいばー」
「アホーっ」
少女「アホじゃないです」
「ぐへー」
全敗した。
少女「YOU WIN」
愛歌「はい、お約束お約束♪」
フサ「ボッコボコだな」
「うわーん」
少女「ふっ、他愛もない……」
くそー、コッチはその手の大会でもそれなりに上位に入るレベルなんだぞ。幾ら最近触ってなかった
からって、この差は……はっ。
「貴様……何者だっ」
少女「俺か? 俺はただの……引きこもり(ホムホム)だっ!!」ホム=HOME
「コイツ……出来るっ」
愛歌「出来ても引きこもりさんだからね」
フサ「じゃあ、ソチラさんが気持ちよく負かされたところで、俺達も混ざろうかなー」
「ま、まだ負けてない……」
愛歌「ふふふふ。アッチで負け犬吠えている奴など所詮口だけ。この『電脳遊戯(Eーmotion)』の
愛歌はもっと強いぞ!」
「いや、だから負けてな……」
フサ「そして『剣戟の響き(グングニル)』ことフサはもっともーっと強いぞ!」
「聞いてっ」
少女「ふははは! いいだろう。ならばこの『悠灼けの灯(トワイライト)』こと私が相手になってやる!
かかってこいやー!」
「…………」
少女「……で?」
「…………」
少女「本当にまだやるのか?」
…………ふっ。
「当たり前だっ。ならばこの『さらば夢想の日々(マギ・ステル・マギ)』。PC一つあればMP3音
楽を聴きながら同時にMP3データを構築できたりできなかったり相手の住所氏名年齢電話番号から外
見3サイズ家族構成友人関係多様な好み果てには初体験の日まで調べ尽くしたり尽くさなかったりした
と言われるかつてBPS(バトルプログラマーシラス)と呼ばれたこのコチラに勝てるかなっ」
愛歌「それゲーム関係なくね?」
「全員めっためたにしてやんよっ」
愛歌「ん? そんなに自信があるなら、三対一にしよっか」
「え?」
フサ「さて、勝てるかなー」
「いや、ちょっと……」
少女「さあ、ふるえるがいい」
「ま、待っ……」
あぁー……
○ ○ ○
じゃあ、またねー。
日も暮れて、夕方。何ていいながら、フサと愛歌は帰って行った。
「じゃあ、私も帰りますか」
「ん。そう」
「でもその前に……」
「…………?」
「何か商品が欲しいな」
「商品?」
「うん。ソッチに勝ったね」
「む……アレは本気じゃ」
「敗者が喚くな」
「君って割と毒舌だよね……」
「というわけで、何か商品をぎぶみー」
「商品……」
って言われても、ねえ……。
「お菓子は?」
「むーん」
「ゲームは?」
「むむーん」
「肩叩き券っ」
「何でレートが下がってくるのかな……」
「じゃあ、何が良いのさー」
「……それはねえ」
そう言って、少女はにやりとした。
「貴方が欲しい」
……まあ、予想はできた。
「つまり、『一日だけ貴方を好きにしていい権利』って事?」
「そうだね。具体的には、今週の土曜日にそこら辺をブラブラ使用って事」
「それってつまり……DATEですかっ。シティへゴーした後ホテルのベッドでイチャイチャオールナイト
ですかっ? イケナイ事しよっかなー」
「DATEにHを加えてゴチャゴチャすると『DEATH』になる不思議」
「Oh……」
でも……これは初めてかな。星座を見に行こうと『提案』はしたことあるけど、一緒に遊びに行こうと『
誘う』事は初めてだ。その二つは似ているけど、積極性が全然違う。これは、それ相応にコチラの事に興味
がある、という事なのかな。
「で、どうなの?」
なら、その応えは……
「勿論、良いよ。喜んで」
「変態」
「何でやねん……」
「じゃあ、土曜日。駅の近くで待ち合わせという事で。またね」
「んい。楽しみにしてるよ。じゃあね」
そう言って、少女と別れた。
そこら辺をぶらぶらと、ね。少女は計画立ててやるタイプじゃないと思うけど、それなりに準備しておこ
うかな。
そう思いながら、今日を終えるのだった。
○ ○ ○
「――――――――」
…………。
「――――――――」
…………。
眠い。眠い。眠い。
近頃、凄く眠い。どうしてかは解らない。夜更かしもしていないし、程々に疲れている。体調は悪くない
し、睡眠が浅いというわけでもない。
でも、無性に眠い。眠らずにはいられない。
「――――――――」
眠い。眠い。眠い。
「――――――――」
眠い。眠い。眠い。
「――――――――」
眠い。眠い。眠い。
夢を見る。ぼんやりとした夢。気分が悪い。煙が、灰色の煙が、頭の中に充満する。何も考えられない。
視界が眩む。感覚はない。ゴムのような感覚。摩擦が無い。足が滑る。色があせる。色が消えていく。全て
は透明へ。光の中へ。
「――――――――」
「――――――――」
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――あ」
「――――っ」
……えっ、と……あーと……?
キーンコーンカーンコーン
その音と共に、机に座っていた人形が突然に動き出す。いや、人形じゃなくて、人間……でもなくて、
クラスメイト。友達。ユーアーアンダスタァン? イエスイエスイエス。って、そうじゃなくて。
「…………ああ」
どうやら眠っていたみたいだ。
何だか、この頃やけに眠い。夜更かししてるつもりはないんだけどなー。成長期なのかしらん? な
ら、もう寝たくないけどなー。何故って、アレは子供の時にだけしか会えないからね。コッチはまだ会
った事ないから、大人になる前に会わないと。どうせなら、お隣に引っ越してくればいいのになー……
隣のトト○。
お隣さん家に住んでいるから何時でも遊びに行ける。もしかしたら朝に窓から起こしに来てくれるかも
……って、
「やば、それって幼馴染特性ジャン」
俺の幼馴染が夢じゃ無さ過ぎてヤバい、みたいな? ぼっさぼさー、ぼっさぼさー。お隣さん家がぼ
っさぼさー(森で)。ヒロインはビッグトトロ、ミディアムトトロ、ミニマムトトロ、後、猫バス。非
実在系彼女。いや、メイちゃんは実在してるから。あれただの影の付け忘れだから。勝手に小難しい哲
学的解釈を付けるのは止めてあげなさいこの気取り屋め。因みに、コッチはメイちゃんの名前を叫ぶ真
似が大得意だぞ(誰得。でもアレやるとヤギまでくるんだよね。お前のトウモロコシねーから。
え、ネヴァーランドに連れて行ってくれる某緑の服も子供特権だって? いや、大丈夫。アレは大丈
夫なんだ。何故なら、アレは大人にもチャンスがあるからだ。ネヴァーランドには子供を連れていくピ
ーターパンの他にも別のピーターパンがいるのさ。その名も、○―ターパン。大人版さ(何)。
子ども「ねえ、○ーターパン、ネヴァーランドに連れてってよ!」
「いいさ。さあ、行こう!」
子ども「ウン!」
大人「待ってくれええええええええ!! 俺も連れて行ってくれええええええ!!」
「うわああああ!!?!??」
大人「とぅっ!!」
OTONAのジャンプ。大人はピーターパンにしがみついた。
大人「ふははははは、これで俺もネヴァーランドに……ん?(もみもみ)な、何やらピーターパンの胸に柔
らかいものが……? はっ! ま、まさか、ピーターパン、お前ッ!!?」
「そ、そうなんだ。僕は実は女の子なんだ。誰にも言わないでね…………お父さん」
大人「さすが大人版ピーターパン!!!!」
阿保か。
「何考えてるのか」
そうなんだじゃないよ、もはや遭難だよ。漂流してるよ。何考えてんだよ。
寝起きだからか、頭の回転がいい具合にヘンテコだ。あー、ぼーよー、ぼーよー(茫洋)。
「うーん……」
伸びをして深呼吸して、眠気を飛ばす。うーん……やっぱり眠い。
愛歌「あっ、やっと起きた」
そう、声をかけてくる人がいた。
「むあー……どちら様で?」
愛歌「愛歌様だこのばかよろぉー」
べしっ
「ふあっ……何するんですか愛歌様」
愛歌「まだ寝てるのかと思って」
「果たして、この現実世界が本当に現実なのだろうか……」
愛歌「イタイ子イタイ子飛んで行けー」
「妄想世界にトリップしちゃうよ……」
そう言った後、大きく欠伸した。
愛歌「大きな欠伸―」
「眠いのだよ……」
愛歌「呆れた。あれだけ寝てまだ寝たりないの? 朝から昼までずっと寝てるじゃない」
「うえ?」
愛歌「『うえ?』じゃないです。もう昼休みです」
時計を見る。時計の短針が刺すのは12時。昼食の時間である。
「あれまー」
愛歌「『あれまー』も『オリマー』もありません。全く……」
「もっと早く起こしてくれよぅー」
愛歌「もうずっと寝てろ」ぎぎぎぎぎ(バックチョーク)
「ちょちょちょ止め……む、胸が当たってますよ?」
愛歌「当ててるのよ」
「あははははー、何時の間にかこんなに大きくなっ……」
愛歌「…………」ぎががGGGG
うわー、走馬灯がメリーゴーランドのようにぃ廻ってるぅ。ああ、何だろうこれは。身体が軽くなっ
ていく。大声で叫びたいくらいに幸福な気持ちになりそうだ。なぜだか、それはわからない。ああ、も
っと廻っておくれ。ぐるぐる、ぐるぐる、廻り続けている姿が、無性にきれいに見え……
フサ「それくらいにしておけよ愛歌。マジで落ちるぞ」
愛歌「およ」
そんな声が聞こえた後、するりと体が重くなった。空気が肺に流れ込んできて、少し苦しくなる。一
息ついて正気に戻った。危なかった。何か見えた。
フサ「……にしても。お前の妄想力でそれだけ寝れば、さぞ大層な夢が見れそうだなー」
「んえ?」
ヘンテコな声で訊き返した。まだ意識がはっきりしていなかったのだ。
フサ「いや、それだけ寝れば、良い夢が見られるんじゃないかなーと」
「あー、大層な夢ねー? うーん……」
思い出そうとする。思い出せない。思い出そうとするけど、思い出せない。
「忘れた」
フサ「勿体ない」
「多分、愛歌の所為だ」
愛歌「叩けば治るかも」
「止めてください」
幾ら幼馴染だからって、遠慮が無さ過ぎる。そういう所を直せば、それなりに魅れるのに……。実際、
結構モテるみたいだからなー、愛歌さんは。まあ、これだけ容姿がよくて男女分け隔てなく社会的なら、
それも当然だけど。やあ、コチラとは正反対。ま、それは置いといて。
「それに、夢日記付けるのももう止めちゃったからかなー。夢日記は良いよ。夢を覚えやすくなるし、
普段の記憶力も上がる……気がする」
フサ「でも面倒だからなあ。まあ、お前の場合、平時の記憶力も落ちてるっぽいけどな」
むう。確かに。昨日の夕食すら思い出せない。って、それは珍しくもないか。別にどうでもいいけど。
「さて、と……起きたはいいけど、何しよっかなー」
愛歌「何するの?」
「特に無かったりするんだなコレが」
起きてもやる事ないなー。また寝ようかな。
愛歌「そう言えば。天文部、話し付けてきたよ」
「? 何を?」
愛歌「いや、天体観測の」
「あー」
忘れてた。
愛歌「忘れるな」
「ど忘れど忘れ」
愛歌「もう……」と、愛歌が声を小さくして言ってきた。「ただ、天文部自体は貸してくれなくてねー。私
の知り合いがこっそり貸す形だから、この事は内密にね」
「あー、それは悪い事をしたかな。後でちゃんと感謝しておかないと」
愛歌「まー、いざとなったらソッチ一人が勝手に持ってったって事にするから大丈夫だけどねー」
「成程、それは安全だなあー……ってオイ(ノリつっこみ)」
でも、その知り合いに害が及ぶくらいならコッチがその害を引き受けた方が罪悪感他もろもろ込みで
マシだけど。それにコッチだと既に前科があったり無かったりだから、ちょっとくらいなら大目に見て
くれるかもしれないしねー。
フサ「なら、これで準備は良しか?」
「そうだね。後は日取り。家の灯りとか考えると深夜がいいかな。日曜の」
フサ「日曜か……」
「うん。次が休日だと、寝るのが遅い人とかいるだろうから。だから、週の終わりの日曜とかが狙い目
じゃないかなーと。それにコッチのもろもろの準備でそれなりの日時が必要だし」
土曜が少女と遊びに行く日だからちょっと込む日程になるけど、まあ、いいか。
フサ「成程。それが良いっていうなら、仕方ないな」
愛歌「早めに寝ておかないとねー」
フサ「ソッチは寝坊するなよ」
「流石にそこまで寝太郎じゃあ……はい」
フサ「大丈夫かよ……」
「大丈夫大丈夫。大丈夫ッタラ大丈夫」
フサ「不安だ……」
「しかしどうして、失敗というモノは不安すら感じさせないものだけどね。じゃあ、コッチは屋上に行って
くるよ。多分、少女がいると思うから、天体観測の件を伝えにね」
そう言って、屋上へと向かった。
きぃ
ひゅおー
「ゆっ……」
うわ、さぶ。
思わず変な声出ちゃった。
「うー……もう本格的に冬だな。いや、冬の定義何て知らんけど」
寒い寒い。風が突き刺すように肌に沁みる。冷たいを通り越して痛いですよコレは。こんなかじかんだ冷
たい手でコンクリートとかに皮膚を擦った日にはもう……ゾックゾク。いやあ、良い季節になった。寒いの
は好きだ。キンキンとした冷たさが眼を覚ます。その冷たさが心地良い。とは言っても、我慢できるレベル
でですけどね。そりゃ寒すぎたらコタツで丸くなる猫ですよ。現代っ子は甘ちゃんなのです。まあ、そんな
事はさて置き。
「少女は、と」
さて、こんなに寒いのに少女はいるのかなあ。あの子って今にも風で倒れそうだからなあ。
「って、すっかり屋上が少女を探す場所になってる……」
何時もは一人で本読んだり眠ったりする憩いの場所だったはずなのに。そう言えば、今まで屋上で少女に
エンカウントしなかったのは不思議だなあ。あの子、屋上とか好きそうなのに。メタルスライムか何かなの
だろうか。確かにあの子、防御力はなまら高いけど、体力は無さそうだ。でも経験値はどうだろねー。はは
は……
「いない」
笑った顔でふぅ、と息を吐く。
屋上には少女の姿は見えない。さて、何処へ行ったのかな?
「あ、そうか」
上か。さらに高い場所。給水塔まで行くための梯子に行く。因みに、梯子は他の人が登れないよう、先端
が少し高い所に設置してある。コッチだと頭よりちょっと上の高さ。だからこれを上がるためには、通常は
足場か無理やり上るための腕力が必要だ。
「けど、足場がちょこんと置いてあるわけもない」
登らせないための対策だからね。置いてあるわけがない。という事は、少女は腕力で上ったという事かな。
「身が軽いんだなー」
公園での事を思い出せば納得だけど。
そう思いながら、梯子を掴み、身体を持ち上げる。微妙に錆びついているので、折れたりしないかちょっ
と怖い。折れたら背中からドーンていってついでにコッチの背骨も折れたり……
「…………」
これ以上想像すると動けなくなるので止めとこ。気を取り直し、カツン、と足を置き、五、六歩上がると、
すぐに天辺が見渡せた。
そこには、少女が眠っていた。階段を上り切り、少女に近づく。さて、寝てるとは……まあ、ちょっと予
想してたけど。さて……じゃあ、どうしよっかなあ。起こす? いやいや、とんでもない。ここはもちろん、
イタズラでしょ(輝くスマイルで)。
というわけで……良し、視姦しよう(何)。
「はあ……はあ……これが少女の身体」
ヤバい、かなり気持ち悪い。自己嫌悪。
「頬っぺたぷにぷにだなー。柔らかい」
「む……うんん……」
あ、嫌そう。頭でも撫でてやるかな。
「……うむ……すー……」
うん、幸せそうな顔になった。それにしても、何て顔で寝るのか。寝る事こそ至福の喜び、って感じで寝
てる。そう言う顔を見てると……まずますイタズラしたくなっちゃうなあ。ではさて。手始めにハサミでス
カートの丈を短くしてホームレスの前にでも放置……
「って、イカンイカン」
これ以上ヤったら犯罪だ。
「非常に名残惜しいけど、そろそろ起こしましょう」
コチラのかつて封印した嗜好が目覚める前に……。
「というわけで……起きなさい。起きなさい。私の可愛い少女や……」
「…………」
「へんじがない、ただのしかばねのようだ」
これは少女的に眠ってるー……なんて。
むう、起きないな。頬を突いてみる。起きない。頬をツネってみる。起きない。ふむ、と少女の顔をジッ
と見る。安らかな寝息を立てている。綺麗な顔してるなあ。頬とかぷにぷに。ていうか肌が凄い綺麗。これ
地肌? ちょっと羨ましい。髪をちょっと撫でる。そこから、唇に向かって指を滑らせる。白い肌だなあ。
ほら、真っ青な唇と対照的で……
「凍えてるやん」
このままじゃあ、パトラッシュ召喚しちゃうぞ。
「……ってギャグってる場合でもないや。おーい、寝るなー。エターなるぞー(※永遠に眠るの意」
体を起こして肩をガクガクと揺らす。
「少女よ……目覚めるのです。でないと一生寝る事になるよ」
「う、うう……」
「気付いたか、少女」
「う、うう……まい棒が、食べた、かっ……(がくっ)」
「待て、寝るな。そんな意味の解らない遺言は許さない」
「コーン、ポタージュ味が……」
「お好み焼き風ならあるけど」
「何であるし……」
「ソッチにつっこまれるとは心外な」
「まあ、別にいいけど……」ペリペリ。バサー。「粉々やん……(ガクッ)」
「待て、寝るな。顔の周りがうまい棒だぞ」
長いので一部省略。
「ほら、寝たらだめだよ」
「眠い……」
「寝るとエターなるって」
「エターなってもでもええねんで……」
「あー、そう言えばそうだったね。いや、君が飛びたいのはあの廃ビルででしょ?」
「えー、あー……うん」
「おい、もうどうでもよくなってないか?」
「そんな事は……ぜっとぜっとぜっと(ZZZ)」
「おい、トリプルゼット止めろ。終いには往復ビンタするぞ」
「やれるもんならやってみr
あぁー……
「責任……取ってよね」
「嫌です」
往復ビンタは流石に酷だったのでメモを残して帰ろうとすると、しぶしぶ起き上がってきた。せっかく良
い夢見てたのに酷い奴だ、とどくどく言われた。
「何時もここで寝てるの?」
「流石に雨の日とかはあんまりしないよ?」
「いや、そりゃそうで……」
……あんまり?
でも、それで納得がいった。コッチが少女と逢わなかったのは、少女が何時も給水塔にいたからだ。コッ
チはそこには行かない。という事は、少女はコッチの事を上から見ていたかも知れないなあ。まあ、聞くの
は野暮かな。
「因みに、どんな夢を見ていたの?」
「それは……アレだ。うん、ぷぷっぴどぅ〜」
何それ、お色気系?
「要するに覚えてないと」
「お、覚えてるよ。少女が信じられないの?」
「ハンッ」
「鼻で笑われたし。まあ、どうでもいいや。それで、何か用?」
「『君に会いに来た』っていんじゃあ、ダメかな?」
「ダメに決まってるだろ(゚Д゚)ハァ?」
「マジかよ……」
「で、何の様なんだよ。チッ」
「くそぅ、何も進展していない……っ」
「何も無かったら帰るからな」
「何でこの子こんな上から目線なのかな……。えーと、天体観測の件なんだけど」
というわけで、コッチは天体観測の件を話した。
「つまり、かくかくしかじかまるまるさんかく、くーねるところにすむところー、いうわけか。成程、把握
した」
本当だろうか?
「土曜はそこら辺をフラフラするというのに、日曜は天測ですか。インドアなアウトドア派な少女には辛い」
「一応訊くけど、それどんな派閥?」
「室内で外のように振るまう」
「凄い迷惑だから止めようね」
「しかしそれは外に出るのが恐い故でもあったりはないんだなそれが」
「君の生き方ってコロコロ変わるね……」
「そういうもんでしょ。アイデンティティの崩壊とか言ってる人はそこんところを解っとらんのですよ。そ
もそも自我というのは他人によって成り立っている部分もあるわけで、故に他人によって自我が変わるのは
当たり前でありそれを前提にするのなら確固たる自我など在りえずむしろ流動する自我こそが正しい自我な
わけでありそれは水がその姿によって川や海や雨や水たまりや湖とは言われてもその本質は水に変わりない
ように……」
「一行で」
「何だかんだで自分探しの旅はけっこー楽しい」
「あれそんな話だったっけ……」
「じゃあ、こんにゃくダンス踊りながら舞ってるよ」
「三分間舞ってやるって事ですか。てか何それ」
「スッゲーふにゃる」
「お前はすでにふにゃってる」
「ひでぶ」
そう言って、少女は倒れた。
少女のこんにゃくダンス……何かちょこっと世界が平和になりそう。そして堕落して文明滅亡しそう……。
さて、用件は済ませた。後は……どうしよっかな。特に用事もないし……
「じゃあ、帰りますかな」
「帰るの?」
少女は素早く立ち上がりそう尋ねた。
「うん。二人(フサと愛歌)が教室に待ってるし」
「ふーん。じゃあ、私も戻るよ。寒いし」
「そうか。じゃあね」
「うん。……そうだ、土曜日の事、忘れないでね」
「はて、何だったかな」
「ぁ……う、ううんっ。別に何でもないよ。えへへ……そっか(ボソ」
「あんまりキャラ変わりすぎると反応に困るのですが」
「多重人格ヒロインだと全ての要素を兼ね備える事が……」
「出来るかもしれないけど、単一人格ヒロインにはなれない。つまりそう言う事だ」
「神にはなれないのか……」
「紙の上に存在するからね、皮肉な事に」
「高次元だからって良いわけじゃないんだなあ」
「三次元より二次元っていうわけじゃないけどね。じゃ、土曜日ね。コッチも楽しみにしてるよ」
「以下同文。じゃあね」
「うん。じゃ」
そう言って背を向けた後、チラと少女の方を見ると、心なし、少女は少し物足りなさそうな顔をしていた
ような気がした。
ちょっと悪いことしたかな、と思いつつ、教室へと戻った。
その後、つつがなく授業は終わった。
○ ○ ○
「……遅いっ」
今日は土曜日。これが何を意味するかというと、少女と遊ぶ日だ。ほら、ゲームやった日に約束した、ア
レ。待ち合わせの駅前でぼんやりと立ってかれこれ三十分。まだ少女は来ていなかった。いや、まあ、待ち
合わせ時間の一時間前に来てるコッチが勝手なんだけど。いやでもさあ、こういうのって早めに来て「ごめ
ん、舞った?」からの「ううん、いま着たところ」っていうやりとりが良いんだと思わないかい? こうい
うのは趣が大切なんです。え、古い? 知らん。というか、この二人は何をするつもりなんだろう……。
なんてどうでもいい考え事をかれこれ三十分はしているのだけど……さて、少女はっと。
「……お、あれは」
人ごみでも良く目立つ。いや、目立つというより、目立たなすぎる。だから逆に、よく目立つ。やがて、
少女はコチラに気付いたようだ。少女は何やらニヤニヤとしながらふらふらと風船のようにコチラへと近づ
いて来る。何がそんなに可笑しいのだろうか……傍から見れば普通に怪しい人だ。ていうかその歩き方は通
行人に迷惑だから止めなさい。とか何とか思っていると、少女がコチラの元へと到着した。
「ばばん、少女が現れた!」
「攻撃」
「ぇ……か、回避」
「攻撃。絶対命中。防御貫通。限界突破並びに奥義発動。月下雷光閃。少女は我に返った」
「ぐはっ。しょ……少女は仲間になりたそうにコチラを見てい」
「攻撃」
「ぬーん……」
少女を倒した。
「倒してどうするコノヤロー」
「そりゃあ君……装備とG強奪して放置?」
「酷い現実を見た」
「人型はソッチ系で」
「んー、むしろ何でも女性にするのが主流かと」
「森羅万象八百S−っ。極東島ヤパーナの現代道においては近代より森羅万象に女体の神が宿るというアニ
メズム的な世界観が定着してたりしてなかったり。ヤパーナさいこー」
「亡き女と書いて妄想なのだなーとシジミ。そんな事より……待った?」
「うん、凄い待った。三十分前に来てた」
「そこは嘘ついとけよ。まあ、いいや。で、何処に行こうか?」
「さーあねー。特に考えてないよ。ぶらぶらって聞いてたし」
まあ、そりゃ考えてないこともないけど。でも少女みたいな子の場合、あまり話さなくてもいいから歩い
てるだけでも良いしね。それに、街で普通に遊んでも少女は楽しくないだろうし。まあ、コッチ自身もあま
り興味ないから定型句的な遊びか、アングラでマイナーな変な場所しか知らないんだけど。
「そっちは行きたい場所ないの?」
「んー、特に。というか、あまり外には出歩かないので、何があるかさえ知らないですしお寿司」
成程。しかし、なら、行きたい場所もないのに、何で遊びに行こうとか言いだしたのやら……。もしかし
て、コッチと一緒に外に何処か行きたかっただけなのかな。それなら嬉しいけど。
「そっか。じゃあ、コッチが決めるとしますかな」
というわけで、何処に行こうかな……。
まあ、まずは。
「良し、ならばまず買い物だっ」
それは至極当然な選択だった。何故なら……。
「何故君は休日にこれからキャッキャウフフと遊ぶというのに学生服なんだっ」
少女は何時もの如く学生服だった。折角の休日だから少女の私服でも見られるかと思ったのに……っ。
すると、少女はこう応えた。
「それは、学生服着ていったら君が『買い物だっ』とか叫んで私の服を買う事に付け込んでこっそりと私を
着せ替え人形のように弄れる、と思ったからですょ」
「おのれえ、謀ったな孔め……って大丈夫か孔明」
「まあ、冗談ですけど」
さて、それは何処までが冗談なのか。
「とにかく、服を買おう。勿論、お金はコッチ持ちでね。というわけで、行こっか?」
「んいー」
さて、じゃあ、ゴスロリとかにでもしよーかなー。
そんな事を思いながら、デパートへと入って行った。
「というわけでまずは……コレだっ」
黒→少女が服着た姿。
カーテンが開けられると、そこには見た事の無い少女がいた。
「ほほー、これはこれは」
男子三日会わざれば括目して見よ、と言いますが……いや、女性は三分も待たずにこうも変身できるから
凄いですよねぃ。うん、可愛い可愛い。
「ねえねえ、今どんな気持ち? どんな気持ち?」
「…………」
「…………?」
なんか無言です。駄目だったのかな? いや……ではなく、コレは、
「……わー、うわー……これは、何といいますか…………恥ずい」
「ふむ。羞恥心は大事です」
そう、コチラは笑っていった。
「いやいやー、可愛いよー可愛いッスよー。流石少女だねぃ。おいちゃん、もう少女ちゃんに首ったけって
感じ? 元が良いと服も映えるねー。服が少女に合わそうとしてるー、的な? やー。うん、可愛い可愛い」
「や、やめろー」
「あははははは」
そんなこと言いながらも、ちょっと照れてるというか、笑ってるような気がする。この調子でもっと着て
もらおう。
「じゃあ、コレは?」
「う、うん……」
「コレは良いかな?」
「わ、悪くないと思うよ……」
「コレは嫌かな?」
「い、嫌じゃないよ……」
ふむ、なかなかに慣れてきたかな。なんか、着替え室に入っている少女の服を選ぶのは、本当に箱の中に
入った人形の服を着せかえしているみたいで楽しいなー。いや、むしろ愉しい、かなあ? ヤバ、忘れかけ
た嗜好に目覚めそう。程々にしないとねぃ? というわけで、じゃあ、今度は……
「コレだ」
「ゴ、ゴスロリ……」
「さらにロリロリっ」
「うわー……」
「後コレとか」
「コスプレですか」
「後これも」
「おわー……」
「次はコレ」
「この服呪われてない?」
「コレとか面白いよ」
「もはや何が何だか……てか何でこんなのあるし」
「じゃあねえ……」
「あ、あの、もう立ってるの辛い……」
「いやー、次はもっと面白いから。というわけで、これを……」
「あぁー……」
そんな少女の声は、虚しく空に消えていった。
「で? どれが良かった?」
「えーと……よく解らない」
「まあ、コッチの趣味で選んだ奴ばっかりだしねー」
後半は変なモノばっかりだったし。
「そうだね。じゃあ、君が選ぶ?」
「……それはダメ」
「?」
やけにはっきりと否定してきた。
「それじゃあ、私一人で選んでいるのと変わんない」
「……そうだね」
その通りだ。
「良し。じゃあ、もっとコッチの趣味を全開に生かして、何か見つけてきますかな」
「お願いします」
「うむ」
そういうわけで、選ぶことにした。でも、選ぶ服は決めていた。このお店は、子供の頃によく来ていた。
子供の頃、服を作る事に興味があった事がある。現実的な服を作る事よりも、アニメ的な服を描く方が面白
かったので、あまり長続きはしなかったけど。この店は普通からヘンテコなものまで幅広くそろえていたの
で、制作の練習がてら、アルバイトでよくこの店に通っていた。そんな服を作る過程でこの店の主人の娘と
仲良くなりその子を通じて主人とも仲良くなった経緯がある。まあ、何が言いたいか問いと言えば、つまり
……
「あった」
コチラが作った服を、置いてもらったりしていたという事だ。
「……どう、着た?」
「むぐ……ちょっと待って」
「…………」
「うー……ん、いいよ。開けるね」
そう言って、少女はカーテンを開けた。
「…………」
「……ど、どうかな?」
……それは、何というか…………」
「……やー、ははは」
何か、恥ずかしいッス。
「うん、いいよ。可愛い可愛い」
「ソデスカー」
その服は、特に目立ったとこもない。白い布地に腕の上部に二輪の紅色のストライプを入れただけの単純
な上服と、下部に横ストレートを引いた紅色のスカート。何処にでもある普通の服だ。
ただ一つ、変わったところがあると言えば……
「その服、良いと思う?」
「ん? うーん……」
少女は、少し考えて、そして言った。
「解らんね」
「……そっかー」
「でも、なんつかね。他のはちょっとビビったけど、この服はしっくりくる、って感じだねー。うん、気に
入った」
…………そっか。
「それ、実はコッチの手作りだったりするんだよねー」
「? そうなの?」
「うん。やー、大きさピッタリ? それ、子供の頃にこの店で働いてた時に作った奴なんだよねー。店の主
人とは仲が良くてね、出来がいい奴を置いてくれてたんだよ」
「色々やってんのねー」
「こんなの日常系だよ。非日常系なんてアレでナニだったり。ま、過去形だけどね。訊いてみたら、主人が
記念にとっといたみたいでさー。ラッキーだったよ。……それ、最後に一着だけ作った服なんよね」
「……ふーん」
「最後の総決算みたいな感じで作ったんだよね。、ソレ。想いのまま作ったら、そんな感じになったんだ。
今見ても何というか、味気ないなあ。この頃からこんな感じだったのかなあ、ははは。てかあれだね。女の
子に自分の服着せるって何かエロいね。縄とか鎖で縛りあげるよりもう自分のものにしたって感じ?」
「……変態」
「EXACTLY。変態で結構。それで……どうかな? もっかい訊くけど、気に入った?」
「ん……そうだね、気に入ったよ」
「……良し。じゃあ、今日はそれを着て街を歩こうっ」
「え……それはちょっと、」
「ええい、つべこべいわずにっ。あー、後、靴も適当に見繕うかな。じゃあ、コレにして……おじさーん、
会計。後、この服貰っていくね。え? そんなこと言わないでよ、別に思い出が無くなるわけじゃないんだ
し。そうそう。じゃあ、良いね? ……ん、ありがとうございます。というわけで、はいはいはいっと……
よし、OK。少女行こう」
「ちょ、ちょっと待って……」
そう言いながら、少女は慌ててついてきた。
「はははは」
何だかいい気分だ。女の子を連れまわすなんて久しぶりだからかな。少女みたいな子だと尚更引きずり回
しがいがある。なまじ普段ぽけーと無関心気取ってるから、こういう時にこそ色々と買い与えて喜ばせた
くなる。愛歌がよく、コチラを買い物に連れて色々と買い与えてくれるけど、こんな気分なのかな。何とい
うかなー。ああ、また変な嗜好が……。
「何か他の人に見られている感じがする」
「それは君が可愛いからさっ(歯キラーン」
「うわあ……」
「『うわあ』って……。まあ、いいや。次は何処行こっか」
「何処でもー」
「んー。じゃあ、おもちゃ屋でも行く? 知り合いの店で、面白い所があるんだよね」
「ほう……」
あ、ちょっと興味ありげ。
「良し、じゃあ、行こう」
そうやって、色々な場所で遊んだ。
そして遊んだ後は……
「お腹へりんぐ」
「もうお昼だね。何か食べたいものは?」
「特にない」
「じゃあ、そうだねー。持ち運べるものに……パンでも買って、歩きながら食べよっか。公園に行くのもい
いかな」
「何か凄い高級なものが食べたい気分」
「調子に乗んな」
「ぬーん」
色々食べながらブラブラと歩いて……
「二つで430円になります」
「支払いは俺に任せろー(バリバリ)」
「止めて」
お約束(何)をやったり……
「もがー」
「美味しい?」
「(もっひもっひ)……美味し!」
「良かったね」
「ほらお食べハトたちー」
「うわめっさきた恐っ」
「はははー、コイツぅ。あー、ダメだよお。順番にしないと、コラコラ、爪を立てるのはお止め、あ、ちょ
、だから駄目だって、あ、痛い、突くのは止めてくださいマジであちょっと止めてあ痛い痛い痛いそこパン
じゃない身だから私の肉だからちょっと穴が穴が開くからちょっと止め痛い痛い痛い痛い板井……板井って
誰だ」
「(放っておこう……)あそこのパン屋、なかなか遊び心一杯でよかったね。形を頼めばその通りに作って
くれるキャラパンなるものがあるみたいだし……今度、少女のパンでも作ってもらおうかな。そして千切り
ながら喰らおう……」
「(ガタガタガタ……)」
「おや、横から震度5の揺れが……」
公園で昼食を取ったり……
「ゲーセンでシューティングでもやるかっ」
「この華麗なる動きを見よーっ!」シュバババババ
「すげえ……壁蹴ったり大袈裟に避けたり無線使う動作したり、画面内のキャラと同じ動きしてやがる」
「これが贅沢な百円の使い方です」
「(ひそひそ……)うわあ、あの子凄い痛い子だ(ひそひそ……)」
「(ひそひそ……)神現るナウ(ひそひそ……)」
「(ひそひそ……)カッコイイ……(ひそひそ……)」
「(ひそひそ……)●REC(ひそひそ……)」
「ギャラリー凄い増えてるっ」
「おっと、俺の後ろに立つと安全地帯だぜ? こういうのはギャラリーを沸かせてナンボでしょ」
「ほう、良い事いう。っと、気を付けて少女。人質が出てき……」
「ヒャッハー、汚物は消毒だーっ!!」ドバババババ
「うわー……人質まで容赦ないとか」
「これもまたFPSの楽しみでしょ」
「いやまあ、それも一理ある下けど……」
「同志よ」
「でも点数下がる……」
「同志よったらどうしよう、ぷぷっ。(バキューン)あ、よそ見してたらミスった」
「テメーっ」
ゲーセンではしゃいだり……
「この店は結構レアなゲーム置いてたりするんよ」
「こ、コレは……! 何をトチ狂ったか後に多大な評価と反響をもたらしたくせに同人即売会で30本しか
販売されずその後すぐにサークルも解散してしまい事実上再販不可能と言われた幻のPCGAME!! 俺
はコレを買うぞーっ!!」
ざわ……ざわ……
途端に店にいた客がざわめきだす。
「うん……?」
「ま、待て少女、それは……」
「ふふふ……」
「誰だ!」
「ここの店長であるOYAZIだ。そのGAMEは金じゃ買えねえ」
「な、何だとっ!? じゃあ、何で買おうというのだ!」
「それはな……心意気だ!」
「心意気だと?」
「そうとも。この俺にゲームで勝ったならソレを譲ってやろう! 一回、100円」
「や、止めておけ少女っ。その店長はマジで強い。遊びながら金を稼ぐ、TVゲームは勿論、TCG(トレ
ーディングカードゲーム)やTBL(ボードゲーム)、果てには幼児向けのよく解らん奴まで遊び事なら全
てのジャンルを知り尽くした男だ。某STG東の幻想のルナティックを初見で突破するアホみたいな技術力
もさることながら、ポケ○ン大戦において能力値も知らず四つの技全てに攻撃技を振っている(笑)のよう
な初心者小学五年生にナチュラルに乱数調整したキノ○ッサ使って完封する非情さを持ち合わせる。数々の
凄腕プレイヤーが相手になったが、誰も彼を攻略する事が出来なかった。かくいうコチラも、その内の一人
……」
「ああ、ソイツの言うとおりだ。止めておけ小娘」
ザッ。何処からともなく男が助言してくる。歳は二十代半ばか。好青年のようだが、その立ち振る舞いは
熟年の尖兵を思い浮かばせる。
「お、お前は……奇怪止掛けの神<デス・エクス・マウ・クーナー>のサイガっ。その機械さばきはまさに
神業であり、いかなる絶対的境地も強制勝利するっ。三日間徹夜付で某蜂大往生STGのデスレーベル二週
目をクリアした後のセリフ、『もうええやろ……』はあまりにも有名」
「久しいな、地を駆ける閃光。その少女はお前のアレか?」
「茶化すなよ奇怪止掛け。一緒に遊びに来ただけだよ」
「はは、遊びか。昔を思い出す。ならば聞いておけ、遊び人の少女よ。奴はマジで強い。レベルが違う。例
えるなら悟空とヤ○チャ。奴はガーディアンヒーローズという対戦ゲームで熟練兵十五に一という状況を片
手操作で軽く覆す。かくいう俺もそのうちの一人……」
「ええ、サイガの言う通り……止めておきなさい、お嬢さん」
ザッ。またもや何処からともなく女が助言してくる。歳は十一、二か。その歳でこの世界に入ってくると
は珍しい。だが、強さというものに年齢など関係ない。
「お、お前は……弐蝶拳銃のカノンっ。対戦型ゲームにふらりと舞い込んでは蝶のように相手を魅了し、特
にサバゲーにおいてはまるで空を舞う蝶のように相手を仕留める戦場の蝶っ。この前もサラリーマンサバゲ
ー集団に勝手に一人乱入して全てを薙ぎ払ったとの噂。そして密かにサバゲー界隈では女神だとか悪魔だと
かファンクラブができているという……」
「久しいわね、銃謳無尽の行進曲<ガン・パレード・マーチ>。また撃ち合いしない? 今度こそ勝って魅
せるわ」
「止めておくよ。これ以上やると、君の心を撃ち抜きかねないからね」
「もう……。それはさておき、お嬢さん? ガンパレードのよしみみたいだから忠告しておくけど、奴はと
にかく強いわ。次元が違う。サバゲーにおいて普通に跳弾を狙ってくる。ていうかあんなの漫画の中だけか
と思ってた。かくいう私もそのうちの一人……」
しかし、それらを聞いていた少女は、不意に笑った。
「く、はははははっ! だからどうした?」
「何……?」
OYAZIの顔が異変を感じる。
「一つ訊くが……別に、倒してしまっても構わんだろう?」
「ほう……」
「む、無理だ少女。アイツは負けイベントだっ」
「例え負けイベントだとしても! 運命よ、そこをどけ! 俺が通る!」
「少女……」
でも実際、ゲーム会社が負けベントに勝った時のルートを考えていない場合ゲーム止まるんですけどね。
「それに、今は君がいる。私一人の運命が砕けても、二人の運命ならば砕けないっ!」
「少女……解った。なら共に戦おうっ」
「ははは、来るがいい。さあ、戦いの始まりだ! で、どのゲームにする? 因みに一回三回戦で、先に二
回勝った方が勝ちね」
「あー、じゃあ、ジェンガでもしよっか」
「よし解った」
「罰ゲーム描いてる奴ね。よーし、じゃあ、ジェンガ開始ー」
何だかんだで勝っちゃったり……(いや本当に買っちゃうとは……)
そんな感じで、面白そうな場所へ連れて行った。
そして、一日は瞬く間に過ぎていった。
「ふー……」
電車の中、座席に座って一息つく。時間が中途半端なためか、乗客は少ない。
何か疲れたなあ。まあ、それもそうか。こうやって遊んだのは久しぶりだ。疲れないわけがない。遊ぶに
も体力を使うなんて、一体、人生は何処で休めばいいのでしょうかねー、なんて。
コッチでさえこれなのだから、少女はというと……
「……すー……すー……」
なんとも安らかな寝顔な事で。少女は頭をコチラの身体に預けて、眠っていた。見た感じは、何時もと同
じようにのらりくらりとした感じだったけど……やっぱり、それなりにはしゃいでくれらのかな。なら、嬉
しい事だ。子供は眠るのが一番。でもそれは、それ相応に遊んだからだよね。……なんて。
でも、本当に久しぶりだ。こうやって遊んだのは。最近は、フサと愛歌とも、一緒に歩く事すらあまりな
かったから。何だか……戻ったかのような……それは、そう、
子供のこ
「――――」
ガタンゴトン、ガタンゴトン……
「…………」
ふと、眉をひそめた。妙に感傷的になっている自分に嫌気がさしたのだ。別に、深い意味は無い。ただ、
なんとなく気取っているみたいで、嫌になったのだ。
「でも……」
そうか。……そうなのか。こうも簡単に、あの頃の懐かしく、楽しい記憶は、こうやって今の楽しさと並
列に語られてしまうのか。
何だか、それは……
キキィー……
少し強く、車体が揺れた。カーブに入るには、少しスピードが出すぎだったのだろうか。
「…………」
ふぅ、と一息つく。
「……静かだなあ」
別に、そんなのは解り切った事だ。そうやって、生きていくのだ。楽しかったことも、悲しかったことも、
皆、どっかに置いてって。そうやって、誰もが皆……
ぼんやりとした夕焼けに包まれた電車。その紅の空間はひどく現実的にあやふやで、その空間の空気を吸
うコチラは、その空気に肺を満たされ、赤血球のヘモグロビンに乗り血管を流れ、体中に行き渡り、脳まで
も侵食し、ひどく、その身体の存在を曖昧にする。
そう絶え間なく揺れる電車は、まるで揺り籠の様で、窓から入る夕焼けは母の優しさのようだ。コチラも
自然と眠くなってくるけど、駅を逃したら行けないので頑張って起きる。それでも、頭の中はぼんやりとし
てくる。
ガタンゴトン……ガタンゴトン……
ぼんやりと考える。自分は電車に乗って、様々な駅へと行く。そこでは、人が入ったり、出て行ったり。
自分もまた出て行って……その駅の外で何かをやり遂げて…………また駅に戻って、電車に乗って。そして
また次の駅に行って……入ったり、出て行ったり。ソレを繰り返して……途中で……落ちる人も…………い
るけど……でも、それでも変わらず…………電車が……誰かの記憶を蓄えたり、吐き出したりして……終着
駅へと向かって……ガタンゴトン、て……向かって行って、何時か…………逝って……何時か来る…………
その場所へ……と…向かっ……て……て……てて…………ててて
ててててててててててえてててててててててててててててててえててててってててててててててえてててて
てててええてててててててててえてえててててってててててててててててててててててててててててててて
てえててえててててってててててててててててててててててててててててててってえてててててててててて
てててててててっててててててててててててててえててええててってっててててっててててててててってて
ててえてててってっててててててててえてててててててててててててててててえてててててててえてててて
キキィー
ピンポーン……
『――駅ぃ。――駅ぃ。次は……』
「……ねえ……起きないの?」
……え?
「うん……と?」
「着いたよ。降りよう?」
「…………」
「ボーっとしてるね。しょうがないなあ、のび太君は」
そう、誰かが優しく笑いながら、手を引っ張った。強くない手だったので、コチラから立ち上がった。何
時の間にか寝てたみたいだ。むう……何だか面目ない。って、少女は?
「起きた?」
目の前にいた。
「ほら……帰ろう?」
そう、少女は何時ものよく解らない表情で、そう言った。
「ふー、やっと帰ってこれた。やっぱり我が家が一番ですなー」
「帰るたびに言うセリフですね、解ります。後、ここは君の家じゃない」
てか、何、何時の間にか家に入り込んでるんですか。不法侵入ですよ。お茶とお菓子持ってきてあげるか
ら大人しくして動かない下さいね。
「茶じゃなくてフルーツ牛乳持って来いよ」
「何という我が家気分。睡眠薬入れちゃうぞー」
「えんがちょー」
飲み物とお菓子を入れて、リビングに持っていく。勿論、睡眠薬は抜きで。
「さて、何はともあれ。今日は楽しかったよありがとう」
「む……君がそうやって感謝の辞を述べるとは、意外だな」
「私のことどう思ってんだコノヤロー」
「い、言わせないでよ……バカっ」
「ツンデレら詰んでらー」
「おいおい……」
「アニメのツンデレが可愛く見えるのは視聴者に『あ、こいつデレるな』ってもう予備知識があるからです
よ! 既にデレ込みで見てるから可愛いんですよっ!! ハイここ重要! テストに出ますからね! 現実
にエンカウントしたらただの面倒くさい女にしか見えませんから! 後、ツンデレの本領は攻撃的なツンデ
レが恋した相手になじられ罵倒され泣かされてショボーとする時こそが魅力ですから、なよなよ系主人公は
そこんとこ理解する事。ここも重要ね」
「このドSが……っ」
「そんな私を惑わす君は一体何なの!?」
「SMならぬ新型MSじゃないのかな」
「新型MS(モビルスーツ)……!? コイツ、ニュータイプかっ! 種割ります?」
「コッチの種、中国産なんだ……」
「量産型MS! 黄色い!」
「食えれば何でもいいけどねー」
「そうですね」
ぱりぱりぱりぱりぱりぱりぱりぱり……
薄切り芋油揚げ(自家製)の音だけが今に響く。別に、空気が思いというわけではない。むしろ、これは
余韻。遊んだあとの。……多分。
ぱりぱりぱりぱりぱりぱりぱりぱり
ぱりぱりぱりぱりぱりぱりぱりぱり
ぱりぱりぱりぱりぱりぱりぱりぱり
ぱり
「…………」
「…………」
もう無くなった。
さて、新たな会話を出すか。
それでも、新たな菓子を出すか。
それとも第三の手? ゲーム? それともさり気にお帰り願う? ……まあ、少女の出方次第かな。コチ
ラはちょっと眠たいし。机にのぼーっと身体でも預けさせてもらおうかなあ。
「……ねえ」
と、思っていると、少女がそう言ってきた。
「まだ、ゲームの報酬は続いてる?」
「? ……うん、そりゃね」
一日好きにしてもいい……だから、時計の短針と長針が12時を指すまでは、ソチラの自由だ。
「……まるで、シンデレラみたいだね」
少女が小さな声で言った。
「ははは。君がシンデレラじゃ魔女も王子様も要らないよ」
「……でも、魔法にはかかってみたい」
「…………コチラに、魔法使いになれ、と?」
「駄目かな?」
「……ははは」駄目か……だって? まさか。「そんな事は無いですよ、シンデレラ。さあ、貴方の望みを
言ってください。今宵は願い叶う素敵な夜。星が降り、月が笑う、奇妙にも美しき夜。時計が十二時のベル
の鳴らすまで……この魔法はとかせません」
「何時も思うけど、漫画の登場人物ってよくセリフ噛まないよね。どうしてかな?」
「それはね、気取ってるからさ」
もしくは、その時の場面を、ずっと前から夢みてるから。
「成程。じゃあ、気取り屋の魔法使いさん。私の願いを叶えてくださいな」
「なんなりと、お申し付けを」
「じゃあ、言うよ。私の、願いは……」
その願いは、魔法使いには、あまりにも荷が重い願いだった。けど、今のコチラは魔法使いだから。だか
ら……その願いを叶える事にした。その願い事とは……
「……はい、出来たよ。……見て」
「…………」
「久々だから、上手くできたかわからないけど……」
「……君は、どう思うの?」
「可愛いよ」
「……なら、良かった」
その願いとは、それは、髪を切る事。
どういう心境かは、コチラには推し量れない。でも、少女の長い髪を切るという事は……何だか、とても
重い事のように感じられた。正直なところ、コレでよかったのか解らない。でも、上手く切ってあげられた
と思うから。まあ、一先ずは、それでいいと思った。
肩くらいに整えられた、短い髪。何だか髪と一緒に、色々なものが絶ち切られたようだ。それは、それは
きっと哀しい事。良い思い出であれ、悪い思い出であれ、無くなればちょっと寂しく思ってしまうように。
「…………」
少女は、さっきからふと気づくと髪を触っている。やっぱり、気になるのかな。コチラの眼が無い時に触
っているようだけど、バレバレだ。でも、コチラも少女の顔を覗いてみると……
「…………ふふ」
何やらちょっとニヤニヤしてる。注意して見ないと解らないほど表情が変わってないけど。
「何、どしたの?」
イジワルく訊いてみる。
「え、あ……うん」ちょっとキョドった。面白い。「いや、何か……人の作った服着て、人と一緒に歩いて、
遂にはこうやって人に髪切ってもらって……変わらずにはいられないなと思うと、ちょっとね……」
「…………」
何か、心が痛くなった。あまりにも純粋な回答だったので、意地悪く訊いた自分が酷くやましく思えた。
子供に、『本当にサンタ何ているのかなあ?』って訊くと『いるよっ!』って可愛い幼女さんにピュアに応
えられたレベル。SAN値ピンチ。悪い子でゴメンナサイ。
でも、だからこそ訊いてみたい。
「あのさ」
道具を片付けながら、そう言った。
「んー?」
「今更だけど……何で、切ろうと思ったの?」
「んー……さーあねー」
「…………」
「……怒った?」
「ちょっと」
「ゴメンナサイ」
むう……そう素直に謝られても。今日の少女は、なんかやけに素直だなあ? ちょっと怖い(笑)。
「………(-_-メ)」
何かおこったみたいだ。扱いにくい子。
「でも……なんとなく、だよ」
「……そっか」
心境の変化……そう言ってしまえば簡単だけど。少女の場合、ただのなんとなくなのだろう。心にアレコ
レ理由を探すのは、野暮というモノか。
「それで……どう? 切って良かった?」
「? 良いっていったけど?」
「いや、改めて聞かせてよ。コッチが切って、よかった?」
「…………」
少女は、ちょっと考え込んだ。そして、何処かイジワルするみたいに、首をちょこっと傾げて、髪を指で
弄んだ。そして、あまり変わらない、これもほんのちょこっとした、でも確かに笑って、こういった。
「うん、君が切ってくれて良かった。ありがとう。魔法使いさん」
「…………。どういたしまして」
色々なものが断ち切られて、色々なモノを棄てて行く。でも、新しいものを掴むためには、それは仕方の
ない事なんだろう。
でもやっぱり、それは寂しいな……。
「……? どうしての? 眼に髪でも入った?」
少女がそう言ってきた。
あ、やばいやばい。
「いや、何でも……いや、うん。そうだな。ちょっと……痛い」
「板井って誰だ」
「いや、そこはギャグるところじゃなくてだね……」
「手を叩いたら楽しいよー!! しあわっせなら手ーを叩こ。Hey!! Hey!!」
「いや、幸せだから手を叩くんじゃ……?」
「でも叩いてたら幸せになる不思議。ヘイヘイヘイヘイ」
パンパンパンパン
「…………」
何か少女さん、テンション高すぎじゃないデスカ? 大丈夫? 髪切ったからかな。少女、元から体重軽
いから、髪切っただけでも重しが無くなって飛んでっちゃうんじゃないのかな。やっぱり、何か変な具合に
切っちゃったのかも。なんつか、ある意味でキレたというか何というか、手に持ってた風船の糸が切れて風
にあおられひゅーらひゅらあって……。
「あの、少女さん。正気ですか?」
「だいじょーぶダイジョーブッ。ほらほら、手を叩こー。ぱんぱん」
……まあ、いっか。楽しければそれで。多分。
「よーし、じゃあ、おいちゃんも一杯叩いちゃうぞーっ」
「そのいきだぜBro(※兄弟の意)!! てーしょんあげてっこーぜーぃ!!」
「イェァッ。ヘイヘイヘイヘイっ」
「ふぅー」
パンパンパンパン
あ、何だろうこれ。やけにテンションが高くなってきた。テー叩くの楽しー。眠いのに無理して髪切るな
んて集中力使ったからかな。心なしか視界が回ってるような気がするし。少女はなんかヤケニ気分上々だし。
「あはははは。何か楽しいねー。そうだ、酒とかあるけど飲む? どぶろくとかあるよっ。勿論、自家製の
ねっ」
「いいねえ。飲んじゃう? 逝っちゃう? 開けてみよー可!」
「ヘーイっ。じゃあ、開けちゃおうかなー」
「でも未成年では?」
「このゲームに登場するうんたらー」
「ウンタラー」
「というわけでえ……開けるよっ」
そう言って、コチラは何やらデカい壺を取り出してきた。
「コレだ」
「ほほう。簡単に作れるの?」
「まあね。一般家庭でもそれなりに作れると思いますん?」
「でも、違法では?」
「許可あるよ」
「本当かよ。じゃあ、飲んでみていい?」
「飲みなさい、飲みなさい」
そう言って、少女についであげる。
「では……こ、コレはっ!」
「どう?」
「何かノドが凄い熱いぎゃー」
「まあ、お酒だしね。飲まないに越したことはないよ」
「何か一気に冷静になった。この気持ち、どうしようかしらん?」
「飲めば? もうコッチは飲むよ」
と言って、勢いよく口に運ぶ。
「ふむ……悪くないできだね。どう?」
「むう……」
少女はかなり躊躇っているようだった。まあ、アルコール度数は普通の酒と変わらないしね。飲みやすい
からって調子に乗って飲んでるとすぐ悪酔いするし。
「少女って、こういうの飲んだことある?」
「ある……けど、あまり美味しいものでもなかったから、そんなに」
「まあ、あまり無理しない方がいいよ? さっきも言ったけど、飲まないに越したことは……」
「いや、飲む」
「ほう?」
コチラがそう反応するが速いか、少女はコップ一杯分をぐびりと一気に飲み干した。って、家庭用のコッ
プで、一気にとな……。
「む……慣れると快感」
そう、少女は顔を赤くしながら言った。
「おいおい……」
「それにほろ甘くて飲みやすい」
ああ、なんか悪いこと教えてる罪悪感が……凄くゾクゾクしちゃうっ。
「ふふふ、いいね。もっと飲め。謡え。騒げー」
「おー」
「あはははは」
「あははははははははは」
「よーし、じゃあ、勝ってきたゲームで早速対戦だー」
「いいねえ、負けないぜっ。それPCゲームだけど多分エミュレーターが合うから何やかんやでTVでも出
来ると思うぜっ。コントローラーもあるよっ」
「さっすがだ! 良しやろうっ」
「よーしっ。スロットインPC起動。トランスミッションっ」
『あはははははははははははははははっ』
……途中から、あまり記憶がはっきりしていない。どうやら少女は悪酔いするタイプだったみたいで、な
んかやけにはっちゃけてたようで、さしものコチラも全く対応できず、無理やり許容限界を超えて飲まされ
て簡単にオチたようだった。それでも少女はコチラを無理やり起こし、それからは半覚せい状態でふらふら
といたような気がする……。それでも、何とか起き上がろうと奮闘していたのだが、気付くと雀か何かの鳥
がチュンチュンと言っていて、コチラは壁にもたれるように眠っていて、少女がコチラの膝に倒れ込むよう
にして眠っていた。酒壺の中は空っぽだった。
少女……恐ろしい子……(ガクッ)。
そう言葉にもならない音を発した後、また、闇の中へと意識が引きずり込まれていった……。
そして、
「なあああああああああああにやっとんじゃわりゃあああああああああああああああ!!!」
天体観測の集合の為に昼間にフサと愛歌が来たけど、すっかりリビングの惨状を片付け忘れてしまい、愛
歌にコッテリと怒られた……。因みに、髪を切った事は怒らないまでもその二倍の声量で問い質された。
そうやって、少女との日々は過ぎていく。二週間にも満たない、わずかな時間だけど。時間は変わらず過
ぎていく。でも、そう、長く続けるつもりはない。忘れてはいけない。コレはただのヒマ潰し。何時か来る、
その時までの。
その時には、せめて、安らかな眠りを。
幸せな終わりを――
第三幕「二人の神様―symphony―」……終
第四幕「天上の星――green ticket――」
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