第四幕「天上の星――green ticket――」   「準備はいい? 防寒対策した? 準備はいい?」 少女「AGG(オールグリーングリーン)」   「って、少女。それで行くつもりなの? 冬の夜をなめたらダメだよ」    見ると、少女は何時もの学制服ではなく、コチラが作ったあの服を着ていた。   「せめて他に羽織るモノとか……」 少女「これがいい」   「でも上着くらい着なさい。コッチのを貸してあげるから」 少女「しぶしぶ……」 愛歌「お酒何て飲んだからねー。湯冷めならぬ酒冷めでもするんじゃない?」   「茶化さないでよ。ホットなら歓迎だけど。あ、でも冷茶の方が好きかなあ、って。そうじゃなくて。取っ   てくるから、ちょっと待ってなさい」    そう言って、家の中へと戻って取ってくる。   「これで良し」 少女「ほやーん」  少女は手袋を頬に当ててぽふぽふしてる。やっぱり寒かったらしい。   「やれやれ。良し、じゃあ、行くよー」   『おー』    そして、夜の世界へと出かける。陽の生き物が寝静まり、陰のモノの怪が眼を覚ます頃。その世界はとて   も静かで、とても寒いけど、でも、とても落ち着く世界だった。温かいよりも、冷たい方が好きだ。きっと   それは、とても穏やかだから。    今は日曜の夜。四人はそろって、今から天来観測へと行くのだ。 愛歌「やー、こうやって皆で深夜徘徊するのも乙ですなー」 フサ「男女がこうやって歩いているのは、ちょっと不健全だけどな」 愛歌「そう言う事を考えているフサが、エロい!」 フサ「エロい!?」 少女「答えの無いーまーいにちが! ただすぎていくーじーかーんがー! これから先ーどーおなるのっだ   っろおー! わかあああああああらああああああっないッ!!!」   「そこのお嬢さんちょっと黙って近所迷惑」 少女「走り出したい気分」   「抑えて」 愛歌「…………」ニヤニヤ 少女「……何か視線を感じる」 愛歌「抱きしめて、いいですか?」 少女「な、何故に……まあ、別にいいけ、ぐふー」 愛歌「やー、なんか可愛いねー! かーいーねー? 買いねー!! 良いよ良いよー。長い方もみすてりあ   ーんで良いけど、その髪型もぽやーんっていうかちょこーんとしてて可愛いよーっ!」   「ぽやーん? ちょこーん?」 フサ「成程、解らん。まあ、今の愛歌に感性の共有を求めても無駄か」 愛歌「可愛いねー!」 少女「…………苦しい」    廻りくる百合展開? キマシタワー。少女が愛歌をセめるシチュエーションならちょっと興味ありますけ   ……おっと、ここからはOTOMEのロマンだ(何)。 愛歌「さて、じゃあ、学校まで何マイルーってとこかな?」    愛歌が少女の首に手を回しながら言った。少女は、まあ、温かそうなので良い気分っぽい。 フサ「んや、その前にコンビニで何か食べるモノでも買っていこう。ロクに夕食も食べてないし」 少女「そう言えば何か凄いお腹減ってる……」   「そりゃ君、酒飲んで気分悪いってトイレで凄いh」 愛歌「女の子はそんなことしないっ! てかなかった!」ドゴォ   「笑止!」グハァ    そう言うわけで、学校近くのコンビニによることにした。   「到着してから言うのもなんだけど、皆、お金ある?」 愛歌「ソレが全くないんだぜ!」 フサ「ああ、割とあるよ」 少女「無いんだなそれが」   「OK。じゃあ、皆、フサに恵んでもらうとしよう。あ、コッチもね」 フサ「え、ソッチも?」   「うん」 フサ「いや、ソッチが買おうって言い出したんじゃ……金ないのか?」   「無いんだなそれが。財布忘れたの今気付いた」 フサ「おいおい……」   「やっちゃったんだぜ」 フサ「『だぜ』じゃねえ。はあ、仕様がない。立て替え……るのも面倒だし、おごりでいいよ」 愛歌「ヒャッハー! お金がないのを黙ってたかいがあったぜ!」 少女「このコンビニのカップラーメンの味制覇してみよ」   「じゃあ、コッチはお菓子にしよう」 フサ「でも少しはコッチのみになってよね?」    ナウ、買い物中。 愛歌「さーーむいよー。このコンビニ冷え過ぎ」 フサ「こうさあ、水とか売ってあるだろ? でも水道水でも事足りるのに、こうやって百円も出して水買う   理由がよく解んないんだよなあ」 愛歌「プチブルジョワなのだよ。このブルジョワジーめ!」 フサ「ブルジョワジー?」 少女「隊長、何か変な味のラーメンを発見しました!」   「何、それは本当かっ」 少女「はい! 敵性確認! 商標……出ました! サバ味噌です!」   「味噌ラーメンだから安直にサバを入れたというのかっ。普通にアリじゃない?」 少女「流石。あ、じゃあ、このソーメンとかソバとかうどんや中華麺を混ぜたラーメンとかどうかな」   「もうそれラーメンというより乱麺だよ……味は?」 少女「味噌と豚骨と醤油と塩と麺つゆが混ざってます」   「溢れ出る麺つゆの存在感っ。混ぜるな危険」 愛歌「あ、揚げないから揚げがあったよ。コレすっごい不味い! というかから揚げとすらいえない!」 フサ「まあ、揚げてないですしお寿司」 少女「パンで何か変なの無いかなー」   「コレとかどうだ? ギョーザパン」 少女「あ、それ家でやってる奴だ! パクられた!」   「いや、何処でもやってると思う……」 フサ「どうでもいいが、ホカホカの炊き立てご飯もいいが、時々こういうコンビニの冷えたおにぎりの方が   旨いと感じるのは俺だけだろうか」   「同志よ」 愛歌「おにぎりとかボッタくりで好きじゃないです。普通に家で炊いた方が安い」   「愛が詰まっているのさ……」 少女「冷えた愛だね」   「誰が旨いこと言えと。後、もう一つ。どうでもいいけど、そろそろコンビニを出た方が良いかな」 フサ「ん? どうして?」   「こんな時間にこんな学生が、こうやって集まってウロウロしてるのは良くないらしい。と、店員が眼で言   っている」 店員「(少年少女の四人組……か。う、うらやましくなんかないぞっ)」ぶわっ(涙) 少女「こ、こいつ、直接脳内に……!」 愛歌「てか泣いてるし……」 フサ「それどうでもよくねえよ。そろそろ出よう」 少女「待って、今いいところだから」   「立ち読みしてるんじゃない」 フサ「あー、もうお前ら会計するぞー」    そんなこんなで、コンビニを後にした。    コツン……コツン……    暗い闇の中、不気味な音が響く。その中に…… 愛歌「うえー。くーらーいー」    やけに間延びした声が一つ、二つ、それ以上。   「そうかな。そんなに暗い?」 少女「いや、そうでもないけど」 愛歌「そりゃ、お二人さんは裏の住人ですから」   「コッチは闇は闇でも雷が入った闇雷属性だけどな。闇を切り裂く光の刃……サンダアーブレィードっ」 少女「じゃあ、私は闇光」   「アンコウって何それ(笑)」 少女「…………(-_-メ)」(ぺしぺし)   「あ、ゴメン、痛い。痛いイタい。少女が怒った」 フサ「まあ、確かに暗いな。早くシャバに出たいもんだ」   「何か出るかもねー」 愛歌「うえっ!? か、考えないようにしてたのに……」 少女「……って、何、腕に掴んできているんですか」 愛歌「だ、だって……」 少女「あ、あまり触らないで……歩きにくい……」 愛歌「お、お願いします……」 少女「むむむ……」 愛歌「くぅ、夜の学校がこんなに不気味とは思わなかった」    カツーン、カツーン……と、靴の音が響き渡る。しゃべる声がやけに五月蠅い。誰かに聞かれていないか   とソワソワする。見られてもいないのに何かの視線を感じる。今にも目の前に恐ろしいものが広がるのでは   ないかとゾワリとする。廊下の向こうは薄明りさえ無く、暗く、何も見えない。あの闇の向こうには、何が   あるのだろうか。それは解らない。それこそが恐怖。人は闇の中に恐怖する。しかしそれは、その中に奇怪   なるバケモノがいるからではなく、いるかどうか解らない、その不可解性ゆえなのだ。なんちゃって。 フサ「そうだなあ。夜の学校は定番とは言っても、実際来る事なんてあまりないしな。コレは本当に何か出   るかも」 愛歌「あ、あまり出る出るって言わないでよ……」   「ふふのふー?」 愛歌「そ、そうやって脅かそうとしたって駄目だからね。君には何時も驚かされてばかりなんだから」   「いやー。でも、今回は本当にデルかもよー?」 愛歌「だ、だからあまり出る出る言わないでって! ホントに出たらどうするの!?」 少女「『ホントに出たら』、ねえ? ……ふふふ」 愛歌「うえ……?」 少女「じゃあ、訊くけど。ところで…………」 愛歌「……は……はわわ…………(ガクガク)」 少女「アナタが掴んでいるのは……だーれーかーなー?」    いつの間にか、愛歌が掴んでいた少女の顔が真っ赤に染まっていた。 愛歌「き、きゃわああああああああああああっっ!?」   「あはははははははっ! ひはっは、ちょ、はは、見、はははっ! 見てよ少女、『きゃわー』だってさ。   あははははは! 愛歌ちゃんかーわイっ!?」     ガスン   「……たいです」 愛歌「全く……」   「どぉーしてコッチを殴りますか」 愛歌「どーせソッチの入知恵でしょうがっ」   「ばれたか。コッチじゃもう怪しまれてると思ったから、ダークホースだ」 少女「ホントに、怖いのダメなんだねー。こんなの定番なのに」カチカチ 愛歌「ううぅ……自分でも飽きれるよ」 フサ「それ何?」    と、フサが赤い光を出す懐中電灯を出す。   「赤く塗ったセロハンを張り付けてるんだよ。眼が光に慣れないようにね」 フサ「成程。それにしても、夜の学校侵入なんて子供の頃よくやったよな」   「やったやった。思春期全開のお盛んなペアがいないか探したよねー。で実際かなりいて逆にビビったけど」 フサ「小説は奇なり、だな。羨ましい」    その後、その現場を押さえて何たらしたり、その後、愛歌との間が微妙にあーだこーだになったのはいい   思い出である。 愛歌「思い出すなっ!」    愛歌が拳を突き出してくる。   「ふっ、二度も当たるかっ」 愛歌「闇が……アイツに味方しているというのか!」 フサ「馬鹿やってないで、そろそろ上にあがろうぜ? というか、誰かに見つかったりしないのか?」   「誰もいないよ。というか、『そして誰もいなくなった』」 フサ「おい」   「ま、男女のナニまでは把握してないけどねー」 愛歌「そういうのは観測しに来てないからいいですっ!」   「はいはい、解ったよ。急がないとね。でないと……追いつかれたら困るからねえ?」 愛歌「も、もうそれは止めて!」   「はっ。今、あそこに何か……」 愛歌「ゴーストパスタっ!」   「あべしっ」 フサ「あーもう。置いてくぞー」   「あ、ひ、一人にしないで……」    コッチも怖いんですょー?    屋上に行く前に天文部によって、愛歌が借りたカギで部屋を開ける。そこで、天体望遠鏡や星座早見盤、   その他天体観測に必要なモノを拝借した。それらを持って階段を上がり、屋上へと続く扉へと着く。   「むー……」    カチャカチャ   「……暗い」    手元がよく見えないので、鍵開けが上手くいかない。何度も開けてるのに、見えない程度で……腕が落ち   たものだ。かつては携帯のプッシュ音だけでグーグル○ースを起動し現在位置情報を把握できたというのに   ……。 少女「開かないなら別な方法があるぞ」    と少女が言う。   「別な方法って?」 少女「3階のトイレの窓の近くに換気扇と排水管があって、そこを使えば……」   「それ前に使ってたけど換気扇ごとボコッて落ちた事あるから嫌なんだよねー」 少女「危ないな……」 フサ「いやそりゃ危ないよ。てか大丈夫だったのか?」   「いや普通にねんざしたけど」 フサ「何故ねんざで済むし。……まあ、カギ開けが無理ならそれで」 愛歌「可弱い一般人には無理です」   「だそうです。というわけで、少女、光を」 少女「はーい」   「ありが……うわっ。赤いのはいいから。まあ、それでもいいけど…………」 フサ「鋳型とかでカギでも錬成しときゃいいのに。できんだろ?」   「んー? まあそうだけど。前に言わなかったっけ? そりゃマスターキーでも作ればいいけどさ、ほら、   コッチって注意散漫じゃん? 作っても無くすんだよねー」 フサ「あー……」   「家の鍵もそれでしょっちゅう無くしてさあ。五十回目の無くし時にピーンと来たんだよね。『そうだ、ピ   ッキング覚えよう』……と。それなら鍵無くしても110番しなくて良しっ。アレ高いよねー」 フサ「流石発想が違う。てか、ピッキングツールは無くさないんだな」   「こういう小道具はもう日常道具だからねえ。じゃあ、何で鍵無くすんだよと一人ツッコみ……あ、開いた」    カチャリ、という音をさせて、立ち上がる。   「さあ、開くぞー」 愛歌「私が一番乗りだー!」 少女「待て、ズルい」   「ちょっと、順番に……」    がたがたと音を立てつつ、ぎぃ、という音を立てて、扉を開けた。    びゅおー 愛歌「やっばー! すっごい寒い!」 少女「総員退避ー!」   「慌ただしいなあ…………っと」    冬の風が床を撫でる、夜の屋上を見渡す。   「へえ……」    何時も来ている屋上だけど、また違う感じがする。なんだか、やけに広く感じて、空気が薄いような感じ   がする。まるで、空にいるような……。 少女「何、一人で黄昏てるの」   「む…………」 少女「今は夜だよ。夢を見るか、見ないなら祭りだ。さ、行こう」    少女に連れられて、夜空の下へと行く。    その夜空は、満天の――   「満天の……」    星空。 愛歌「ねーねー、すっごい空だねー! 立眩みしそう!」    夜空は満天の星空だった。何処を見ても、星が眼の中に入ってくる。 少女「おー、すごいなー」「 フサ「まさに星が落ちそうな夜だ」 愛歌「ホントー。何時もはこうはいかないよ? 高い場所にいるからかな」   「いやあ、明かりが少ないからじゃないのかな」    ニヤリとしてそう言う。 愛歌「ん? ……本当だ。街が真っ暗」    この学校の屋上から街が見渡せる。そこから見える街には、何処にも明かりが灯っていなかった。 フサ「……何だこれ。どうしたんだ? 停電か?」   「さてね。ここら辺の電線でも切れたんじゃないのかな」 フサ「……まさかお前」   「子供の頃ならこれくらいできて当たり前だったし、現にやってただろ? 今日は、ちょっとやんちゃした   だけ。大丈夫、小二時間で復旧するんじゃないかな。知らんけど」 フサ「……はあ。まあ、いいか」   「そうそう。こんな星が落ちそうな夜なんだ。お天道様も見ちゃいないさ」 フサ「ははは。そうだな」 少女「なーなー」   「ん?」服を引っ張られたので振り返ると、少女がいた。「どうしたの、少女」 少女「冬の三角形ってどれ?」 愛歌「アレだ!」 少女「そうなの?」 愛歌「ワカンネ!」   「えーと、アレだよ。南東、天の川の上」    そう言って、赤い懐中電灯で空に三角を描いた。 少女「ふーん。じゃあ、どれがシリウスさんですか?」   「えーと、どれだっけ。待ってね、星座表持ってきたから」    性格には、星座早見盤とかなんとか。天文部の備品である。   「おおいぬ座がこうだから……アレだね」 少女「ほうほう」   「シリウス好きなの?」 少女「好きだよ。ギリシャ語で『光り輝く者』、『焼き焦がす者』を意味するセイリオスに由来していて、   中国語では天狼、日本語では青星(アオホシ)。カッコいい」   「星座ではなく星に興味があるとは。珍しい」 少女「うっとり」    そうやって、ぼんやりと星を見る少女。満足してくれたようで、良かった。 フサ「……愛歌、ちょっと」 愛歌「ん? 何かな、フサ君」    ふと見ると、フサと愛歌が少し離れて何やら話し合っている。ははーん、さてはアレだな。男と女のアレ   だな? そうかそうか、君たちもそんな間柄か。三バカのコッチを置いて……。いや、別に寂しく何てない   んだからねっ。 少女「……満足した。帰ろう」   「早いよっ」    少女は言葉通りに満足したような顔(無表情)だった。 少女「そう?」   「うーん、せめてもうちょっと眺めていかない? 折角だし」 少女「そーなのかー。なら折角だから、君のウンチクても聞いてやるとするかー。どうせそういう無駄知識   は君の十八番ならぬお箱だろ? うん? うん?」   「何で急に煽ってくるんだ……。いいだろう。ならばじっくりしっとり、お腹一杯喰らっていくがいいさっ。   まずはねえ……」 愛歌「あーーーーっ!」    いきなり愛歌が叫んだ。 愛歌「大変、家に忘れ物してきちゃった。ちょっと今すぐに必要だから取ってくるね!」   「取ってくるって……ソッチの家まで割と時間かかったよね。コッチが取ってこようか?」 愛歌「え、いや、大丈夫。自分で取ってくるから。ソッチは少女ちゃんと一緒にいなきゃね」   「まあ、そうなんだけど。夜の中を一人じゃ流石に……」 フサ「じゃあ、俺も行くよ。それなら大丈夫だ」    と、まるで予定していたかのようにフサが言う。   「……何を企んでいるんだか」 愛歌「た、企んでないよっ」   「ふーん」    ソッチが嘘つくのが下手なのは良く知ってるけどね。 フサ「ま、今日はうってつけだろ? こういうのは、タイミングなんてないって。もしあったとしても、そ   ういうタイミングは三分で何処にでもできるもんだ」   「ふっ、そういう経験はないくせに」 フサ「それはお前等とつるんでただけで、それなりにモテるんだぞ? コレでも。ま、というわけで」   「……まあ、いいや。なら、さっさと行っちまえ」 フサ「そうする。じゃ、行くか」 愛歌「うん。すぐ戻ってくるからねー。絶対だよ。絶対だからね」   「はいはい」    そう言って、二人は下へと降りて行った。 少女「……つまり、どういう事?」    一人状況を読めてなさげな少女は、そう首を傾げて言った。   「知識だけじゃ、文字は読めても心は読めないか」 少女「?」   「何、二人っきりになった、それだけの事だよ」 少女「ふーん。ほーか」   「そうそう。二人が戻るのは多分とても時間がかかるから、二人で星でも見ていようよ」 少女「……しょうがないなあ」    そういう少女は、まんざらでもないようだった。 「シリウスは、太陽を除くと地球から見える最も明るい恒星。『光り輝く者』、何て名づけられるのも納得 だね」 「私はむしろ、『光り輝く者』なんていうピンポイントな名前に当たる言葉がある方に驚きだけどね。中二 病だ」 「まあ、確かに。神話とか作っちゃう辺り、かなりの妄想癖があったに違いない」  それとも、実際にあったか。 「あの星々の中には、何十何百光年と離れている星もあるんだ。だから、今こうやって見ている星はもうず っと昔の物なんだよ。何か不思議だね。そう考えると、普段見ている星でさえこうなんだから、眼で見える モノなんて、そんなに信用できるものじゃないのかもね」  そんな話をする。  「星座を作った人は、暇人だったに違いない」  少女がそう言う。 「そうかもね。昔はゲームとかテレビが無かったし。ちょっと考えらんないね」 「現代の若者は外を見る事を止めてしまったのだ」 「でも、星座作りが今のゲームやテレビだったわけだ。じゃあ、今と何も変わらないね」 「星座は外にあるけど?」 「違うね。頭の中にあるのさ」  そう、微妙に恥ずかしい言葉なんかを語ってみる。少女と二人、冷たいコンクリートの上で座って、何を するでもなく、ぼんやりと星空を眺めている。その星空は、淡くけれど確かに空に瞬いていて、ずっとずっ と動かない。まるで、空で眠っているよう。 「……寒い」  と、いうわけでもないか。 「そうだね。毛布があるけど、いる?」 「欲しいです」 「じゃあ、取ってこよう」  コチラが持ってきた荷物の中から、毛布を取り出す。 「はい」 「ありがとう」 「何か飲み物とか持ってこようか? 携帯ガスコンロ持ってきたんだよねー」 「ミルクある?」 「あるよ。取ってこよう」  一時のティーブレイク。ふー、ふー、と熱を冷ます。白い霧が空に消えていく。 「美味ですなあ。身体に沁み渡る」 「そうですねえ」 「と、言いつつソチラは某変なカップラーメンですけど」  サバ味噌の事である。 「ふっ。寒い冬の中、屋上で熱いカップラーメンを食べる……コレが最高なのさ」 「UFOの夏ですね」 「うむ」  ずぞぞ、と麺をすする。 「こ、これは……っ」 「…………」 「食べて味噌」 「うわあ……」 「いや、ゴメン、ミスった」 「では貰います」  と、少女もまた食べてみる。 「こ、これは……っ! ……溢れ出るサバの存在感」 「邪魔とは言わないけど、混ざり切れてはいないと思うんだ。まあ、美味しいけど」 「うむ……少し生臭いけど」 「だがそれがいい。こう、肉の生臭さを消すとかあるじゃない? あれはどうかと思うんだよねー。生臭い ままでもいいと思うんだ」 「ふーん。まあ、解らなくはないかなあ。ケースバイケースですな」 「ケースバイケース、便利な言葉だ」  くつくつ、と笑う。 「……ほう」  と、少女が溜息をついた。白くて暖かくて、甘い溜息。 「……寒い」 「まだ寒い? コッチの毛布貸そうか?」 「何か後ろが寒い」 「あー……髪切ったからかな」 「むう。それならこの寒さは……きっと君の所為だな」  と、少女がコチラに寄り添ってきた。 「って、何故コッチ来るし」 「毛布が邪魔だなあ。ぺい」  と、毛布を剥ぎ取る。 「いやー」 「ふふふふふ」 「きゃー触るなー」 「ぺたぺたぺたぺた」 「や、やめろぉー」  結局、断れずに、少女に身体を寄り添わせる事になった。 「……天の川が見える」 「一年中見えるからね。夏よりかは見えにくいけど」 「……冬の大三角形を通る、天の川。天の川銀河。アレが、私達が生きる銀河の、端っこなんだよね」 「……そうだね」 「あの向こうには、何があるのかな」 「……別の世界があるんじゃないかな」 「そっか。……その世界には、何があると思う?」 「…………誰かが見えるという事は、誰かに見られる可能性もあるって事だ。だったら、向こう側にある世 界の人も、こうやって、地球を見ているかもしれない。もしかしたら、星座の一部にしていたりして」 「そう……そうだね。そこには、私達と同じような星があって、私達と同じような人がいて、私達と同じよ うな事をしている世界があるのかもね」 「…………」  今なら、応えてくれるかもしれない。その問いに。 「……ねえ」 「……何?」 「…………。……どうして、飛ぼうとしたの?」 「…………」 「……言いたくなかったら、何て飽きた事は言わない。言わないのなら、もう、一生訊いてやらないし、聞 いてもやらない」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」  ……、駄目か……。 「……時々、夢を見るんだ」 「…………」 「空を、飛ぶ夢を」  少女は体育座りをしたまま、空をぼんやりと見上げて。  ポツリ、ポツリ、と話し始めた。まるで、星の光が降るように。  私は何処かを歩いている。道の上を、ただただ歩いている。その道は白。全てを照らし、全てを拒否する 白い光。その道の先には黒がある。真っ黒。全てを吸い込む黒。でも、きっとそれは透明。だって、そこに は何もないから。何もかもが無くなっているから。だから、それはきっと透明。そして、私はその透明に向 かって歩いてる。その私は灰色。白でも黒でもない、どっちつかずな、煙色。そんな私は、白い道の上を、 黒い透明な場所に向かって、ただ歩くの。その歩みは止められない。止めれば、もう動かなくなってしまう から。そうすれば、取り残されてしまうから。白い道の後ろからは、どんどんと別の人が来ている。それら は皆、灰色。皆、それぞれの道を歩いている。でも、その行きつく先は、皆、同じ。透明の黒。私と同じ。 皆と同じ。その透明に向かって、ただ歩くの。それは一人だったり、複数だったり、手を取り合ったり、無 理やりだったり、他の人を押し倒したり、足を引っ張ったり、頑張ってたり、面倒臭がってたり……でも、 やっぱり行きつく先は同じ。透明。そこには何もない。全てを飲み込む終演の場所。私もまた、歩いてる。 歩いて歩いて、でも歩く。でも、その時、ふと思う。何かを思う。それは思わずにはいられない。ぐるぐる ぐるぐるぐるぐるぐるぐる……頭の中が一杯になり、見るモノは全てぼんやりとして、耳鳴りがして、何も 考えられなくなる。灰色の身体は煙になり、頭の中は煙で充満する。周りの音が全部消える。何も感じなく なる。勝手に動く夢の中のように。ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……わからない。何もわからない。 わからない。わからない。わからない。わからない分からない解らない判らないワカラナイ。自分は、自分 は――  その時、自分の体が、ふっ、と浮いた。煙のように、そうやって浮いた、その途端、はっ、とした。頭は すっきりしていた。もう何も考えなくて良かった。足はその身体を支えなくて良かった。ただ浮いているだ けで良かった。そして、自分は地上を見た。空から、地上をぐるりと眺めた。地上は、ぐんぐんと移動し始 めた。地面が、地平線から地平線へと、ぐんぐんと飛んでいく。地面に置かれた、山や、建物や、街や、人 が、ぐんぐんと飛んでいく。それと同時にまた、空も飛んでいった。空に浮かぶ太陽もが、ぐんぐんと動き 始めた。太陽が地平線の向こうへ行くと、今度は月が出てきて、月が地平線の向こうへ行くと、また太陽が 現れた。その速さはどんどんと早くなっていき、朝と昼と夕と夜がどんどん入れ替わり、光と闇が入れ混ざ って、やがて灰色になり、遂に捉えられないほど早くなったその世界は、もう私の眼に何も映し出さなくな っていた。それは透明。色のない無の色。終演の色。どんどんどんどん、建物も、人も、山も、川も、大地 も、海も、太陽も、月も、星も、空も、何もかも、どんどんどんどんと周っていく。どんどんどんどん、ど んどんどんどん……ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる……。全部がもう認識できなくなっていって、全 ては透明になった。そうやって、何もかも見えなくなっていった。何もかも聞こえなくなっていった。声も 届かなくなっていった。そして、やがて私もまた。やがてこのまま、透明になっていくのだろう。  私が浮いていても、世界は変わりなく廻って行った。私がいなくても、世界は変わりなく生きていた。私 が役割を果たさなくても、その劇は変わりなく続いて行った。そしてそれはちゃんと終演の世界へと、黒へ と、透明へと、終わって逝った。  自分はその事に、何だかとても、安心したんだ。 「……だから……」 「…………」 「だから、もう。いいんじゃないかって、思ったんだ」  …………ああ、 「そうか」  この子は…… 「寂しいんだね。消えてしまいたいくらいに」  そう言うと、その子は、 「…………どうだろうね」  困ったように、でも、確かに笑った。 「でも、寂しい、か……そうかもね。誰かといても、何をしていても、何となく感じるんだ。何なんだろう ね、あの感覚は。でも、時折、ひどく感じるんだ。ふと気づくと、何時の間にか感じているんだ。そして、 そうやって少しでも感じてしまうと、もう戻れない。誰といても、何をしていても、無性に感じてしまうん だ。  ……多分、そういう人はそんなに珍しくないんだろうね。だからコレは、そんなに珍しい事じゃないんだ よ。そしてそれはそう難しい事でもなく。世界が悪いわけでも、誰かが悪いわけでもない。ただ、なんとな く。なんとなくなんだ。何かが問題とかじゃなくて、何かが原因とかじゃなくて。ただ、なんとなく感じる んだ。ソレを『寂しい』というのなら、うん、そうかもしれない。あの星々が、百年かけてやっと自分の姿 を見てもらえるくらいに。  何となく、時々、無性に寂しくなるんだ……」  ……それは、少女の言う通り、何て事の無い事で、珍しい事でもないのだろう。 「でも、何てことないんだよね。特に珍しくはない。別に小難しくも、哲学的でもないんだ。ただ、なんと なくの、寂しさ、虚しさ。それを小難しく言うのは気取り屋だ。だから私も、気取り屋なんだろう。そう言 う意味では、多分、私もそんなに寂しくないのかもしれない。でも、やっぱり、感じるんだ……」  何時もは考えないけど、ふと気づくことがある、その感覚。誰といても、何をしても、その言いようもな い感覚が付きまとう。それは寂しさか、それとも虚しさか。その感覚に気付いてしまえば、もう戻れない。 誰かといれば満足できる、それは嘘だ。その感覚は決して消える事はない。何故ならその寂しさは、外側か ら来るものではなく、きっと、内側から来るものだから。だからその感覚は、自分の皮膚の、耳の、眼の、 世界の外側にあるものじゃあ、きっと、一生かかったって消えはしない。 「そんなの、どうって事ないさ、と忘れてしまえばいいのにさ。他の人は、大人になるにつれて、社会の中 で、そう言う感覚に割り切って生きて、逝くんだろうけどさ……でも、どうにも、できないんだよね。ただ の『甘え』とか言われるけどさ……でも…………。……忘れてしまえば、こんなに幸せな事はないだろうに ね」 「…………」 「だから、そういう事だよ。不幸とか、幸せとかじゃなくて。安心したから。だからもう、大丈夫なんじゃ ないかって。もう委員は無いかって。そう思ったんだ」 「…………」  コチラは、少女から目をそらし、同じように空を見上げた。  早くその言葉に応えなければいけなかった。でなければ、この娘はこの夜空に溶けていくかと思ったから。  そしてその言葉に、コチラは。  その言葉に、コチラは…… 「……さて、どう応えるか」 「って、おいおい」 「いやー、ははは」  笑ってしまった。 「……ゴメン、何にも言えない」 「普通こういう時は、それなりの言葉があるモノじゃないの?」 「残念ながら、ありきたりな言葉しか浮かばない」 「…………役立たず」 「そう言わないでよ。それにコッチは……知ってるからさ、その感覚を」 「…………」 「でも、そうだね。コッチも、あまりよく解んないんだけどさ。でも、何となく、その寂しさは、内側から 来るものだと思うんだ。だから、何も言えない。言っても、それは無駄だと思うから。その寂しさは、自分 の世界の外側にあるモノじゃあ、消えはしない。幾ら幸福を求めても満足できないように。世界の意義を世 界の外側に求めても意味はない。結局その意義をくみ取るのは、世界の内側なのだから」  誰かの何かでないと生きられない、そんな風にならないように。 「…………」 「だから、もし、君にかける言葉があるとするのなら。それは、君自身の言葉だ」 「…………。……私の……」 「そう……君の。いや、これは願望かな。繰り返される生と終はただの自然現象にすぎず。この世界はその 存在を肯定も否定もしてはくれない。時が経てば何もかも消え変わり逝くばかりの営みに、一体、何の意味 があろうというのか。生に不変の価値はなく、そこに確かな目的はなく、未来に避けられぬ滅びが待ってい ようとも、それでも我々は今日も明日もずっと生きて、逝く。何事もなかったかのように、静かに。そんな 生き方に、何の意味があるのというのか。否、意味など無いのだ。そして、だからこそ。我々は生きてもい いのだろう。生に意味はなく、義務もない。我々は自由だ。神も、言葉も、世界も、誰も、我々の存在を証 明はしてくれず、ましてや意味など与えてはくれやしない。  だから。だからこそ、もし、そんな残酷な世界の中で、生きることに意味があるとすれば。  それはきっと、誰かに与えられるモノではなく――」 「…………」 「……って、これじゃあ、気取り屋だね」 「……それは、私の……」 「そう、君の言葉だ。最初に会った、ね」 「……でも、それでも外が恋しくなったら、どうするの?」 「……ハハハ」 「…………」 「当然の事を訊くね。それは君、勝手に誰かが応えてくれるさ」 「…………」 「ソレが言葉だからね。キャッチボールではなく、響くモノ。語れば響くってステキな事。きっと何処かで 感じてる。そうやって響き合って、ずっと響き合って、永久を満足とするのだろう。そして、今の誰かはコ チラだ。大丈夫、ちゃんと響いてあげるから」 「さあ。君は、何を語る?」 「……私は……」 「…………」 「……あの、やっぱり何か言わないとダメ?」 「こんな星が落ちそうな夜に言わないと、それは嘘でしょ」 「むむ…………」  少女は、腕の中に顔を埋めた。……その後の沈黙は、長かった。いや、そう感じただけかもしれない。眺 めている星が、全く動いてくれなかったから。しかし、やがて、語り始めるだろう。彼女の言葉を。だから、 静かに待つ。星を眺めるように……。そして……。 「……えーと」 「…………」 「あーと」 「…………」 「……あい」 「…………」 「…………」深呼吸して、言った。「アっ……I want tol have a wonderful life with you……」 「…………」 「……私と、もっと一緒に遊んでください」 「……はは」  そうか。 「あはははははははははははっ!」 「…………っ」ビクッ「……?」  うん。もう大丈夫だ。 「……あ、あの……?」  少女が困惑っぽい顔でコチラを見てくる。その顔を見てコチラは……。 「……ふっ」  笑う。 「全く持って断じて違うっ。お前の人生0点だっ」 「え、えぇー……」 「ここでは、『月が綺麗ですね(ドキドキ)』くらいいう場面だろう!」 「いえ、そんな感情はありませんので」 「ジマでっ?」 「ジマでジマで。LOVEではなくLIKEです」 「そうか……」 「そうです」 「そうかあ……」 「まあ、どっちでもいいけど」 「じゃあ、LOVEにしよう。愛は地球を救う」 「綺麗に飾った響きの良い言葉は好きじゃないなあ。大体、『地球さん』って誰だよ」 「誰だろね……」 「まあ、誰でもいいけどね」 「またそういうやる気なさげな事を言う」 「疲れた。今なら楽に飛べそうだ」 「おいおい……」 「風、気持ちいー……」  でも、そういう少女は、気持ちいいというより、何だか、ホッとしていた。まるで、足を縛っていた鎖が 取れたように。  何、何て事の無い事なんだ。寂しいとか、虚しいとかで、言葉を着飾って、気取った言い方しちゃったけ ど。よくある、ちょっとした子供の、ぐるぐるとした考え事に過ぎないんだ。こんな考え、いくら考えたっ て答えなんてないし、大体、答えなんて出さなくったって、今日も世界は廻ってる。だから、こんな考え、 どうって事ないんだよ。でも、そういう事に悩むのが、コレが意外と大事な事なんだな。そういう、どうで もよかったり、ヘンテコだったりする事に悩むのが、子供の特権であり、ほんの少しだけ、義務でもあるん だな。だって、そういう事、大人は考えてくれやしないんだから。だから、子供が代わりに考えなくちゃい けないんだよ。答えも出さずに、逝ってしまった人達の代わりに。何時か来る、その時の自分自身の為に。  そして……この子は、もう大丈夫だろう。少なくとも、何時かまた寂しさを感じても、その寂しさを乗り 越えていける。強く生きて、逝ける。だから、もう、大丈夫だ。  だから、コチラは…… 「…………あ」  優しく、少女の頭をなでた。 「ぅ……な、何」  僅かに手から逃れるように、腕の中に顔を沈めるが、それ以上は動かない。まるで猫のようだ。 「うん、可愛い可愛い」 「ば、バカにするな、このバカヤロー」 「バカという方がバカなのだ」 「うましか、カバ、FOOL」 「ははは。そんなに言うなら……なら、コッチは馬鹿でもいいよ」 「…………?」 「『Fooly Cooly』。馬鹿にカッコよくってね。『馬鹿』と『カッコいい』の違いはFとC。上一重さ」 「…………」  それを聞いて、少女は呆気にとられた。珍しい、何時もよりか多分ほんの少しだけそこはかとなく微妙に 驚いているであろう様子が伺える。そして、そんな顔を見せた少女は…… 「…………(-_-メ)」ぺしぺし 「あ、痛い。何でっ?」  何かよく解らないけど、叩いてきたのであった。 「五月蠅いバカ。もう遊んでやらん」 「え、いや、遊ぶのは相互協力というか……ていうか、そっちが遊んでと言ったのではないですか?」 「さあねー」  そう言って、また何時もの素知らぬ顔に戻る。でもそれは、きっと。子供が良くするよう な、照れ隠し。 「…………」  コッチはそれを見て溜息をつき、次いで、小さく笑った。 「……月が綺麗だね」 「……そうだね」  月がとても綺麗だった。星が綺麗だった。空が綺麗だった。風が心地良かった。  ああ、世界はとても美しい。  だから……だからこそ、終わりにしなければならない。  果てしなく物語ほど、ツマラナイものはない。これ以上は、多分、ツマラナクなってしまうから。だから こそ、終わりにしなければいけない。全ての劇には、終演を持って幕を閉じなければならない。  何時か来るその時が、一番の幸福である為に。  何時か来るその時が、せめて、安らかである為に――  だから…… 「ねえ、少女」 「何?」 「自分の事は好きかい?」 「? うーん……質問を質問で返すけど、君は私のこと好き? LIKEの方で」 「LIKEか。ああ、とても好きだよ」 「お、おおう……。…………そっか。なら、私も私を好きだと思うよ」  ……成程。 「なら、この世界で生きる、自分は好きかい?」 「? それはさっきとどう違うの?」 「ちょっと違う」 「ふーん。……まあ、さっきと同じだよ。誰かが私の事を愛してくれるなら、私はその分、自分の事を愛す るよ」 「ははは、少女らしい答えだ……」  …………。なら…… 「なら……最後に。この世界は、好きかい?」 「……何、恥ずかしいこと言ってるの」 「まあ、答えてよ」 「……そんなの、決まってるよ。好きだよ。例え世界が私を愛してくれなくても、私は世界を愛してる。そ れはきっと、生まれた時から。そして、この先もずっと……」 「そうか」 「まあ、理由なんてないけどね。なんとなくだけど」 「……そうか」 「……どうして、そんなこと聞くの?」  そう言うと、少女は……コチラの腕を掴んできた。その力はとても小さく、すぐに振りほどけるものだ。 それは多分、無意識に解っているのだろう。自分では止められやしない、と。しかし、だからこそ、容易に は振りほどけない。その小さな力はを無理に解けば、それは力強く振り捨てられ、地面へと叩きつけられる だろう。でも…… 「なんとなくだよ、少女」  でも、いかなければならない。劇には終演を。だから、この手を離すのだ。  ああ、そうとも。もう、思い残すことは何もない。大丈夫だ。もう、コチラがいなくても大丈夫だろう。 最後の遊びにしては面白かった。一番でもいいくらいだ。だから、大丈夫だ。  何時か来るその時が、一番の幸福であるから。  それはとても哀しい事だろうけど、だからこそ、コチラはこういうのだ。 「でも……ありがとう」 「……どういたしまして」  明日、この世界を飛び立とう。  第四幕「天上の星――green ticket――」……終

 最終幕「辿り着く場所――the end of world. And ......」

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